第73話・神と人と

 次の日、クー子は起きてすぐに陽に連絡をした。


『おはよう陽ちゃん。急にごめんね、ちょっと魔術師のことで知ってることあるかなって思って連絡したの……』


 その時、陽は既に起きていて、トーストをかじっていた。

 片手がふさがっているため文字での連絡が面倒くさくなり、陽はクー子に電話をかけた。Linne通話である。


高天ヶ原たかまがはら神坐かむずまります、稲荷駆兎狐毘売いなりくうこひめ。掛けまくもかしこと思えども……』

『祝詞やめて!!!』


 神につけられる毘売ひめみことは敬称である。○○様の様に相当する。

 クー子はやめさせたが、一切間違っていないのだ。人間から神に語りかけるのは、知り合いでもない限り祝詞が基本だ。


『フハハ! すまん! んで、クー子さん。今は高天ヶ原たかまがはらだろ? 神無月かんなづきだもんな! 何かあったのか?』


 だが、クー子と陽は知り合いである。知り合いになった神、特に神道での呼ばれ方をしたときは、気安いものである。


『実は、戻ってきたんだよ。魔術師の件でいろいろ大変でね。鍋石の尾崎神社のところで、かなり高度な魔術が使用された形跡があるの……。それで、陽ちゃんは、魔術師について何か知らないかなぁって……』


 万に一つ、ここで情報を得られれば御の字。

 魔術師、祓魔師、霊能力、陰陽師、これらをまとめて異能と呼ぶとする。その異能者の中でも、神に協力的な人々に情報が流れるだけでも状況はかなり変わると思った。


『ごめん。全く知らない! でも、調べられるだけ調べてみるわ!』


 協力を取り付けることはできた。

 そこで、クー子は気になることを訪ねてみた。


『あ、そういえばさ、セーラー服の神器が売ってるんだけど。要る?』


 JK、陰陽師。この二つの条件が揃うと、セーラー服が最強なのである。これはアニメが元凶だ。術とは、意味による殴り合い。JK陰陽師とセーラー服をイコールで結んでしまった、日本人の業である。


『なんでそんなのあるんだよ!?』


 神もその業に乗っかる傾向を持っている。結構俗っぽいのが、神々である。

 なにせ……。


『あー、天棚機姫あまたなばたひめ様が、趣味で作ったの。いつか絶対JK陰陽師に着せるって、10年くらい前に……』


 クー子のそんな言葉を聞いて、陽は当然呆れた。


織姫おりひめさん、何やってんですか……』


 大国主おおくにぬしなどの服を織る、高天ヶ原たかまがはらの王室御用達。だとしても、趣味にだって当然走りたい。服飾が趣味であるのは、当然。だが、たまには変わり種が作りたいのだ。

 あまりに使われないせいで、格下げされた神器である。二級神器にふさわしい力を持つが、今は三級。値段も、破格に安い。お値打ちである。


『で、要る?』


 クー子も少し悪乗りだった。


『あの、できればセーラーは勘弁していただけると……』


 昔は水干や巫女装束が強かった。アニメのせいで、セーラー最強になった。陽は少しだけ、それを避けたかった。前世が男だから……。


『もったいないなぁ……。三種の神器級なのに……』


 そう、三種の神器は、高天ヶ原に持っていくと二級である。二級は基本的に、神から直接賜るしか入手手段がないのだ。


『うそぉ!!??』


 さしもの陽も、それほどとは思っていない。天棚機姫あまたなばたひめも、息抜きがてら作ったのだろうと思っていた。


『だって、天棚機姫あまたなばたひめ様の作品だよ!』


 天棚機姫あまたなばたひめは、趣味こそ全力である。量産の時とは違い、目をギラギラさせながら機をおって居る。


『マジかよ……。神様って俗だなぁ……』


 陽は思った……。だが、そもそもの話がある。


『大和民族がそれ言う!? 神族の寝取られ話しを古事記に記したくせに……』


 それは、第十一代垂仁すいにん天皇の話である。十一代というと、古墳時代の天皇であり、バリバリに神である。むしろ、神の側面をポロリすることが結構あった。

 そんな、神の寝取られ話を赤裸々に記しておいて、しゃんとしろは無理があるのだ。

 なので、神は日本ではだらける。大和民族が遠慮しないから、神も遠慮しない。お互い奔放の中で調和を目指すのである。


『本当に……すまんかった……』


 それは、陽が晴明だったときよりもずっと前の話である。


『まだ生まれてないじゃん! って、話しはぐらかしてない? セーラー服どうするの!? 今ならおごってあげるけど!』


 クー子の財力は、かなりのもの。友人の安全のためなら、気軽に大枚をはたく。


『あ、はい……。オネガイシマス』


 陽は、もうそうとしか言いようがなかった。陽の安全を最も安く買えるのが、セーラー服。そんなものを着れば、まず呪われない。


『わかった! じゃあ、天拵あまぞんで注文しておくね!』


 ついでに、クー子は蛍丸の服を買うつもりである。服を鞘として使えるのは、便利だ。


『ちょっとまった! 今、なんて!?』


 クー子はそれに返事をする前に電話を切ってしまった。

 気がつけば、陽は学校へ行かねばならない時間だった……。

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