第117話・狐の得意技
お祭り騒ぎが終わると、クー子の
「クー子、幻術を見せておやりよ!」
「どう!? どう!?」
と、クー子は問うが、その姿は……。
「
みゃーこの言うとおりだったのである。姿ばかりか声まで幻術で包み、それは
「
この世のものと思えない美人狐二柱である。
「クー子はね、アタシらになら何時だって化けれるのさ! やるもんだろ?」
結局、神は親バカばかりなのである。
「クー子様はいつでもすごいですよ!」
だが、みゃーこ達にとっては、万能なる我が最愛の神である。
「私にもできるでしょうか……」
蛍丸も願わくば、やってみたいと思った。彼女の姿は、いくつかのキーワードが組み合わさって成立しているものだ。自由に変えられるものではない。
とはいえ蛍丸も女の子である。おしゃれなども当然したいと仕事。
「どうだろうねぇ……。こりゃ、妖力の術だ! 渇望すればするほど、できるものさ!」
と、
大概の付喪神にはできないことである。器物として仕える本質を持つ神々であるから、妖力の方がからっきしという場合が多いのだ。
その時、クー子を
「クー子だ……」
幼子というのは、事あるごとに不安になるものである。
目が覚めたとき、クー子がいなかった。その流れで、今もすぐに不安になってしまったのである。
「触られたらわかっちゃうよ……。ただの幻だもん」
クー子はそうって、頬をポリポリと掻いた。
「クー子、詠唱覚えてるかい?」
と、訊ねる
「もちろんです!」
それが何かに転用できるかと、術ならなんでも覚えておくのがクー子だ。
「じゃあ、教えてやっておくれ! アタシは忘れちまって……」
「はい!」
と元気よくクー子が答える。
「じゃ、アタシはほたるんを借りるよ!」
妖術の基礎の基、妖力を発生させる方法を
これは逆に正一位の神々の得意分野である。なにせ、気を抜くと妖力を失ってしまうのだ。なぜなら、強い欲望がほぼないから。ただ生きるだけで、ほとんど満たされているから。
虚しい生では無い。これ以上望むことがない、幸福の極地である。
「
と、頭を下げた蛍丸は、
「じゃあ、こっちは詠唱から何からやろっか!」
そう言って、クー子は懐から件の葉のようなものを取り出した。
「紙だったのですね!?」
受け取ったみゃーこは驚いたのである。
別に、植物の葉っぱである必要はないのだ。ただ、伝承としてその形が必要なだけ。色々と代用が利くのである。
「いろいろ入ってる……?」
なんでもかんでも入っているような気がして仕方がない。
「うん! いろいろあるよ! ヒトガタに……符に……葉っぱ型に……って、後で全部見せてあげるから、今は幻術! はい、“夢幻よ、姿惑わし思いのままに映し給え。我は狭間に生きるもの、ここに縁を求む”」
クー子は懐の中身の説明を切り上げて、幻術の詠唱を伝える。
この術は、狐妖怪のために作られた。人間の姿で近づいて、言葉を持って交流するためのものだ。当然、悪用する妖怪も居るが、だからといって術の理を消すわけにはいかないのである。
「ん! 夢幻よ、姿惑わし思いのままに映し給え。我は狭間に生きるもの、ここに縁を求む!」
なにせ、自分の周りの人間に化けるのが一番やりやすい。心に思い浮かべやすいのだ。ただし……。
「クルム、美化されてない?」
クー子は思わず言った。なにせ、それは普段のクー子よりさらに美しい毛並みだったのだ。
折り悪く、そこに
「お、
あんなことがあったのだ、今一人にするというなら……。と、
「お待ちください! 幻術の練習中でして……、こちらがクー子様、こちらがクルムです!」
説明してくれたのは、唯一幻術をまだ使っていないみゃーこだった。
「なんだ、そうだったのか! わりぃ、勘違いだ!」
本格的に怒る前で良かったと、
そんな一幕を超えて、幻術の練習は続く。
みゃーこは、服装をいろいろいじって遊んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます