第164話・もう一つの戦場
三十秒待った。
その全てを、みゃーこは過大評価していたのだ。そのことに気づいて、立ち上がらねばと思ったのである。
「若輩ではございます! どうか、お話お聞き届けくださいませ!」
端から端まで届く大きな声をみゃーこは上げた。
コマたちが静まり返るのをみて、みゃーこはさらに続ける。
「コマはまだ未熟にて、
みゃーこは任命はまだであるが、事実としては成りコマとなった。この最も過酷な時期に羽化を果たした、偉大なる小さな神である。
成りコマは、神なのだ。みゃーこは、この戦が終われば小初位を拝命する予定である。だが、みゃーこを育てたのはクー子。その心の優しさが、強さが、教育を通して遺伝していた。そして、人嫌いは幸いにも全く遺伝しなかった。好きで自分を語るクー子故に、良い部分だけを遺伝させることに成功したのだ。
「あの立派なコマは誰ぞ!? 我らの心の弱きを鼓舞しおった! まっこと良き
最初に立ち上がったのは、
「あんお嬢さんは、
次に
「新米のコマはございます! なれど、
次々と伝播していく、みゃーこの勇気。それは、すべての状況を一変させ、そして神が最も望んだであろう姿を体現させた。ただ、一つを除いて。
「んで、
「肉であるな! 戦の後と言えば肉だ! 肉さえ食えば、傷は癒える!」
建神族は、ここがダメなところだ。脳髄まで全て、筋繊維で構成されているのかと思えるほど、考えが筋肉頼みなのである。すなわち、神基準の脳筋だ。
「それでは、弱り果ててお帰りになる神様が咀嚼できないではありませんか! 柔らかいものを……」
確かに肉も用意すべきと、みゃーこは思った。だが、それだけでも困るとも思ったのだ。
「柔らかいものですか!?
料理上手と言えば、
「出しゃばってよろしいでしょうか?」
そこに、一人の肌の黒いコマが立ち上がった。
「是非!」
みゃーこは即答する。それは、大黒のコマであり、ここで最年長のコマだった。ただ、恥じ入りすぎて立ち上がるのが遅れたのである。
「薬もご用意しましょう。薬師様より、いくつか伝授賜っております」
彼はバビロニアの医学の祖、エザキルである。クー子よりも年上で未だ成りコマをやっているのだ。
というのも、大黒神族は独り立ちが最も遅い神族である。治世を知り、医学を極め、地上に知らぬ薬なし。そうなってようやく一人前だ。要求されるものが高すぎる神である。イエスはこれを瞬く間に覚えた、エザキルから見た彼は天才である。
「ほな、お肉、白身魚、米、薬草。以上でよろしか?」
石売が、必要な物をまとめる。
「はい! お願いします!」
みゃーこは言った。もはやここにあるのは不安ばかりではない。目標があり、団結があり、そしてなにより和があった。
多くのコマが、自分の神の寄り代が割れるのを見たことがない。死んでも、寄り代に戻ってくるだけと思えないのだ。その逆境を全て跳ね除けてみせたのだと、みゃーこは思った。
「ほな、いきまっせ!
「オッ!」
と、まるで運動部のような声を返しながら。
ただ、一人だけ別の事を言う。
「
そう、どんな時でも
「私も参りましょう。薬草を厳選致します」
と、エザキルが
すると、両腕をがっちりと蛭子のコマたちに掴まれてしまった。
「ほな」
「いきまひょか……」
わざと暗い笑みを浮かべる
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