第41話・二口狐
みゃーこにだけ狐面を渡したら、
その後、朝早起きして面を作るつもりでいたが、クー子は眠れなかった。なにせ明日は、VTuberにしてUtubeの皇帝の異名を持つ秋葉リン。更にはQueenオブママとすら呼ばれる、秋葉未散とのコラボだ。
デビューしたての個人勢VTuber(だと自分のことをおもっている一般神UTuber)なクー子が眠れるはずもなかったのである。
冴えてしまった目を、眠りに導くことはできず、クー子はまた夜なべした。
だが、今度はちゃんと作ったのだ。狐の仮面を。
クー子の作った面は、さすがに
やがて、みゃーこたちが起きてきた。
「おはようございますクー子様。夜なべをなされたのですか?」
神が寝ないとなれば、一番に心配するのは心労。睡眠も、神には立派な娯楽である。
「大丈夫?」
それとは対照的に、肉体を心配するのが
「大丈夫だよ! 二人共おはよう! ちょっとね、今日楽しみなことがあって」
楽しみが半分、緊張が半分。それがクー子が眠られなかった、正確な理由である。そうもなろう、ビッグイベントが予定されている。
「そういった理由でしたら、安心いたしました」
楽しみで眠ることができない。それは、相手が神だったら心配ない理由だ。
「ん?」
みゃーこが安心した理由がわからない
「あ、そうだった。あのね、
なんなら、
「本当?」
それでも、心配なのが
「うん本当! 元気だよ!」
そう言って、クー子は力こぶを作ってみせた。イメージである。
「安心……」
クー子はそれに
「まず、みゃーこ!」
それの授与は、神の世界でも少し大切な儀式。
「はい!」
クー子は狐面を取り出して渡した。
「あなたの、身代になるお面だよ。これから、妖怪退治に行くかもしれないから、作ってもらっておきました!」
身代は、仮面があればすぐにそうなるわけではない。しばらくつけたまま過ごし、儀式を経て、ようやく完成する。
「ありがとうございます」
みゃーこはそう言って受け取った。その表情は、どこか少し、寂しくも見えた。
「みゃーこ。あなたは成りコマになって、いずれ神になる。だけどね、そうなったって私たちの
成りコマとして妖怪退治を行っても、すぐに神にはならない。
「はい。今しばらく、お導きくださいませ」
みゃーこは、本当は寂しくてたまらなかった。いくら変わらないとクー子が言っても、やはり別々に住む事になる。距離が遠くなってしまうのだ。
でも、クー子はそれ以上慰めの言葉を思いつかなかった。
「
渡芽はクー子にお面を渡されて、びっくりした。なにせ、今既にかぶっているのだから。
「これ……ある……」
だから、
「それ、私のだから。渡芽ちゃん専用も欲しいかなぁって……」
クー子はそう言って、微笑んだ。
「あ、それはそれでかぶっておいて。
「
みゃーこは少し笑いそうになってしまった。二口女は、近代でも幅をきかせている妖怪である。根本となるのは、夫が妻のネグレクトを恐れること。そしてその亜種として、二口男までもが誕生している。
「うーん、どっちかというと二口狐?」
前にも後ろにも狐面、そんな
とにかく、二口女は親同士の話。
その後は、まず朝食。神楽の練習を眺めながら、クー子はDIY。社の奥の身代用の飾り棚を、面を三つ置けるように改造したのである。
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