第169話・小春
根の国から魂を呼び戻され、復活したクー子の瞳には、最も考えたくない状況が映し出されていた。
黒い神通力の嵐の中で、
従って、クー子は死から覚醒と同時に飛び出す。
「
生死の境界で手に入れたばかりの、新しい力を起動しながら。
その術は吸い上げる力を選ぶことができる。それは即ち、
クー子の尾は自由だった。赤色に変化したそれは、質量も何もかもがクー子の思いのまま。自らの形を壊さないように、それでいて自由な形を手に入れる。そんな無理難題へのクー子なりの答えだったのだ。
それを見た
瞬間
僅かに足を止めた
「?」
それは一体何なのか、その疑問に首をかしげる間に
「クルム、ごめんね! 心配させちゃったよね!」
クー子は消えて、その身は尾を伝って
「クー子……?」
理解が追いつかなかった。自分が殺してしまったはずの、最愛の神がすぐ目の前にいたのだ。
「そうだよ!」
クー子はそう言って笑う。殺してしまったというのに、何もまるで気にしていなかったように。
「クー子ぉ!」
まるで、胸の底に澱んだ悲しみの海の栓を抜いたかのようだった。
悲しいとき、人は泣けないものである。心の痛みが涙をせき止めてしまう。だが、一度安心してしまえば、まるで
その掌の上に、
「おう! 帰ってきやがったな……」
どこか、胸につっかえたような声で言葉をクー子に投げる。彼だって心配だったのだ。クー子は本当に死んでいたのだ。
「ご心配おかけしました」
と、クー子は和やかに笑う。だが、そうしている間にもクー子は
ドクドクと波打つ黒い痣が体を蝕み、そしてそれは顔にまで広がっていった。
「今も心配だ、バカヤロウ……」
痛みがないはずはない。それは、正一位の神々ですら耐え兼ねる痛痒を与える痣だ。
背を向ける
「終わらせよっか! 地上に出てきちゃった
クー子は言った。今根性で立っているだけなのだ。全身には激痛が走り、ふとした拍子に
「ん!」
「じゃあ、まねっこしてね! “天地創りし器よ、
天沼矛は創世の器だ。そうあれかしと口にして、突き立てれば容易く全ては変わる。この世界の理も、神の力の理も、司るのはただそのひとふりの矛である。
「天地創りし器よ、泰き世をもたらせたまえ!」
地から天へ光の柱が伸び、そして、暖かい日差しが降り注いだのである。
「よく出来ました!」
と、クー子は
だが、そこに後から道返しの奥、根の国から三柱の神が現れた。
「姉貴!?
そう、その三柱は
「テルちゃん!」
「うん!」
日の本の最高神が、クー子を助けるべく動いた。
「そうだ!
そして、医術の主神すら動いたのである。
「大丈夫だからね!」
そして、その痛みは最終的にクー子を蝕んでいる。責任が自分にある気がして仕方が無かったのだ。
「クー子……」
「クー子!」
「
だが、途中で気づいて驚いたのだ。
気づけば、かの天照大神すらいるではないか。
それは、この冬の終わりを予感させるような出来事であった。
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