第95話・おもらしたまちゃん

 そんな昼食会を終えたあと、クー子はこの隙に放送をしてしまうことにした。

 稲荷神族、応じて報いる神々。ならばである、玉藻前たまものまえも油揚げを自分ももらいたい。そのためには、是非とも放送に参加したかった。

 クー子はそれを、別に求めているわけではないが、そこは稲荷の習わしである。


「こんこんにちはー! 突発お稲荷ライブ! 油揚げジャンキーキャラのクー子です!」


 そして、今日はごまかす。前回、手痛い失敗をしているクー子は、手を変え品を変えてバレないように努めているつもりだ。


「こんこんにちは! 殺生石せっしょうせきに引きこもってた系VTuber、玉藻前たまものまえです!」


 玉藻前たまものまえは、あまりに有名だ。いたるところで、萌え属性に染め上げられている。

 狐妖怪といえば彼女。もふもふといえば、彼女。そんな、有名すぎる元妖怪である。


コサック農家:たまちゃん!!!

スイフト:あれ? しっぽ五本? 天狐てんこなら三本では?

チベ★スナ:あれ? 玉藻前たまものまえって、九尾じゃなかったっけ?

マジコイキツネスキー大佐:玉藻前たまものまえは九尾の狐として、平安末期に現れたそうだ。それから、千年近く経った……。間違いなく今は天狐だ。彼女は、本物では!?

ポリゴン:その五つの尾にどれだけのポリゴンが存在するんだ!? 言え!

そぉい!:もう突っ込むな……。彼女らのマシーンに我々の常識は通用しない。


「たまちゃんはやめてください! 猫じゃないんですよ! お狐さんなんですよ!」


 玉藻前たまものまえはそれに一も二もなく反応する。だが、たまちゃんが、自分にあだ名が付けられるのであれば、定番なのだと悲しくもなった。


「どうしようたまちゃん……本物説、出ちゃった……」


 クー子はそっちが気になって仕方ない……。本物説というか、本物である。だが、いい加減クー子は気付くべきなのだ。本当に本物であると理解しているのは、妖力だの神通力だのを持つ人間のみ。ここには、ほとんどいない。


「あ、それヤバイです! どうしましょう、クー子様!? 偽物っぽいことしないと! あ、そうだ、しっぽ五本ですよー! 天狐は三本ですよー!」


 と玉藻前たまものまえは、偽物要素をアピールするものでますます怪しい。クー子も玉藻前たまものまえも全力で墓穴を掘り進んでいるのだ。


マジコイキツネスキー大佐:狐妖怪は妖力の大きさに従って尾を増やすと伝承されている。玉藻前たまものまえは日本三大妖怪に数えられるほどの、狐妖怪。つまり! 妖力が多すぎて、尻尾を減らしきれていなから、天狐なのに五本だと考えると辻褄が合ってしまう!

チベ★スナ:ナイス考察! つまり本物か!

コサック農家:もっふもふやで! あぁ、しっぽにダイブしてぇ……

スイフト:クー子ちゃんの質のもふもふも捨てがたいけど、たまちゃんの量のもふもふも捨てがたい……。

オジロスナイパー:こんなに狐妖怪と出会える桃源郷があるなんて!!!


 視聴者大盛り上がりである。それに、地味ではあるが初見が増えていた。


「なんで知ってるんですか!!??」


 事実を言い当てられた玉藻前たまものまえは思わず咆吼した。


「たまちゃん! ダメ!」


 その咆哮は、事実であると認めるようなものである。だから、クー子は冷や汗が止まらない。

 毎度毎度、どうしてこうも視聴者たちは本当のことを言い当てるのか。

 とはいえ、放送をやめるわけにも行かない。コマたちの油揚げ生活がかかっているのだ。


チベ★スナ:ん? 事実って認めたぞ……たまちゃんが!

マジコイキツネスキー大佐:やっぱ本物なんすねぇ……あれ? こんなのが住んでる日本って天国なのでは?

オジロスナイパー:もふもふ帝国ニッポンポン!

スイフト:日本バンザーイ!!!

コサック農家:世界よ! もふもふを求めるのなら、日本だ!

ヨハネ:ま、負けてねぇし! 熾天使様なら、鳥系もふもふ三対だぞ!

みっちー:洗礼名っぽい名前で、そんなこと言って大丈夫?


「あれ? 熾天使として地上に降りたことあるのって……」

 クー子は玉藻前たまものまえの口を慌てて塞ぐ。


「それ言っちゃダメ!」


 宇迦之御魂うかのみたまの名前が玉藻前たまものまえの口からまろび出るところだったのである。


マジコイキツネスキー大佐:つまり御迦ミカエルと……こういうことか……ミカちゃんって、出演してたし……

ヨハネ:そんな……嘘だ! キリスト教の神こそ、唯一の神だ!

ナギちゃ★:本地垂迹説ほんじすいじゃくせつっていうのがあるんですよ。仏様は日本の神様の別のお姿とする説です。キリストの天使様も、日本の神様の別のお姿かもしれません。あるいは、天使様のほうが先かもしれませんし! 大昔すぎてよくわかりませんね!

ヨハネ:あ、我々の天使様を日本人は神様って呼んでるの? 納得!

チベ★スナ:おい! 神話同士が融合起こしたぞ!


「あれ? ナギちゃ★さんって、花ちゃんのところの?」


 クー子は名前からもしやと思ったのである。


ナギちゃ★:はい! そのナギちゃ★です!


 そう、ナギちゃ★は神凪かんなぎだったのである。


「おぉー! いらっしゃい!」


 リアルで面識のある神凪かんなぎが放送にコメントをくれて嬉しいクー子。


「花ちゃんって……」


 またしても、玉藻前たまものまえの口をクー子は抑えた。


「それもダメ!」


オジロスナイパー:もしかして、クー子ちゃんが口を押さえてる時、たまちゃんは神様の名前口にしようとしてるのでは?

コサック農家:クー子ちゃん! 抑えるの禁止!

スイフト:たまちゃんはおもらし属性〆(._.)メモメモ


「メモらないでください!」

 不名誉すぎて、玉藻前たまものまえはまたしても咆吼したのである。

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