第130話・太陽神

 混沌を極める放送。そこに、クー子への救済の光はただの一筋もない。


「ふふふ! なんかよくわからないけど太陽の子が元気で、私も嬉しいわ!」


 隣で太陽神は輝く笑顔を振りまいているのに……。


「ネットの定型文で……定型文だよ! そうはならんやろって言われたら、なっとるやろがいって返すの!」


 敬語を使おうとする瞬間に飛んでくる、太陽神とは思えない冷たい眼光。クー子は従うほかなかったのである。


マジコイキツネスキー大佐:あ、これミカちゃんのパターンや! 本当は偉いっていう設定や! 脅されて、敬語禁止にされてるんや!

チベ★スナ:考察を深めておくこと!

コサック農家:キツネスキー大佐! 貴官の分析を楽しみにするであります!


 マジコイキツネスキー大佐という視聴者。既に、考察班として認知されていた。


まっちゃんテンプリ:申し上げるのが遅れました。先日、イエス・キリスト様本人が我が結社を訪れました。ジーゾ様とイエス様は別のお方だったのですね? 勘違い、深くお詫びしたいのですが、ジーゾ様のご都合いかがでしょうか?

イグセンプタス石井:私が勘違いの第一人者でしたね。本当に、申し開きのしようもございません。どうか、罰なればこの命一つで……。

アデプタ松本:大丈夫と思われますよ。ジーゾ様はとても暖かいお方です。この程度のことで、罰をお与えになるほどお怒りにならないと思います!


 魔術師達は、順調に和魂にぎたまの道を進んでいる。それは喜ばしいことなのだが……。


マジコイキツネスキー大佐:待って、世界観がいろいろ複雑すぎる! 何? ジーゾ? イエス?

ヨハネ:我らの救世主、イエス・キリスト様だと!? いや、あるいは本当に!?


 だが、それは混沌を呼び込むのだ。

 ネット民にしてみれば、ついていけないほどの複雑な設定の片鱗が見えてしまう。キリスト教徒にしてみれば、本物のイエスの目撃情報は聴き逃せるものではない。

 複雑なのも当たり前だ。何せ、神々の歴史が始まったのは宇宙開闢かいびゃくの時。幼子扱いのクー子ですら、古代史級おばあちゃんな年齢だ。

 そして、邏玉比売めぐりたまひめは化石級である。億歳単位だ。

 はるの前世は歴史級おじいちゃんと言えるだろう。


「イー君と仲いいの?」


 邏玉比売めぐりたまひめからすればイエス・キリストは、だいぶと子供である。西暦イコール年齢、つまり二千歳ちょっとである。まだ可愛いさかりだ。


ヨハネ:イー君!?

まっちゃんテンプリ:仲がいいなどと恐れ多い。ですが、一度いろいろとお話をいただきました!

マジコイキツネスキー大佐:クー子ちゃん、イエス様ってどんな神様?


 マジコイキツネスキー大佐の、情報収集が始まった。


「イエス君かぁ……あ!? なしなし! キリスト様は、とっても優しい救世主様です!」


 思わずポロリと情報が漏れ出るクー子。

 その時、コメント欄では、またしても混沌が巻き起こっていた。もはや混沌の乱気流だ。


ヨハネ:敬ってくれるのですね? 我らの救世主を!

まっちゃんテンプリ:もちろんですよ! 我らにとっても救世主です!

イグセンプタス石井:本当に、穏やかな方ですよね! いつも微笑んでらっしゃる。

ヨハネ:会ったかのようにおっしゃいますね!?

マジコイキツネスキー大佐:わかった、めぐちゃん様は天照大神あまてらすおおみかみだ!


「惜しい!」


 思わず邏玉比売めぐりたまひめ。本当にニアミスである。やってることは、天照大神だ。


「めぐちゃん……」


 もうだめだとクー子。このままでは、何もかもがバレてしまう。


「ダメダコリャ……」


 自重しろ太陽神と、陽は心の中でつぶやくのであった。


マジコイキツネスキー大佐:じゃあ、天照大神あまてらすおおみかみ死亡説があるから、下光したてる姫!

チベ★スナ:大佐! 日本神話に詳しすぎるであります!

マジコイキツネスキー大佐:古事記を読んだのさ!


 キリスト教徒と魔術師のやりとりはなんのその。もふもふ狂軍団が、考察を深めていく。


下光したてる姉さんかぁ……それもすっごく惜しいわ! ナイス着眼点!」


 もう、神々の知識ダダ漏れである。


「シラナカッタ……」


 陽も知らない神々の話が、次から次へと……。


「多分、出てこないと思う……」


 クー子は流石に、邏玉比売めぐりたまひめの正体が暴かれることはないと思っていた。

 甘かったのだ。人間の考察力を甘く見ていたのだ。


マジコイキツネスキー大佐:待て! 鷹だ! つまりラーだ! エジプト神話の!


 正解がどんぴしゃり、出てしまったのである。


「正解! ご利益プレゼント!」


 そしてそれを褒めてしまうのが、邏玉比売めぐりたまひめである。

 これから少しの間、マジコイキツネスキー大佐に地味な幸運が次々と舞い込むことになる。


「メグチャン……」


 だが、クー子は嘆いた。もう、神だとばれているのだと思った。


「アハハ……」


 だからこそ面白い。それを知っている陽は、決してクー子にそれをバラさない。

 それはそれとして、太陽神がフランクすぎて焦らざるを得ないのも事実である。


オジロスナイパー:待って、暖房がさっきから全く音しない……。

チベ★スナ:そういえば……。なんかあったかいな

ヨハネ:もしや、今拝見しているのは本物の天使様!? わずかばかりの加護が!?


 邏玉比売めぐりたまひめの性質は、インターネット越しでも影響を与えてしまった。

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