第167話・赤化
クー子が見たのは、不思議な光景だった。真っ暗な空間の中で、淡く光る光の玉が一つの方向に向かって過ぎ去っていく。それはやがて、人へと姿を変えて、まるで祭りの最中のような街へと消えていく。
それは、場所によって景色が違う。きっと日本人だ、そう思うような姿に変わる人は着物を着て、少し古臭いような日本の街へと消えていく。ただ、自分だけが最初から人の姿で、行くべき道もわからないままに。
そんなクー子の前に、すっと眩しい光が現れた。
「あ、ごめんなさい。しまうの忘れてた……。よいっしょっと!」
その光は、まるでちょっとした失敗を恥ずかしがるようにいそいそとした雰囲気を醸し出した。すると、極光は晴れて中から美しい女性が姿を現した。
「
その光は
現れた女性の顔立ちは大人びていたが、笑うと途端に幼さが滲み出るのだ。ただ、太陽のような笑顔だった。
「テルー! どこ行っちゃったの!? 寂しいよー!」
どこからともなく声が聞こえた。
「待ってー! お友達が来てるの!」
と、
「新年祭までには帰ってくるのよー!」
そこは流石神であった。ご飯までに帰ってこいと言う感覚で、年末年始を指定してくるのである。
「はーい!」
「あはは……。うちの
ふと
「さて、わかりますか? 声の出し方、今クー子ちゃんは息をしていない。魂のみの存在です。そして、その形は、あなたの願いの形」
魂は、いつも心のそばにある。本来は輪郭を持たないはずのそれは、長く心と共にあることで形を得る準備を続ける。
ふと、クー子は自分の心の形を考えた。自分が何を望むのか、何を渇望するのか。そう、それは妖力を失わず常に持ち続けたクー子にだからわかった。
我が子を抱き寄せる手が欲しい、我が子を守る盾が欲しい。それがクー子の望みだったのだ。
だが、声の出し方はわからない。ただひたすら強く思った。
『守りたい』
それだけを強く。
それは音ではない何かになった。あまりに強い思念の波が、彼女の魂に形を与えた。
「そうでしょうね。クー子ちゃん、あなたは立派な母です。だから、願いなさい。あなたの欲する形を。それが出来るころには、あなたは地上に戻れるでしょう」
血が繋がっていないとして、それでも
すると、クー子の魂は無数の手の怪物に姿を変えたのである。
「極端すぎます! それであなたの願いを叶えられますか!?」
その手を叩き落として、
魂に形を得る準備は整っている。主神として羽化する寸前の魂。その願いまでも、道の中に置くことができた姿こそが主神だ。
クー子は考えた。これではただの化け物であると。それでは怯えさせてしまう。
そう考えると、体に持たせていた形。それも捨てられぬ要素なのだと思い返した。
「わかってきたようですね? あなたの姿を愛する子もいるのです。だから、それを捨ててはなりません。だから、思いのままに描いて」
そこにはただ、魂だけで、肉体を持っていたままの姿のクー子が居た。
「これが?」
声を発せられるようになった。
「はい、あなたの魂はあなたの姿を得ましたよ。よくやりましたね。さて、
魂の輪郭がわかった。輪郭を壊した先に、もう一つ自分の輪郭を持った。
そして一度は暴走して、異形へと変じてしまったのが良かった。
「はい……」
天才であるクー子。その発想が、
そして、
ただ、扱うのがクー子である以上、完全な完成には至っていない。
「そろそろ時間ですよ! 力は揃いました、今のあなたなら、
荒ぶる神通力を喰らい、ゆっくりと時間をかけて浄化する。それが
「はい!」
それが、なんとなくわかったクー子。そうでないとしても、どうにか止めて見せるのだと決意した。そうでなければ、
「また、
と、
地上では、御霊移しの祭りが終わったところであったのだ。
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