第137話・道の果へ
クー子はその後、
クー子が購入したのは、山賊面の店主が勧めてくれた油揚げセットだった。ただし、一セットではない。山賊が“油揚げの在庫がなくなるから、そこらへんで勘弁してくれ”という旨の発言をするまで、油揚げの山を築いたのである。
もちろん、そんな大量かつ種類豊富な油揚げを見て稲荷が黙っていられるはずもない。
「おぉおおおおお!!」
「クー子様、凄まじいです! これが全部油揚げなのですか!? 見たことのないものまでたくさんございます!」
もちろん、コマ組は大はしゃぎである。
それに、別に蛍丸だって無反応というわけではない。
「これは……腕がなります! この油揚げを、どう料理しましょうか!」
コマたちとは別の方向に興奮していたのである。
油揚げといっても様々だ。普通の油揚げに、太い揚げ棒、生揚げや厚揚げだってある。その全種類がここにあるのだ。
「全部油揚げだよ! 私もびっくりしたの! 油揚げってこんなに種類があるんだね! それと、ほたるんもよろしくね! また、たまちゃん呼んで、いろいろ作ってもらおう!」
なんだかんだ、クー子達は毎食油揚げを食べている。稲荷は油揚げジャンキーだけあって、その調理法もたくさん知っている。だから、玉藻前もまだ伝授できていない調理方があったのだ。
「しっかし驚いたぞ! クー子さんが、あの山賊ヅラの凶悪な外見にたじろがないなんて」
陽は当然ついてきていた。夕飯は、神の家でご馳走になるのだ。いつものこと……とはなってきているが、本来とてもありがたい話なはずである。
すっかり慣れてしまったことに、陽は気づかない。むしろ、陽の中で神と人の境界が曖昧になってきているのだ。
「ホント! クー子ちゃん、顔怖くなかった?」
と、
「あ、確かに顔は怖かったかもです! でも、今更ですよ!
だから、クー子は美醜で人を判断しない。優しい人間は、呼吸や目線の動きなどにいちいち優しさがにじみ出ているのだ。
あとは、顔にも多少現れる。どんなにこわもてでも、よく見ると目元に笑いじわがあったりするのである。
人間を人間という偏見で見なくなったのだ。だからクー子は、神と同じようにそれらの総合で判断するようになった。それを、全ての存在は勘と表現する。
「ねえ陽ちゃん。あなたのおかげかもね! クー子ちゃん、もう人間も大丈夫みたい!」
「いやいや、クー子さんが人間っていうレッテル貼りをやめたからですよ!」
陽はそれを固辞する。だが、クー子は思うのだ。
「みんなのおかげだよ! 三千年もかかっちゃったけどね……」
本当に長かった。ただ、三千年間誰も諦めてはいなかった。
この瞬間、クー子は全ての欲を満たされた。とある心理学者が言った、五階層の欲求。それらを全て満たして、その先に進んだのである。
「うわ!?」
「クー子ちゃん!?」
「クー子様!?」
「?」
「えっと……なに?」
それは、クー子も気づいていなかった。
「
「うん、そうだよ! クー子ちゃん、もうすぐ主神になるかも!」
陽は、神の歴史の特異点によく立ち会う。何せ、この
「ねぇ……何!?」
未だ気づかぬはクー子だけ。
「婚姻……」
ただ、それだけを呟いて。
それは、クー子を自分につなぎ止める最強の手段となる。
「待て、なんて!?」
陽は当然、耳を疑った。何せ女性同士の婚姻など、神々の間で許されているなどと思わないのである。
「あ、陽ちゃん。今の
とはいえ、お見合いであてがわれるのは多くの場合異性である。男神には男神の得意が有り、女神には女神の得意がある。互いに不得意を埋め合わせる関係は、どうしても異性間が多いのだ。
「す……進んでますね……」
陽はそう思ったのである。
男女を差別でなく、区別する神々であるからこうなっている。
「神だからねー」
ただ、今はのんきに、その日の宴を始めるのであった。
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