第176話・日常の帰還
式典が終わったあと、クー子は高天ヶ原稲荷大社を訪れた。
気軽に百年とか言ってしまうのは、本当に神らしいのである。
「クー子おおぉおぉぉぉ! 早すぎるんだよあんたあああぁぁぁぁ!」
だが
「もう、
主神になろうと、たとえ大人になっても、まるで母のように育ててくれた愛情は忘れられるものではない。クー子は
別に恩返しのために遊びに来るだとか、そんなつもりはない。そのつもりであれば断られてしまう。なにせ、
神とコマでは、神が借り受ける側と考えるのが通例だ。コマは神を選べないのであり、コマとして育てるのは神のエゴである。それが、この考えの根本なのだ。
「しかし、すごい神族ですよね! 超越神階を持ってるコマが居る神族は、駆稲荷だけですよ」
「これまでどおり……がいい……」
「ふふっ、そのつもりです!」
神階が上がったからといって、神階だけでしか判断できないようになるようなら叱責の対象だ。そもそも、偉ぶるのは良しとされない。相手を尊敬しあう、それが根底であり、神階はその中で得た力や認められている権限の目安でしかないのだ。
だから
「みゃーこ様、従一位になられましたが、これからも
「
ただ、みゃーこの心の成長は規格外に速かった。
「
「
従一位にちゃんとふさわしい精神性を既に持っている。あっという間に、神通力も神階に追いつくだろう。それに、クー子に似て、変化系の術以外は天才だ。みゃーこは次の世代の、クー子枠である。
「でも、そんな功績として認めざるを得ないなんて……」
ところで、クー子は麻痺している。功績として認めざるを得ない物ばかりを連発しすぎて、認めざるを得ないに対する要求値を勝手に上方修正してしまっているのだ。
「
そんなクー子に
そんなことしかしてこなかった。認めざるを得ないという領域に含まれない小さな功績は逆に持っていないのがクー子である。
みゃーこを育てたことも、間違いなく大きな功績だ。列挙されてしまうほどに。
「主神になるのはもう少し大きな功績だと……」
あと、クー子が聞いた範囲での主神になった神の功績も半端ではなかった。
下光姫は、占星及び天体神術体系を確立し、星司となった。その後、星辰に意味を与え、神代を地上にもたらせたのだ。短い期間とは言え、あれは八栄えに近かったのだ。クー子は、それしか聞いていなかったのだ。
だが、それでも、それらを総合すると……。
「下光姫様に比肩するかと……」
蛍丸の言うとおりだったのである。
功績全てを総動員すると、世界を八栄えにぐっと近づけた。クー子の名前、神事記に永劫残るのである。
「うぅ……麻痺してたのかぁ……」
指摘されて、クー子は自覚が追いついた。上ばかり見ていて、太陽に眩んだ眼はようやく晴れたのである。
「まぁでも、主神にふさわしいよクー子。ちょっと、生意気に思えちまうけどね」
「くじゅ様もそろそろ、神階の制限なくなっていいと思うんですけどねぇ……」
確かに勝手に天孫を作ったのは良くないことである。でも、そのおかげで皇神族なき今に、天孫が地上にしっかりといるのだ。
「あ、その話ならもうあるよ。次の稲荷のコマはアタシが育てるんだ! それと同時に、神階の制限は終わり。でも、主神になるのはだいぶ先だろうねぇ。ま、くーちゃんが早すぎるだけなのさ!」
三千年で主神になったのは、神産みの時代が終わって以後最速である。
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