第48話・応報の陽
その後、ようやくクー子達は新しい日常に慣れた。VTuberの活動があって、
その中で、クー子は高天ヶ原の例大祭に参加する旨を
来る、11月3日。その日、クー子は初めて、人間の通貨を手に入れた。
銀行口座は妖術でハッキングして名義を作っておいた。クー子放送用語の手作りに該当する。悪いことではあるが、人間社会に与える影響は最小限。若干の罪悪感を感じつつも、神は所有権があれば口寄せができる。クー子は銀行から、口寄せしたのである。
「やったああああああああああ! 油揚げ買える! 植物性タンパク質買える!」
クー子はそれを、掲げてはしゃぎ回った。なにせ、三千年で初めてのことなのだ。
「クー子様、あの伝説を手に入れられるのですか!?」
稲荷神族の近年の参入者にとって、それは伝説である。黄金時代を知らない彼女らは、名前しか知らないのだ。
「おおおお!」
「でもどうしよう……。油揚げが売ってるところには人間がいっぱいいるよね?」
一瞬冷静になってしまったのが運の尽き。クー子自身が抱える問題が、最後の関門として立ちはだかる。
「そうですね……人に溢れた商店街に赴く必要があるでしょう……。そこは
クー子の
「ダメ! 人間は怖いんだよ!」
控え目に言って、幼さを
「私……人! 行く!」
今度は
「二人に行かせるくらいなら、私が行く!」
クー子は、そう決意したのである。
十二単に巫女装束、水干などが主な神の服。だが、必ず一着だけは、
時折街で見かける着物のご婦人、それはごく低確率で神である。
「クー子様!
クー子の
クー子は、衣装部屋の
「私が行くの! いつか、人間とも話さなきゃいけない時だって来るかもしれないんだから!」
クー子は水干を脱いで
「ダメ! 私! 行く!」
止める
「私は、二人のためならなんでも我慢できるの!」
と、言って、クー子は聞かなかったのである。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そのせいで、日は天に昇り、そして西へと傾き始めていた。
その頃である、救世主が現れたのは……。
『よぉ、収益どうだった?』
陽から、Linneが届いたのである。
『思ってたよりたくさん収益もらえたよ!』
誰も彼もが、食欲を忘れていた。油揚げと人間恐怖症のせめぎあいは、それほど苛烈だったのだ。
それでも、クー子は元気を装った。クー子の中で陽は、稲荷なのか人間なのか非常に曖昧な存在になっている。実際には、バリバリ現役の人間なのに。
『おう、もらえたのはいいかもだが、耳生やしたままどうやって買い物行くのか気になったんだ。どうする? 俺が代わりに行こうか?』
クー子は泣いた。あまりの優しさに、都合の良すぎる救済に。
『行ってくれるの!?』
文字だからこうなっている。だが、実際は号泣だ。
『おう、いいぜ! その代わり、妖怪に困ったときはこれからも助けてくれよ!』
本当に陽は応報の道の
『当たり前だよ!! いつでも、頼って!!』
クー子は超号泣した。滂沱の涙が海にならないことを、
『ふはは! これから、そっち行くぜ! ちょい待ってくれ……』
陽の家は、クー子の社から最も近い人間の家。いわば、ご近所さんである。
『
クー子は陽に対する、敬意が溢れた。
『
陽は現代人でもあり、平安人でもある。当然、言葉の意味もわかっていた。
陽がクー子の社を訪れたのは、それから一時間後のことだった。その日は、ブレザー姿だったが、狐耳と尻尾を生やして現れたのである。
神に最も近い陰陽師は、変化も使えるのである……。
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