第115話・子の心
『あの、戦いでもあったのですか?』
周囲の神々に、思念派で尋ねる。もしも戦いなのであれば、自分が眠ってしまっていたのは迷惑だったのではないかと。
「あ、ほたるんおはよー! 戦いって言うかあれは……」
クー子がどう表現したものかと苦心していると、
「一方的に術をかけられて、気づいたら相手が平伏してたって感じです!」
大人数での移動。後列の方の
『そうなのですか……』
元々出番がなかったのは結果的に良かったのであり、でもどこか寂しかった。蛍丸は、そんな時にふと思った。
『クルムは!? まだ、寝ていらしたでしょ!? ちゃんと行ってくると伝えましたか!? 直接!』
蛍丸は最も人間の子供をよく知る存在である。だからこそ、クー子に警鐘を鳴らすつもりで言った。
「よく寝てたから、大社に寝かせてるよ……?」
何を怒られているのか、クー子はまだ分かっていない。
『何をやっているのです! 幼子には、目が覚めたとき母がいないのが一番心細いのです! 今すぐお帰りください!!』
その思念波は、過去蛍丸が発した中で最も強かった。
それは当然、先頭にいる正一位の神々にも届き、よって
「そうだったのか!? クー子、今すぐ
神々は子煩悩である。だが、位が高ければ高いほど、育てたのは過去のこと。子育ての仕組みも今とは違うし、何より古すぎて引っ張り出すのに時間のかかる記憶だ。
「わかった、父様! クー子行くよ!」
そこからはもう迅速を極めた。トントン拍子で話が進み、クー子は
「
正一位は緊急用にこのような術式を持っているのだ。ただし、後から
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「クルム!!」
高天ヶ原に帰ったクー子は早速叫びながら探し回る。
『私も!』
蛍丸が言うので、クー子は答えた。
「お願い!」
人化した蛍丸と二人、クー子は大急ぎで大社の中を駆け回った。
見つけたとき、渡芽はみゃーこと
「クー子……」
「ごめんなさい、クルム! もう絶対こんなことしないから!」
クー子はそう言って、駆け寄って抱きしめる。
渡芽の心の中には何故が渦巻いていた。親に放って置かれたなんて、一度や二度じゃない。捨てられたことだってあった。
なのに相手がクー子であると、なぜこうも寂しく思ってしまうのか。わからないまま、紛らわせるために遊んでいた。
「なんで……?」
自らに問いかける、なぜ泣くのかと……。
されど涙は止まらず、次々と大粒の雫となって地面に落ちた。
「ごめんなさい! 知らなかったの。私がいないとそんなに不安になるなんて……」
謝罪とは、最も気高き者と、誇りを持たないもののみが行う行動である。
気高い神であるクー子の本気の謝罪の本質。それは、約束だ。二度とこのようにはしないとの、彼女への誓いである。
「違う……」
「クルム、それは安心ですよ! この
「心を許せば許すほど、離れるのは恐ろしいものですよね……」
「そっか……」
あぁ、自分はこの神に心をあずけたのだ。
「そうなの!?」
そういうことであれば嬉しい気もする。だが、やはり申し訳ないのがクー子である。
「うん!」
でも、
どうせ、帰ってきてくれるのだと、心の底でふと理解した。なにせ、悲しませたのみでこんなにも謝ってくれる。誓ってくれるのだ、目が覚めたとき次は必ずそばにいると。
「遊ぼ……」
だから、
ただ、その額に刻まれた小さな傷を見て、クー子は深く深く後悔をした。
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