第147話・アルティメットケモナー

 クー子が自身で掘った墓穴のどん底へ、彼女の主神は降りてきた。


ミカちゃん★:クー子……とんでもない墓穴ほったねぇwwwww


 ネット文化にどっぷりと浸かり、そしてケタケタと大笑いをしながら。

 宇迦之御魂うかのみたまは、神はいないと言う人間たちが掲げる前提をさらに深く理解した。

 その前提が無い人間は大体、神々の持つ術のための力を持っていて、それを自覚している。つまり、神であるとばれていい相手だ。

 そして、焦るクー子を楽しんでいる視聴者のために一切助けない。嘲笑いに来たのだ。

 ここに至っては、稲荷の主神はまるで、キリスト教の悪魔のようだったのである。


「そんな! お助けください!」


 クー子は必死に懇願した。

 だけどそれでも、宇迦之御魂うかのみたまは救いの手は差し伸べない。


ミカちゃん★:やーだよー!

マジコイキツネスキー大佐:ミカちゃん★! のじゃロリキャラどこに置いてきた!

コサック農家:クー子ちゃんを見習ってほら、キャラ作って!

みっちー:どんな条件付けで動いてるの? そのしっぽ!

宇迦うかちゃん★:背景が今納品されました!

そぉい!:マジでおかしい……。都合よく演技したり、言動や表情と一致したり……。どうなってんだ……

ポリゴン:ところで霞比売様かすみひめは女神でいいの? 声、女騎士っぽいけど!


「イヌ科は忠誠心の高い騎士だ! そして、女神であるからして、ワルキューレと考えて相違ないだろう……」


 普段高天ヶ原たかまがはらに居る時間の長い、山眠毘売やまたべのひめ宇迦之御魂うかのみたまは遭遇率が高い。情報共有の機会も多い。よって、霞比売かすみひめは言い含められていた。クー子が放送で焦っているときは助けるべきではないと。

 言いつけ通り、霞比売かすみひめはスルーしていたのである。


「霞ちゃん……」


 助けてくれない周囲に、クー子はしょんぼりと耳と尻尾を落とした。


ミカちゃん★:建前の方を解説すりゃよかった話なのにねぇwwwホント、愉快愉快!


 本当に墓穴だったのだ。イヌ科の感情表現はしっぽだけではない。むしろ体に隠せるしっぽよりも、全身の方が表現をしている場合が多いのだ。でなければ、いちいち覗き込むようにしないとコミュニケーションが成立しなくなってしまう。


「クー子……ダメダメ……」


 渡芽わためは、普段はあんなにしっかりしているクー子なのに、放送でこんなことになってしまっていて少しがっかりした。よって、表情が稲荷恒例のチベスナになった。


「しかし、挨拶か……いろいろあるぞ! 人間相手もよく使うのは、これであるな!」


 そう言って、霞比売かすみひめはクー子に近寄って口周りをペロリと舐めた。

 妄想力豊かな大和民族のことである。大いに盛り上がったのだ。


マジコイキツネスキー大佐:ケモ百合キタ――(゚∀゚)――!!

コサック農家:ケモ成分含有量が豊富な百合! たまらんッ!!

オジロスナイパー:百合キスだぞ! これは薄い本が厚くなるな!


 ケモナー大歓喜のワンシーンである。

 しかしとて、妄想力には個人差がある。


そぉい!:いや、街中でも見かけるやん

ポリゴン:可愛いとは思うが、お前ら盛り上がり過ぎで怖い……


 ケモナー属性が極まっていない人々には普通の光景。そして、当人たちの解釈はこっちに近い。


「挨拶しただけで興奮してる……。怖い……」


 クー子もいろいろ忘れてドン引きだったのだ。


「や……大和民族よ……。正気に戻れ!」


 霞比売かすみひめも、そちらの解釈に属するのである。


マジコイキツネスキー大佐:正直に言えよ? 狙ってるんだろ?

コサック農家:ケモナー以外にはただ可愛く見えて、ケモナーは大興奮。どの層にも需要のある行動じゃん。

オジロスナイパー:※百合です、ご心配なく

ミカちゃん★:ええ!? 大和民族……


 大和民族の変態性は、神々の叡智すら及ばない領域にある。いかなるものにも潜む、エロスのかけらを見つけるのだ。


「……?」


 分かっていないのは渡芽わためである。


「狙ってなどいない! あと、貴方にはまだ早い!」


 むしろ、霞比売かすみひめは自分にも早すぎる概念だと思っている。


「そ、そうだね! すごく早いよ!」


 なにせ、クー子にすら理解できない部分なのだ。


ミカちゃん★:いや、擬人化して愛でるのはよくわかるんだよ私もね。劣情を抱くのは、全くわからない!

そぉい!:愛でるまでは神様公認設定なのか……

マジコイキツネスキー大佐:そりゃそうだろ。擬人化文化は、平安時代末期からあるぞ。鳥獣戯画と言う国宝があってだな……。

ミカちゃん★:大和民族は、森羅万象に魂を宿らせて考えるからね。ま、事実なんだけどさ……


 さらりと、証言されたことを誰も気づかない。

 万象の御魂みたまの一つ、豊穣の化身、宇迦之御魂うかのみたまの言葉なのだ。


「ミカちゃん!」


 クー子はやはり事あるごとに神バレを警戒する。


「我、もう挨拶を紹介したくないぞ……」


 霞比売かすみひめは、大和民族にドン引きだったのだ。

 放送は混沌を極めた。誰も収拾をつけられないほど。

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