第88話・オンライン神遊び

『もしかして、この宇迦うかちゃん★は偽物かい?』


 葛の葉くずのはは、、ポンコツではない。ちゃんと、画面に映らないように妖力で板を出し、そこにメッセージを表示した。

 クー子はそれに書き込む。妖力の消費は、他人の術に干渉するほうが大きいが、クー子は自分がポンコツだと自覚している。


『はい、宇迦うか様を演じるつもりのVTuberさんみたいです』


 それをみて、葛の葉くずのはは少しだけ安心した。宇迦之御魂うかのみたま本人だったら、緊張することこの上ない。


「あ、そうだ! 宇迦うかちゃんさんね! 近くのお稲荷さんに挨拶くらいしたほうがいいさね! 大和民族なら、どっかで神を敬う気持ちがあったりするからね。行かないと、負い目に苦しめられるよ……」


 こういった悪ふざけやイジりに、神々は寛大である。こういった場合で、変調があるときは、自分で自分を苦しめているのだ。

 祭り好きの気のいい神々、それがその程度で怒るはずもないのに……。

 解決法は簡単だ、自己カウンセリング、神社で手を合わせるだけである。


宇迦うかちゃん★:はい、デビュー前に伏見稲荷大社ふしみいなりのおおやしろに訪れる予定でして……


 偽之御魂にせのみたまは、わざわざ遠方まで足を運ぶ予定まで立てている。信心というより、験担げんかつぎの精神で。


「おぉ! いいじゃないか!」


 と、葛の葉くずのはは満足気味である。

 伏見稲荷大社ふしみいなりのおおやしろは、大社というだけあって格が高い。本当はクー子が任せられるはずだった場所である。で、あるから、実際に任せられているのは他の正二位だ。


コサック農家:やっぱり本物では? だって、手を合わされる側みたいな発言……

チベ★スナ:だな……。ガチ葛の葉くずのは様説。あれ? 若干イメージ違う……。

マジコイキツネスキー大佐:稲荷神様は実在したんや! 日本万歳!


 なんだかんだ、宇迦之御魂うかのみたまは人気が高い。……というより、変態大国日本が、狐獣人を非常に好んでいるのだ。稲荷神族は、そのせいで人気の神である。


「ち、ちが! アタシは、そーゆーキャラなんだよ!」


 と、慌てて取り繕う葛の葉くずのは。だが、こうなってしまったが最後だ……。

 クー子は目を輝かせながら、最高の瞬間を待った。


そぉい!:慌てて否定するのが、怪しい……

ポリゴン:稲荷葛之葉様いなりくずのは万歳!!!

麗清れいせい:あ、日本神話系Vの方々ですか……掛けまくも畏き……

コサック農家:祝詞のりとぉ!!!


 葛の葉くずのはも取り込まれてしまったのである、からかわれ系稲荷VTuberに……。

 だが、彼女らは本当はUtuberだ。外のガワがない……。生身のまま写っているだけだ。


「バチ当てるよ! からかうんじゃないよ!」


 と、葛の葉くずのはは反撃するも、クー子はさらにニヤケが止まらなくなった。

 葛の葉くずのはは言っているだけである。からかわれるだけで、本当に天罰を下す気などない。


チベ★スナ:正体表したわね!

マジコイキツネスキー大佐:なんか当てられるみたいに言ってるってことは、やっぱ神なんすねぇ……

そぉい!:確定だな……。神様たちが、Vやってたんや。

みっちー:あれ? これってオンライン参拝になるの?


 まさにオンライン参拝だ。神社を守護する神と、直接話せる貴重な場である。

 ただ、それがガチだと誰も気づいていない。


「う、うぐぅ……」


 葛の葉くずのははついに、唸ることしかできなくなってしまった。


「くじゅ様……」


 ニマニマとクー子が、語りかける。


「な、なんだい?」


 葛の葉くずのはは冷や汗が止まりそうもない。


「ようこそ……」


 クー子にも仲間ができたのである。からかわれ仲間が……。


「このぉ!」


 葛の葉くずのはは、クー子をぽかぽかと叩いた。

 だが、実力的に葛の葉くずのはよりも上のクー子は、それを問題なく受け止める。


コサック農家:クー子ちゃんが嬉しそうでなにより!

マジコイキツネスキー大佐:てかさ、狐っ子同士でじゃれてるのに感動するんだが?

チベ★スナ:安心しろ、俺もだ……

ポリゴン:つかさ、マジでモデルのクォリティ!!!


 モデラーたちは、本当にそこが圧巻だ。広すぎる可動域と、細すぎるテクスチャである。

 だが、それはリアルだから当然。空狐なクー子はリアルの存在である。


「え? アレ?」


 葛の葉くずのはは、基本的には、ポンコツではない。だから、その違和感に気づいた。


「どうしました?」


 クー子が訊ねるも、今度は葛の葉くずのはがニンマリ顔である。


「いや、言わないほうが面白いね……。黙っておこう!」


 葛の葉くずのはは気づいたのだ。クー子の放送の構造に。

 クー子は神であるから、神の実在を実感している。だが、視聴者たちはそれを設定と捉えているのだと。

 そう、自身についても……。


「言ってください! 気になって眠れません!」


 クー子はそう言って、肩を掴んで揺らす。


「寝なくても問題ないじゃないか!」


 葛の葉くずのははそう言って、笑った。

 クー子が葛の葉くずのはにポカポカをやったら、ガッツリダメージになってしまうのだ。だから、クー子は無意識に遠慮した。

 狐同士じゃれあっている姿を無限に見ることができる。視聴者はそれに、ご満悦だった。


マジコイキツネスキー大佐:ここでしか摂取できない栄養素が絶対にある……


 それは、視聴者の総意となったのである。

 ママ属性を持ち、姉属性を持ち、もふもふ属性を持ち、ポンコツ属性を持つ。そんな、混沌たるキャラクターは他には存在しないであろう。

 ぶっ飛んだ、神々の遊びはまだまだ続くのだ……。

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