第129話・サンシャインライブ

「こ、こんこんにちは……。クー子です……。今日は、お友達が二人も来てくれてます……」


 クー子は上位の神に脅される傾向がある。本日の加害者は、邏玉比売めぐりたまひめであった。

 設定はまたしてもお友達である。宇迦之御魂うかのみたま同様の設定で脅していたのだ。


「こ、こんこんにちは……」


 本日の被害者はクー子だけにあらず。はるもまた邏玉比売めぐりたまひめに脅されていた。妖術でどうにかこうにか、普段の放送のような外見に化けていた。


「こんこんにちは! 太陽の子! 初めまして! 邏玉めぐりたまよ! 私、太陽の子との交流が初めてなの! すっごく、ワクワクしてるわ!」


 邏玉比売めぐりたまひめは、二人も脅しておきながら活き活きとしていた。

 彼女にとって、神や妖を除く全ての生命は太陽の子だ。何せ、太陽光こそが、命が生きるための糧であるから。


マジコイキツネスキー大佐:陽ネキちっす! あれ? 普段よりリアルじゃね?

コサック農家:白狐もたまらんッ!

オジロスナイパー:非もふもふは黙っとれい! 我らもふもふの信奉者なるぞ!

チベ★スナ:もふもふ要素があるなら出せ! 今すぐだ! アクセサリーをONにしろ、放送はこれからだ。HARRYHARRYHARRY!!

そぉい!:もふもふ過激派こええw

ミカちゃん★:うええ!? めぐちゃん様!!??

ナギちゃ★:掛けまくも畏き(ry

宇迦うかちゃん★:クー子さんの放送、登場人物が凄い多いです!

まっちゃんテンプリ:福音を賜りに参りました

ヨハネ:さぁ、本日も光あれ!


 混沌の坩堝るつぼがここにある。この世界に、これほどまでに混沌とした環境は存在しない。

 純粋なネット民が居て、神が居て、その偽物がいて、ファンタジー色強めの人間勢もいる。これほど多様性に富んだ視聴者層を獲得したVTuberはかつていない。

 何せ、神が視聴者になるなど稀である。


「ん? 太陽の子は、もふもふに飢えてるの? それじゃあ……」


 邏玉比売めぐりたまひめはそう言って、翼を生やした。

 モフモフタイプバード最高峰の美しい鷹の翼があらわになったのである。

 人間が翼を生やした。そんなものを見たら、西洋系ファンタジー人類は崇拝ものだ。


まっちゃんテンプリ:アークエンジェル様だ! ジーゾ様、イエス様の、御使いだ!!

イグセンプタス石井:ありがたやー! ありがたやー!

アデプタ松本:福音の国日本には数多の天使様たちがいらっしゃるのだ! あぁ、この国に生まれてよかった!

ヨハネ:神に仕える身ながら、なぜだ!? 紛い物と思えん!


 むしろ、地蔵やイエスが邏玉比売めぐりたまひめの使いである。

 とはいえ、寛容な神族だ。その程度の事は何も気に止めない。ただ、紛い物と思えないのは、彼女が本物の神だからである。

 今はまだ、画面越しに邏玉比売めぐりたまひめの力が作用していることに誰も気づいていなかった。


「どう? もふもふだよ! 最高のふかふか羽毛だよ!」


 高天ヶ原たかまがはら至高の羽毛である。触れれば、天に昇る気持ちが保証されていた。

 そんな羽毛で、邏玉比売めぐりたまひめはクー子と陽を抱いた……。


「ほわぁ……」

「すげぇ……すげぇけど……こええよ……」


 クー子はとろけ、はる戦慄せんりつしていた。仕方のないことである。それほどまでに心地よい羽であり、それほどまでに最高権威だ。


オジロスナイパー:モフモフINモフモフだと!? なんだそれ、楽園か?(真顔)

マジコイキツネスキー大佐:楽園に決まってんだろ? 俺たちのクー子ちゃんだぞ!

チベ★スナ:他の非モフモフ出演者ももしや!?

コサック農家:いや、仏がモフモフしたらカオスだろ!? あ、ほたるんは歓迎!

ミカちゃん★:クー子……羨ましいよ……

まっちゃんテンプリ:祝福が満ちている! なんと神々しい光景だろうか! 天使の戯れが今目の前に!

ヨハネ:日の出る国はやはりエデンだったのだ! 何度でも確認できてしまう。これほどまでに疑いようのない光景が……


 一部、画面越しに祈っていた。

 願わくばレリエルである。彼女なら、気負わずコラボができる。それをクー子は実現したかった。


「めぐちゃん……みんなめぐちゃんを天使って言ってる……」


 めぐちゃんと呼べとクー子は言われていた。それ以外で呼んだらお仕置きだと。

 権威の無駄遣いここに極まれりである。


「うーん……私って天使としてはなんて呼ばれてるのかしら?」


 あちらこちらに赴く神は、知らないうちに天使としての異名を持っていたりする。よって、邏玉比売めぐりたまひめも持っている可能性があるのだ。


「めぐちゃん……めぐ……めぐりたま……」


 クー子は考えるも出てこない。そんなに、天使に詳しいわけではないのだ。

 知っている天使といえば、親しい神の天使姿。それと、レリエルのみである。


ヨハネ:エノク書に示されたトゥマエル様はもしや貴方様!


 敬虔なキリスト教徒であるヨハネは、全ての天使を知っていた。偽典とされる、エノク書に記された存在まで。

 玉から連想したのである。こじ付けがすぎるようだが、その実邏玉比売めぐりたまひめはトゥマエルとして認識されていた。


「そうかも!?」


 と、邏玉比売めぐりたまひめはそれにノった。


「まさかで……。そ、そうはならんやろ!」


 敬語で返そうとしたはる邏玉比売めぐりたまひめに睨まれてやけになったのである。よってやけくそ気味に叫ぶことになってしまった。

 これには、定番の返し文句がある。


マジコイキツネスキー大佐:なっとるやろがい!

コサック農家:なっとるやろがい!

チベ★スナ:なっとるやろがい!


 と、陽は視聴者からの総ツッコミを受けたのである。

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