第140話・感謝
「次は、
などとみゃーこは言うが、みゃーこの人化もやはり小さい。ミニマムロリータである。その面影には確かに、大人びた部分があるが、まだまだ色香とは無縁だ。やはり、とても可愛らしい子供に見えてしまう。
「ぶふっ」
だから、陽は思わず吹き出してしまった。
「なぜ笑うのです!? 25など、妙齢ではございませんか!?」
みゃーこは現代のお狐さんだ。25歳が妙齢となる。これが蛍丸などになるとまた話は変わってくる。
「年下の子もちゃんといるのですね……」
そんな会話が見た目相応で、老婆……
「だって、みゃーこすぐ大人ぶるじゃねーか! あ、俺は
前世はというと
彼女は彼女でギャルに憧れるものの、好人物であるのは間違いない。言葉は汚いが、節々に愛情が漏れ出している。彼女は知らない、自分が実は女子の憧れの的であることを。
男勝りで愛情の深い美人と言うのは、女性からも好感を得ることが出来るものである。
「今生? 前世の記憶でもあるのですか?」
「前世、安倍晴明だったって言ったら、信じる?」
無駄にドヤ顔で、陽が言った。それはもう、用意してたのではないかとすら思った。
その用意していた感が面白くて……。
「ぶふっ」
クー子が吹き出した。
「良し!」
陽は、ウケを狙っていたのだ。このあたりがやはり
「信じますよ、だってここでは不思議なことばかりですからね。お迎えが、こんなところで来るなんて。子供たちに迷惑をかけちゃいますね」
「ん? いや、帰り俺が送っていくが?」
だが、死ぬなどとんでもない。
「え? 私てっきり、神道の神様たちに導かれてあの世に行くのだとばっかり」
老婆は自分の早とちりを笑った。それはもう、とても朗らかに。
「おばあさんのお迎えにはは多分、
同じ神族の、蛍丸が言う。彼女自身見たことはないが、聞く限り過酷な環境ではなかった。
「楽しいところだったぜ! 地獄って言うなら、今の現し世の方が地獄だ。物質が豊かになりすぎて、心が貧しくなってる。ずっとずっと楽園にいて、自分から動くことも忘れてしまった」
陽は根の国を経験した、生き証人である。
根の国は、物質的な豊かさは人間の社会にも劣る。だが、人々は何かにつけてどんちゃん騒ぎ。そんな人々の間を通って、その環境を守りに向かう神々を常日頃から見る。危険を感じ、だからこそ感謝を忘れずにいられる世界だったのだ。
「昔は良かったんですけどね。みんな、感謝を忘れてしまっているんですね」
「それがいけないのよ……。あなたたちが若者への感謝を忘れたから、若者も先達への感謝を忘れた。人は、流れの中で変わっていく。そして、もっと大きな流れを作ってしまう」
もう変わることなどないのかもしれない。残りの生はあまりに少なく、だからこそ変わろうとしないのかもしれない。
「そうなのですか? 私たち、老人が忘れた? あぁ、そういえば今ご飯を食べられているのは、若い人たちのおかげかもしれませんね」
それは、間違いなく事実だ。老人ばかりの世界で、誰が食料を生産するのか。それは、誰にも不可能だ。
畑を耕し、船で漁に出る。そんな、生産者たちがいなければ社会も文化も消え失せる。生産者たちの有り余る生産量の上に、技術を磨くものたちが養われ、家が工芸品が娯楽が成り立つのである。それを、人は文明と呼ぶのだ。
「感謝せよ、謳歌せよ。って、神になる途中で絶対言われます。だから、クルムも覚えておいてね!」
これまで、クー子は
「ん! 感謝……たくさん!」
だが、
「ごめんなさい。歳を取って、傲慢になっていたのね……」
そして、
「じゃあ、クルム、自己紹介!」
少し暗い雰囲気を、打ち壊すように、大トリにクー子は自己紹介を促した。
「
戸籍もなければ、人権もなかった。ただの愛玩動物、それがクー子と出会う前の
「0歳でいいんじゃない? もうすぐ一ヶ月? 稲荷になった日が、クルムの誕生日ってことにしちゃおう!」
クー子が
「ん! 0歳……です!」
と、
今やすっかり
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