第82話・ウカノミタマシステム

 そんな、和やかな放送に、突如波乱の種が投下される。


宇迦うかちゃん★:スーパーチャット5000円:この前は相談に乗ってくれてありがとうございます! 見に来るの、遅れちゃってごめんなさい。


 それが、宇迦之御魂うかのみたまではないと知っているのはクー子だけである。


宇迦うか様!!??」

「そんな!? こんなところにまで御足労いただくなんて……」


 みゃーこと蛍丸は盛大に慌てた。宇迦之御魂うかのみたまは正一位、圧倒的に偉い神様である。


「ん?」


 幸運にも、その偉いという感覚に馴染んでいない渡芽の反応は薄かった。

 反応が激しかった、二人をみて、クー子はたらりたらりと冷や汗を流す。


「え……えっと……」


 ヤバイのである。彼女が本物の宇迦之御魂ではないというわけにも行かず、本物として扱わせるのもヤバイ気がする。もはや八方塞がりである。

 さらに、そこに追撃をかけるは、陰陽師……。


陽:掛けまくも畏き申し上げるのも恐れ多いですが、宇迦之御魂神。何しおはすやと何してるんですか!?、お訊ね申す。


 その文章は、祝詞構文だった。だが、その意味は言ってしまえば“先生、何やってんですか!?”にとても近い。

 そりゃそうである、ふらっと知り合いの放送を覗きに来たら、正一位の神がいたのだ。誰でもびっくりするだろう……。


「え、えと! 宇迦うか様、にお越しいただいて、とても光栄です……」


 ここは、本物の宇迦之御魂うかのみたまである、そんな設定にしてしまうつもりだ。

 むしろ、ガチ本物であるミカちゃんの隠れ蓑になりうる。


「どどど、どうしましょう……。どうしましょう!?」


 とにかく混乱するみゃーこ。


「だだだ、大丈夫です! たたたた、楽しみにいらしてらっしゃるのです!」


 それは、蛍丸も大概であった。

 不意打ちだったのだ。ネット越しでなければ、こんなに慌てることはない。表情が見えないから、気分を損ねてもわからないという恐怖があるのである。


「普段……親しげ……」


 だが、それを渡芽わために諭されて、特にみゃーこが落ち着いた。


「そうでございました! 宇迦うか様は多少の無礼で、怒られる方ではなかったです……」


 クー子の冷や汗は止まらない。宇迦之御魂の実在を知る者たちが、喋ってしまっているのだ。


マジコイキツネスキー大佐:おーい、宇迦之御魂神うかのみたまのかみが、本当に居るみたいなリアクション出てるぞー!


 みたいではない、居るのだ。むしろ、一度出演している。


コサック農家:宇迦之御魂神うかのみたまのかみって、あのお稲荷さんか!? 是非みたい!


 クー子はここだと思った。もはや針の穴を通すような感覚すら感じた。


宇迦之御魂神うかのみたまのかみ様は、あのお稲荷さん! もうすぐデビューなんだって! 狐つながりで、ちょっとお話したの! これから、お友達になれるといいなぁ……」


 願わくば、ミカちゃんが宇迦之御魂うかのみたま(本物)であると、バレないようにと願った。

 だが、誤解も解かなくてはならない。蛍丸及びみゃーこは少し緊張している。

 同時進行で、陽にLinneを送った……。


『どうしよう……、あの宇迦うかちゃん★って、宇迦之御魂神様じゃないんだ。だけど、それを言葉で放送中に言葉で伝えちゃったら、本物と面識があるのバレちゃう……』


 それはもう、言い逃れのしようがないほどの狐バレを誘発すると思った。だからこそ、ほぼ悲鳴だった。

 返信は直ぐに帰ってきた。


『なんだ、偽物か……。焦ったー! とりあえずさ、文字かなんかで、映さないようにしながら、伝えればいいんじゃね?』


 クー子はそれを即座に実行に移す。陽の存在は、クー子にとって、もはや天の助けだった。


『三人とも、この人は宇迦うか様を演じるつもりのVTuberさんだよ! 本物は、別の名前でコメントすると思うから、安心してね! でも、本物扱いするように!』


 空中に画面を出し、そこに文字を映す。だが、クー子は基本的にポンコツである。それを、上手く隠せる訳もなかった。

 すぐに、陽からLinneが来る。


『おい、映ってる!』


 だが、見ているのはクー子の視聴者たちである。これまで、幾度となくクー子の演技に楽しませてもらっていると思っている。だから、クー子に都合のいいように理解するのだ。


宇迦うかちゃん★:クー子さん、ひどいです……


 偽之御魂にせのみたまは、もはやクー子との縁を切ることすら考えた。起死回生を与えたのは、視聴者である。


ポリゴン!:翻訳班!!

マジコイキツネスキー大佐:多分こう「本当は宇迦之御魂うかのみたまが顔出し配信やる。だけど、本物だってバレたらまずい。だから、ガワがちゃんとあるというふうに偽装する」

チベ★スナ:なるほど! バレないように気を付けるギミックを、この宇迦うかちゃんに対して使用許諾を出したのか……。懐広っ!


 クー子はもはや、ここまで都合のいいことがあっていいのかと思った。

 普通に考えて、宇迦之御魂うかのみたまは実在しないというのが常識なのだ。真実は、さておき……。

 だからこそ、そんな風にご都合的に曲解された。


「うん、狐バレ警戒システムツカッテイイヨー」


そぉい!:ここでカタコトになるのが俺たちのクー子ちゃんって感じだよな……

宇迦うかちゃん★:あ、そういうことだったんですね! でも、私は宇迦之御魂うかのみたま全面押し出しで頑張る予定です。


 曲解者が代弁に代弁を重ね、巡り巡って原型は何処へやら……。

 だが、そのコメントに引っかかった者が一人……。


「あなたたちの……違う!」


 渡芽わためであった。

 今、渡芽わためはクー子との婚姻。その本当の意味すら理解しないまま、意識してしまっている。クー子を独占したいような気持ちはあるのだ。

 もちろん、それはコマとしてだ。みゃーこや蛍丸を排除したいとは考えていない。

 万が一、ハーレムになるようなことがあったら、そのハーレム系主人公は渡芽わためである。そんなこと、彼女にはまだ、知る由もないのであった……。

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