第64話・荒ぶるミカちゃん

「こんこんにちはー……。 稲荷クー子です……。 今日は、いつもと違う場所から配信やっていきます……」


 冷や汗たっぷりの顔のクー子。そして、配信中のこの状況。今日はもともと配信日だったのだ。


「人の子よ! 元気かえ? クー子の友達のミカちゃんじゃ!」


 あろう事か、宇迦之御魂うかのみたまが放送デビューである。しかも、謎にのじゃロリキャラでだ。そう、宇迦之御魂うかのみたまはかなり縮んでいる。

 宇迦之御魂うかのみたまは、クー子の配信をいくつか見た。玉藻前たまものまえ経由で配信を知り、あだ名のクー子で検索したらヒットしちゃったのである。


「み、ミカちゃん。いきなり過ぎると思うな……。急にコラボなんて……」


 クー子は脅されている。友達のふりをしろと。敬語も規制されている。友達だから、普通に喋れと。

 しかも、そのあだ名は天使名義から引っ張ってきたものである。ミカエルとは、ミカとエルだ。ミカが個人名、エルが天使という意味である。

 例えばルシフェル。これは伊邪那美のことなのだが、ルシフとエルに分けられる。天使ルシフだ。


そぉい!:ハイクオリティすぎるモデルなのにいくつあるんだよ!?

ポリゴン:絶対妖術つかってんだろ!?

みっちー:本当に、そのモデリング技術教えて!

マジコイキツネスキー大佐:お狐が二人! ヤバイ!!

チベ★スナ:あれ? 天国に迷い込んだ?


高天ヶ原たかまがはらじゃよ?」


 まさかの暴露。そして、天国も間違いではない。キリスト教の言い方なら、高天ヶ原たかまがはらは天国である。

 さすが神である。ネットリテラシーがガバガバだ。


「ミカちゃん……それ言って大丈夫!?」


 いつもより余計に、冷や汗が滴り落ちるクー子。狐バレリスクが、どんどん上昇している気がしている。


「大丈夫じゃ! 現人神あらひとがみにでもならなきゃ、ここには来られないからのぉ!」


 ステレオタイプののじゃロリ狐で、次々と暴露していく宇迦之御魂うかのみたま。彼女は、正直バレてもいいとすら思っている。そうすれば、神道が仏教に取って代われると思っている。日本を神道で染め上げたいのだ。そして、もっとだらけたいのだ。


マジコイキツネスキー大佐:俺は人間をやめるぞー! で、どうやったら現人神になれますか?

チベ★スナ:コイツ……ガチだ!

そぉい!:ところで、二人共尻尾一本なのね?


現人神あらひとがみになる方法じゃな? 道徳を徹底しつつ、それが苦痛にならない心を作り上げるのじゃ! 自分が生まれつき持っている道徳を理解し、それに素直に生きる。それを、赤心というのじゃ!」


 ガチだった。宇迦之御魂うかのみたまが言ったのは、本当に神になる方法。だからといって、知ったから神になれるというものではない。

 最も難しいのが、自分が生まれつき持っている道徳を理解すること。自分の心の形を自分で理解するのは何よりも難しい。


「ミカちゃん、まずいよぉ……。勝手に進めないでよ……」


 クー子はもう涙目だった。

 なにせ、主神が神の話を大暴露している。一部の神職や霊能者は、良くて同業者と思うだろう。悪ければ、神だとバレてしまう。


「クー子、何が不満じゃ!? 可愛い人の子じゃぞ、答えねばじゃろ?」


 宇迦之御魂うかのみたまは全く悪気がない。というより、宇迦之御魂うかのみたまくらいのことをやっても大丈夫なのだ。人間は、神がVTuberを名乗っているなど信じない。

 だが、宇迦之御魂うかのみたまはそんな考えではないのだ。神は日本ではだらけているのである。


「とにかくまずいの! 常識の範囲の話にしよ!」


 クー子は本気で焦っていた。下手をすればミカちゃんが、宇迦之御魂うかのみたまであるとばれるのではないかとすら思っていた。否、バレるような相手なら、一目見られた瞬間にバレる。故に、出演した時点で手遅れである。


マジコイキツネスキー大佐:いつものw

そぉい!:しっぽについて!

チベ★スナ:百年で一本って聞くけど……。

ポリゴン:化かすの得意なん?


「あ、尻尾は有名だよね! たまちゃんが、九尾って言われてるもんね!」


 稲荷神族は、しっぽの話はもう世界常識だと思っている。だから、クー子はこれなら正体を悟られずに話せると思った。


「実際いるとしたら、二本にする途中かのぉ?」


 尻尾の本数は年齢で求められる。

 逆に言うと尻尾の本数で、年齢を大まかに把握できるのだ。特に九尾である時間は短く、900から916歳の間だけである。それ以降は急激にしっぽが減る。


「うんうん! 三本から、急にしっぽ減らなくなるんだよね!」


 クー子は無意識に狐妖怪知識をばらまいている。

 三本からは、基本的に千年かけて尻尾を減らすのだ。


「そうじゃそうじゃ! 天狐から空狐への道は果てしなく遠いのじゃ!」


 と、妖怪未経験の宇迦之御魂うかのみたまが言った。宇迦之御魂うかのみたまは、九本時代を経験していないのである。みゃーこや美野里狐みのりこもそうなるはずだ。現代は狐妖怪が少ないがゆえに、発見が早く、妖怪時代をほとんど経験せずに神になるからである。


マジコイキツネスキー大佐:減っちゃうの!?

チベ★スナ:やっぱりこいつら本物では?

そぉい!:間違いないw

ポリゴン:しっぽ事情に明るすぎるw


「なんでぇ!?」


 クー子は、これは人間の間でも常識だと思っていた。


「減る代わりに、美しい尾になるのじゃ! ほれ、わしらの尾美しいじゃろ?」


 そして、宇迦之御魂うかのみたまはフリーダムだった。


「だめぇ!!」


 これも狐バレの要因になる。そんな、当然のことをクー子が学んだコラボ放送だった。

 霊能力者の歴史に刻まれる、主神が初めてUtubeに登場した瞬間がこれだったのである。

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