第36話・食育

 朝食は鮭茶漬け。渡芽わために食べさせる分に関しては、クー子は米を減らして、代わりに鮭の切り身をまるごと一つ乗っけた。ちなみに、米は5分突きの物を使ったのである。


 その迫力にたじろいだ渡芽わためであったが、食べきれなければ代わりに食べてくれると言うクー子に安心して食べてみた。すると、案外箸が進むもので、渡芽わためは食べきってしまったのである。あやかしである肉体の回復力と成長力は、普通の人間より高かったのだ。

 そして、それが終わるとクー子は木製の箱を持って中庭に出た。


「クー子様、それは一体なんですか?」

「燻製器だよ! タンパク質の多いイワシを、燻製にしたらビタミンB2がたくさん摂れるかなって」


 そんな知識は、神々にはないのである。

 神に必要な医療は、基本的に外傷に対する手当と、解呪である。ビタミンB2がなくても、妖怪はタンパク質を分解する。神ともなると、タンパク質などいらない。人から捧げてもらった食べ物である。その事実が栄養になるのだ。


「ビタミン? B2?」


 クー子は朝食を作りながら、Goggleをフル活用して知識を集めた。結果、わかったことを、みゃーこに得意げに話した。


「お肉をね、お腹の中で解いてくれるがビタミンB2らしいの! 熱には強いけど、太陽の光に弱いんだって!? 素戔嗚すさのお様みたいだね!」


 素戔嗚尊すさのおのみことは天照大神がいた頃は、なぜ和魂なのだと首を傾げられる暴虐の神だった。だが、天照大神の近くにあってはそれは別の話。彼女のそばであれば、怖くて悪さをできなかったのである。


「いわし!」


 そこへ、渡芽わためが肝心のいわしを持ってきた。

 今日は神楽の練習に手を貸しながら、いわしを燻すのである。


「ありがとう!」


 そう言って、クー子は渡芽わためを撫でた。

 それから、いわしを燻製器の中に並べ、そして桜の木を使って蒸し焼きにした。

 並べるのは少し地道な作業だったが、三人でやればあっという間に終わってしまった。ただ、少し異様な雰囲気に見えなくもなかったかもしれない。狐面の少女が混じっているのだから。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 そこからは、神楽の練習である。

 クー子は腕と足の高さに気を配りながら見ている。ちゃんとキープできているか、下がるならばどのようにして下がるのか。

 その腕が、上がらなくなってきた、頑張っても無理。そんな風になるのなら練習はそれで終了。まだまだ、筋量の底上げの段階である。


「はい渡芽わためちゃん、そろそろ今日はおしまいにしよ?」


 疲れているのは、渡芽わためも理解していた。


「まだ!」


 それでも、頑張っていないと不安なのだ。


渡芽わためちゃん。今日はね、昨日よりも長く練習できたの。でもね、今休まないと、また夜痛くなっちゃうよ?」


 筋肉痛になる一歩手前が、一番効率がいい。大国主おおくにぬしはそう言っていたのである。

 筋量が増加するのは、筋肉が損傷しているから。だが、筋繊維自体は痛みを感じる神経がない。筋肉痛は、その損傷が大きくて炎症を起こしているから、痛いのだ。


「わかった」


 昨日の痛みが今日も。それはゴメンだった。だから、渡芽わためは素直に受け入れるのだった。


渡芽わため様は、とても頑張り屋さんでございますね! いやはや、無理せぬように見張っておらねばなりませんな!」


 みゃーこはそう言って笑った。

 でも、それは笑ってもいられないこと。目を離して、オーバーワークしてしまうかもしれない。


「確かにねー! って、みゃーこも人のこと言えるの!?」


 クー子の所に来るのは、少し頑張りすぎるコマばかりである。

 幼いうちは、少し怠惰でちょうどいい。大人の感覚でまだまだは、子供の感覚でもうやばい。そんなことはしょっちゅうあるのだ。


「うぐ、確かに。かつて、同じように注意された経験が……」


 大体、最近だって、米をこぼす大失敗をやらかしたばかりだ。それだって、頑張りすぎたのが原因である。


「ふふっ……」


 渡芽わためは、それを見ているのが心地よかった。

 同じなのだと、自分はどこもおかしくないのだと、そう安心できた。


「ややっ、笑うとはひどいですぞ! わんっ! もふもふプレス!」


 怒ってはいない、だがスキンシップのきっかけとして好ましく思ったみゃーこは、狐に戻って渡芽わためにじゃれついたのである。


「あ、みゃーこ。そのまま渡芽わためちゃんに、ストレッチさせてあげて。私、ご飯作るから!」


 それはそれで、ちょうど良く。クー子もこれから食事の支度だ。

 渡芽わためは今日、午前いっぱい使って、神楽を練習していたのだ。


――――――――


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