第33話・お狐システム

 二人にはるの放送を見せつつ、その言葉を噛み砕きながらも、クー子はツブヤイッターアカウントを用意した。そのくせ、Utubeのアカウントにリンクを貼っていないのだから、筋金入りのポンコツである。


 神は気が長すぎるのである。

 そして、放送の時間だ……。


「こんこんにちはー! 油揚げ大好きクー子です! 今日も放送頑張るぞい!」


 クー子のノープランはもはや定番である。今日はなんの話をする、そんなことを決める気が全くないのだ。


そぉい!:狐の時間だああああああああああ!

ポリゴン:こんこーん!

みっちー:みんなテンション高いねぇ……

デデデ:ツブヤイッター、リンクせんの?

秋葉リン:お邪魔します!


 ちょっと前に、道入みちしおであることを告げられた二人がどちらも揃っている。


「ひえっ!? 世界一位様!?」


 驚愕が口からまろび出てしまい、慌てて噂を使って誤魔化した。

 秋葉リン、Utube内でチャンネル登録者数世界一位を誇るVTuberである。そんなもの、ツブヤイッターにアクセスした瞬間にトレンドにいつもいる。だから、よくわからないままそれを驚いたということにした。


デデデ:うちのリンは視聴者手作りですから……

秋葉リン:生命創造!!??

そぉい!:大物多すぎて怖い……

マジコイ・キツネスキー大佐:ところでさ、ヤコちゃんとかわたちゃんはいないの?

みっちー:あ、それ私も気になってた


 みっちー、秋葉未散……。彼女が動くと、秋葉家が全て興味を持ってしまうのだ。故に、秋葉家は暇していると、クー子の元に訪れるようになった。


「あ、いつもいるよ! あの二人は、私の子なんだ……。だから、一緒に住んでる!」


 コマと言ってしまうと、狐バレの可能性があると思ってそのような言い回しにした。だが、それはVTuber的にマズいのである。


マジコイ・キツネスキー大佐:子持ち?

デデデ:あー、VTuberの女子は男の影見せないほうがいいよ……。

そぉい!:てか、狐バレ危惧したんじゃね?

ポリゴン:いや、わからん。マジでわからん。実際どっち?


 冷や汗が止まらないクー子。VTuberが交際がダメだなんて、全く知らなかったのである。


「よ、ヨウシダヨ!」


 そう言いながらも、心の中では、不安が渦巻いていた。どうしようと、何度も心の中で渦巻く。

 だが、クー子は本当に幸運が続いた。これまで、狐バレを恐れて焦るという姿を視聴者は何度も見てきたのだ。

 そして、不運だった。視聴者は、クー子が狐バレを警戒して焦る姿に中毒性を感じていた。


そぉい!:なんだ、狛狐かぁ……前回コマがどうとか言ってたしなぁ……

マジコイ・キツネスキー大佐:わたちゃん人間だったよね? 巫女さん?

デデデ:そういう設定かぁ!?

みっちー:シェアハウスかぁ……

秋葉リン:ママ、ばらしちゃダメ!

ポリゴン:捨て身になりかねない伏線まで張るなんて、恐れ入ったよ


 視聴者にはこう見えたのだ。声の幼い友人とシェアハウスをして、それに狛狐を演じてもらう。そして、狛狐とバレたらまずいから、ついつい自分の子と言い張ってしまった風を演じている。

 そう、視聴者たちの脳内で、全ては狐だとバレないための努力をしている狐。それを演じている、という部分に収束する。

 なにせ、視聴者にとってはそれが一番面白いのだ。そうだと思っていじってみれば、それにふさわしい反応をくれるのだ。


「よ、ヨウシダモン!」


 なにせ、狐だとバレないための努力をしている狐、それがリアルなのだから。


そぉい!:言い張るあたり怪しいな……白状せい! 本当は狛狐だろ!?

マジコイ・キツネスキー大佐:ネタは上がってんだ!(男じゃなくてよかった……)

デデデ:やっぱり、本当は空狐なんすねぇ……

ポリゴン:実は玉藻前だったりして?


 それを、クー子は好機と感じた。


「そう! 私玉藻前たまものまえ! ほら、殺生石が最近割れたじゃん!? それで、出てきてVTuberやってるの!」


 それならごまかせると考えた。玉藻前たまものまえも、同じ稲荷神族であるのに、押し付けて万事解決と思った。

 溺れる者は藁をも掴むとはまさにこのことである。


マジコイ・キツネスキー大佐:玉藻前たまものまえは平安時代に九尾、つまり900歳。まだ天狐てんこじゃないか?


 即時ツッコミが入る。なにせ名前からして、狐が好きでたまらなそうな視聴者が居たのだ。


「タマチャンデス!」


 だが、クー子はもう、押し通るほかない気がした。


デデデ:本当は葛の葉かぁ? 


 次々と、周囲の稲荷神族の名前が上がっていく。だが、幸か不幸か、クー子は引きこもり。真名を知っている人間がいるわけもない。


「クズノハサマデス!」


 クー子は押し付けられるところに、片っ端から押し付けようとしてみた。だが、視聴者は目ざといのだ。


マジコイ・キツネスキー大佐:玉藻前たまものまえがちゃんで、葛の葉くずのはが様……。その間の年齢か……

秋葉リン:年齢の桁がおかしいよ……

みっちー:日本三大妖怪を知り合いみたいに呼んでるね!

そぉい!:いや、マジで友達説……

ポリゴン:ワンチャン、本物あるで!


 実際に知り合いである。玉藻前たまものまえが昨日クー子の家にいたなんて、視聴者たちは知る由もない……。


「しっ、シラナイヨー!」


 もはや、白々しくしかならない。

 その白々しさすら、演技で出していると思われるのだ。まかり間違って、こんなキャラクターになってしまうなど、神ですら想定外であった。


マジコイ・キツネスキー大佐:それより、ヤコちゃんとわたちゃんを見たい!


 三人揃って、その狐バレを警戒し続ける、狐系VTuberなシステムを作った。視聴者は、それにただただ感心するのであった。

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