厳冬
第161話・決戦前
放送などもってのほか、
そんなある日のことである。すべての神と、そのコマたちは
「全神族に告ぎます。永和
それは、根の国と中津国がつながってしまったことを意味する。死者が、過去の怨霊が地上に溢れかえる前兆だ。全て神は後手に回った。夢に向かえども、それでも攻撃側ではなく守備側。戦争における不利は必ずいつもそちらにある。神は、守るものが多すぎるのだ。
「コマの皆さんは私と姉がお預かりします!」
コマたちは、幼い者から成熟した成りコマまでいろいろいる。ただ、中には壮絶な過去を送った者もいて、
「少しだけ、時間を設けます。あなた方の神は我々が必ず守りますので、しばしの別れの前に言葉を交わしてください」
神には一度だけ死を無効化する寄り代がある。だから、二回目を出撃させなければ死なせることはない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「
みゃーこは訊ねる。ダメであろうと、わかりきった顔で。
「ごめんね、みゃーこの寄り代は、まだできてないから」
それに、みゃーこでは力にならない。相手は
それは、根の国を地獄にしている
「分かっておりました。ですが、二度は行かせませんぞ! 決して、何があっても!」
みゃーこは捕縛係である。寄り代である狐面は、
「行かせない……」
「うん! 大丈夫。それにね、私が死ぬのは大分終盤かなぁ……」
力の弱い神の寄り代は、一級事変では使い捨てだ。尖兵同士の競り合いで、大半が消費される。
クー子が死ぬ頃には、ほとんどの神が戦線を離脱しているだろう。
「よ!」
そんな話をしているところに、
「クーちゃんは初めてだから、ちょっと話さなきゃならなくてね。邪魔してごめんよ」
と、
「いえ、どうかクー子様を……」
みゃーこは理解した。きっと、戦術の話なのだと。ならば、理解せずに戦うほうが危険だ。
「ん!」
「正直ね、
それでも、
「本当に無理したらダメだ! いいね!」
「わ、分かりました……」
クー子は二柱についつい気圧された。
クー子は
「じゃ、発動するのは、下級の神が戦線を離れたあとだ。じゃないと、撃墜王になっちまうから気をつけるんだよ」
戦略はただそれだけ。陣頭指揮は思兼に任せればよい。そして、大詰めとしてどこかにぬらりひょんがいるはずなのである。
本当は誰も彼も、くじける寸前まで疲れている。だからこそ、笑顔で互を鼓舞しあうのだ。
「はい!」
戦いの前に聞けて良かったと、クー子は思った。考えればそれは当然だが、いざという時に忘れてしまわないように何度も心で繰り返した。
「よし、じゃあアタシは、あっちでベテラン気取りのタマに同じこと言ってくるから。ちゃんと、話すんだよ。下手したら、寝込むんだから」
「それじゃあ、また後で!」
と、二柱は言うだけ言って去っていった。
『不安ですか?』
蛍丸が思念で問いかける。
「まぁ、ね。いつも結局戻ってきちゃうような相手だから……」
『初陣はそんなものです。ですが、案外帰ってくるのですよ』
蛍丸は刀だ。幾多の初陣を見てきた。だから、その言葉には説得力があった。
「そっか! じゃあ、気合入れよう!」
クー子は虚勢をはる。決して負けないように。
それからクー子は
みゃーこも食事が一応作れる。コマ組みは、看病する気満々になった。
二度目は出撃させない。仕事もさせない。それが二人の合言葉だった。
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