第37話・革命の一手

 時間が出来た折、クー子ははるにLinneのメッセージを送った。

はるちゃん、急にごめんね。この前、救出した女の子のために人間の世界の製品が欲しいの。それで、人間のお金が欲しくて……。なんか、方法あったりしない?』


 もう、わらをも掴むような思いだった。人間の通貨の入手法、それがクー子には何もわからない。玉藻前たまものまえたちが来ていた夜に、チャンネル登録者数1000人を突破していたら話は別だっただろう。


『まず、収益化なんだが。チャンネル登録者数1000人、これを突破してるかが問題だ。確認してくれ』


 はるは、それを突破している。ほんの少しだけ昔に……。

 神のコマたちがブースターとなって、それを一気に超えさせたのだ。実際は八百万よりも神の総数は少ない。だが、それでも陽のチャンネルに流入したのは一万に近いコマたちだ。はるはそれで、一気に収益化申請を突破した。

 クー子は急いで自分のチャンネルを、確認する。その、登録者数は1143人。


『あ、超えてる!』


 そう、収益化の最低ラインを突破していたのだ。


『そしたら、収益化申請を行うボタンアイコンが出てるはずだ。それをとりあえず押して欲しい』


 はるに言われて、クー子はそれを探して押した。


『うん! 押したよ!』

『したら、半日もあれば申請通るだろう……。最近は早いからな!』


 Utubeの収益化審査にかかる時間は、どんどん短くなっている。Utubeにとって、Utuberはメインのコンテンツ製作者だ。サービスを手厚くしているのである。


『ありがとう!』


 クー子は、はるを侮っていた。はるの、資金調達の秘策はこれからだったのだ。


『まてまて、今から秋葉家にツブヤイッターでダイレクトメールを送るんだ。いや、会社に直接でもいいな! それで、オンラインコラボと行こうか!』


 善意で言っている部分は多い。言い始めた頃は100%そうだった。だが、途中で、自分の収益増に結びつく道筋の見つけてしまったのである。


『オンラインコラボ?』


 クー子は、そんな言葉すら知らなかった。なんなら、既に疑問があった。


『ThisCodeっていうのを使って、コラボできる。あ、でも立ち絵が必要だな。妖術で背景を適当にやればイケるか?』


 手っ取り早く、できるだけ大きな資金を手に入れるなら、クー子は秋葉家を利用するのがいい。なにせ、相手は最初から視聴者を大量に持っている。秋葉家に目をつけられたのは、もはや油田を掘り当てたかのようなことだ。


『狐バレ、しない?』


 その時、はるは思った。


『あ、あんたVTuberじゃねぇな! 顔出しだし……。でもVTuber名乗っとけ、しっぽ生えてる人間はほぼいねぇ……。そんで、狐はバレないから安心しろ!』


 ごくまれに、しっぽが生える奇形は存在する。だが、クー子のような立派なしっぽにはならないのである。


『本当にバレない?』


 クー子は不安だった。なにせ、これまで散々、狐イジりされたのだ。


『理由は言わないけど大丈夫だ!』


 その理由を理解すると、クー子の魅力が消えると思ったはるは、それを隠す。それこそ、クー子の魅力を作り出しているシステムなのだ。

 はるとしては、システムを維持したほうがお得だ。なにせ、自分にも視聴者が流れてくるかもしれない。コネクションがあるのだから、万が一と言う考え方がある。ノーリスク、ローリターンの投資のようなものだった。


『わかった! じゃあ、今から秋葉家にダイレクトメールするね!』

『おう、カマしてこい!』


 はるは、クー子を、そう焚きつけた。思いはいろいろ、クー子に拾われた少女に幸せになって欲しいだとか、自分も儲かるかも知れないだとか。

 とりあえず、放課後にでもクー子の社に出向いてみるかと、思ったのである。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 クー子は、秋葉家にダイレクトメールを送った。相手は、秋葉景光カゲミツ。秋葉家の顧問弁護士である。


けまくもかしこき、秋葉景光様。稲荷が親神むつかみみこともちて、オンラインコラボにてお誘いお受けしたく思わしき、名をクー子と申します。出会い、うれしきことこの上なく、八栄やはえの下、ともに栄えて参りたく。ともに手を取り合う望みをもう申す……』


 神のビジネス書式……。完全に祝詞のりとであった。


 それを受け取ったカゲミツは、全く意味がわからなかった。よって、その文章は秋葉孔明へと渡された。

 孔明は、秋葉の頭脳である。分からなければ、とりあえず孔明と言う風潮が秋葉家にはあり、それで解決されなかったことはなかった。


『代理の秋葉孔明です。色好いろよいお返事ありがとうございます。コラボ相手は、秋葉未散及び秋葉リンを予定しておりまして、ママ対談と言うコンセプトで企画させていただきました。クー子様には、もう少し肩の力を抜いてご参加頂ければ幸いです。どうぞ、よろしくお願いします』


 孔明とは、普段は口の悪い人物である。だが、ビジネス的な言葉遣いはもちろん可能だ。なにせ、祝詞のりとを読み解くような人物である。

 要するに孔明は、裏のことだから誰にも言わない。だから、ここでまでキャラクターを維持する必要はないと言っているのである。


 そう、孔明だって、自分の推測を疑っている。頭が悪くなったのだと、胃を痛めている。孔明は、クー子の正体を推測しきってしまったのだ。本物の神が出てくる、そんなことは人間には信じることができないのである。

 コラボの日取りは決まった。明日だ。秋葉家は、少しづつスケジュールの空き時間を確保しつつあるのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る