第96話・儚

 話は二転三転、近頃巷を賑わわせている邪教の話になった。


ヨハネ:そういえば、黄金の夜明けアレイスター派という団体が邪教になったけど、神道もそう扱うのかな?

コサック農家:それ、クー子ちゃんには関係なくね? でも、煽り受けないかは心配だなぁ……

マジコイキツネスキー大佐:お稲荷さんって、日本神話の神様だしね……


 クー子の放送は良くも悪くも宗教的だ。女神自身が放送しているのだから、その特色を持つのは仕方のないことである。


惟神の道かんながらのみちはさ、聖地が全部日本国内にあるの! だから、宗教戦争とは無縁なんだ! ちなみにすごい聖地あるんだよ! 私より年上の神社!」


 それは幣立へいたて神宮のことである。天照の瞳そのものはそこにあるのだ。そして、その幣立へいたて神宮こそ最後の砦である。


「あそこはすごいですよね……。縄文語豊国じょうもんごとよくに文字と杵楔きねくさび文字の石版には驚きましたよ!」


 だが、一部の神しか知らないことがある。本当は石版は三つ。三つ目の石版にはこう書かれている……。“イネノナキト父の伊邪那岐とイエノナミノ母の伊邪那美のナアニアオイ名に於いてネノメ子の瞳マツリブムを祀ります”。

 幣立へいたて神宮の御神体、天照の瞳自体は七万年の太古からそこに眠る。

 それが、神社となったのは、その後の世……。


オジロスナイパー:まって、クー子ちゃんって空狐だよね? 一体どれだけ昔に……


 それに答えるのはクー子。


「ホームページ見てもらえればわかるけど、一万五千年以上前!」


 それは、本当に神の世だった時代。人と神の境すら、まだはっきりとしない時代の、御伽噺おとぎばなしである。


ヨハネ:そんな……。まだ、最終氷河期が終わってないはず!


 当時はまだそうだった。そんな凍える寒さを踏破するのは、人の力だけでは不可能だった。だからこそ、神が必要だったのである。


「昔過ぎて、びっくりだよね!」


 ここに至っては、人と新しい神々は同じことを思える。


「人間は気が早いって、う……」


 またしても、クー子は焦って玉藻前たまものまえの口を塞いだ。


「たまちゃん……。あとでお説教!」


 その愚痴は、クー子も聞いたことがある。


 260万年前の現人類種ホモ族誕生後真っ先にそれを見つけた、宇迦之御魂うかのみたまの愚痴である。

 “天照大神あまてらすおおみかみから、日司ひのつかさが代替わりしてから生まれればよかったものを”と、宇迦之御魂うかのみたまはごくごくたまに口にする。


チベ★スナ:いやぁ詳しいっすねぇ……やっぱりマジモン?

ナギちゃ★:あの、たまちゃん様……。失言が……

陽:クー子さん……。たまちゃんさんは、出禁がいいと思います……


 神族寄りの人々は気付く。それが、本当に神の口で語られた言葉なのだと。

 人類史に残る、数多の謎。それらのヒントは人類に与えられている。御伽噺おとぎばなし……否、王解き噺の中に散りばめられて……。

 解かれた時こそ、世界が八栄えやはえにたどり着くのだ。


「あはは……。ほんとーに! たまちゃんは今日失言多い! 普段私よりしっかりしてるのになぁ……」


 日頃の玉藻前たまものまえは、もっとしっかりとしていた。なのに今日はどうしてか、ポロリポロリと口を滑らせる。おかげで、クー子の冷や汗が止まることはなかったのである。


「面目ございません……」


 しゅん……と、耳を垂らす玉藻前たまものまえ


「まぁ、ダメダメな日もあるよね!」


 とクー子は、慰めた。でも、あとで説教は決定事項である。


マジコイキツネスキー大佐:でもそっかぁ……。日本にはそんな素晴らしい場所があったんだ……。なんで知らなかったんだろうなぁ……日本人なのに。

コサック農家:思っちゃうよ。神話の神様は本当にいるんじゃないかって。

オジロスナイパー:いるんだったら、一緒にドンチャン騒ぎしたい! 飲んで歌って、遊んで、へばるまで……


 クー子はそんな言葉に、胸をなでおろした。

 良かったのだと、設定と受け取ってくれたのだと。どうしても付いて回るのは、今神々の実在が明るみになるべきではないということ。太古に立ち返って、人と神が手を取り合うその日までは隠れてそっと、遥か未来のために神は働く。


「いいなぁ! もしかしたら、クー子って言う神様も本当にいたりして」


 と、本人が言う。おどけて笑って。


「じゃ、じゃあ玉藻前たまものまえもいますかね!?」


 設定だと、流すため、二人は自分のことを口にした。


「たまちゃんは妖怪じゃん!」


 こうして、実在疑惑から逸らしていくつもりで二人はいう。


チベ★スナ:妖怪でも神でもどっちでもいいや! 我が大和民族は、何かにかこつけてお祭りできればそれでいい!

マジコイキツネスキー大佐:お狐もっふもふのお祭りなら、俺はどこにだって行くぞ!

コサック農家:OFF会不可避!

オジロスナイパー:どうするよ? クー子ちゃん達がマジで空狐くうこ玉藻前たまものまえだったら……

ポリゴン:そりゃ、もてなして許してもらうまでよ!

そぉい!:ニッポン! ニッポン!


 なんだか、急に愛国的な雰囲気が漂い始める。

 今は若い世代こそこうなのだ。日本という国の素晴らしさを再確認しつつある世代が増えている。それは主に海外の影響である。


ヨハネ:異教だけど……いい?

陽:ダメだ! 歓迎される覚悟を決めてから来い!

ナギちゃ★:同じものを崇めているかもしれませんしね!

ヨハネ:懐ッ!!!


 なんの因果か、神々が夢を語ったそのあとで、限りある命の人々が夢を語ったのである。

 この物語は、人と神との夢物語なのだ……。



―――――――――――

今回のお話に出てくる変な言葉は、本埜作なんちゃって縄文語です。

本当は正確なものを書きたかったのですが、どうしても資料が足りなくて、一度全部漢字になおして、珍しい読み方が縄文語の名残なのかなぁという推測で無理やり作りました。

間違っていたら申し訳ございません。


発想の理由としては、わかっている縄文語、ア=私からです。

吾妻アガツマという苗字があるのは、読者様もご存知かと思います。これは、珍しい読み方であると同時に、ア=私、ガ=の、ツマ=妻、と解釈できるのではないかと思った次第です。

もし、わかるよー! という方がいらっしゃったら、ぜひコメントいただければ幸いです。

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