第25話・外の目

「そういえば、外の目はどうするんだい?」


 妖怪退治をするとなった、その日にクー子は妖怪退治の必要が出た。だが本来は、管轄地の妖怪退治にはかなり大掛かりな準備が必要である。

 たっぷりと遊び、そして疲れたコマたちが昼寝をしている隙に葛の葉くずのはが言った。


「あー、それは……。近くに安倍晴明せいめいくんが転生して住んでるんですよ!」


 クー子はそれに任せようと思ったのである。それは、はるのことであるが、彼女はまだ人間である。


 稲荷神族と思っていた時間が長すぎて、人間だと言う認識が正しくできないのだ。だから、神族同士のお付き合いとして、システムに組み込まれている感覚があるのだ。例えば家守やもり神族、彼らは家を管轄地として、近くに妖怪が出現したとき管轄している神に知らせたりする。


晴明せいめい!? 晴明はるあきが、近くにいるのかい!?」


 せいめいは、はるあきという音を隠すために本人が名乗っているだけの名に過ぎない。はるあき、と発音すれば、それは真名に通じてしまう。また、狐がついていないのも、葛の葉くずのはが産んだとき、人間の男子だったからだ。当時、それでは稲荷神族になることはできなかった。


 現代では、稲荷神族は男子も受け入れるつもりがある。だが、そうなってみたら今度は晴明は少女に転生してしまったのだ。矢張やはり稲荷には、男性神族が生まれないのである。


「は、はい……! すぐそばに住んでます! 山のふもと!」


 クー子は、てっきり葛の葉くずのはのことだから知っていると思っていた。なにせ、クー子にとって宇迦之御魂うかのみたま葛の葉くずのはは別格の神だ。自分の知っていることは、知っている前提で動いてしまう。尊敬しすぎかつ、引きこもりだった、その弊害へいがいである。

 外に出なかったから、上位の神しか情報源がなかったのだ。


「そうかい! 元気なのかい?」


 葛の葉くずのはは、生まれ変わったとしても晴明はるあきの親だ。でも、今の晴明はるあき……はるの幸せは、壊すつもりがないようだ。会いにいくつもりなら、クー子に聞かなくていい。


「は、はい! とっても元気でした! あ、お話します? Linneという、ネットアプリで通話できますよ……」


 ネットアプリ、この言葉は神にも浸透している。クー子がネットを神族に開通させたせいである。


「人の世は便利だねぇ……。話はしたいさ、が! やめとくよ。今生の母親がいるだろう……。あたしは、あっちから来たら受け入れるだけさ!」


 そんな風に、言葉を発することができる葛の葉くずのはもまた、神々の中で力を持っている方である。

 そして、本題。


「クー子様、よろしくないのでは? 人に頼りきっていては、神の面目立ちません!」


 正しい事を言うのが、玉藻前たまものまえ


「あ、そっか、人か……。人……だったね?」


 言われてようやく気付く、クー子である。なぜなら、クー子の中でのはるの印象は、白狐の退魔師JKだ。つまるところ、狐で稲荷だ。


「喜々として、人間のこと話すから何かと思えば……。あんた、晴明はるあきが人間って忘れたのかい!? いや、狐っぽい顔してるけどさ……」


 なにせ、葛の葉の血が流れている。

 ……それは前世の話だ。今生では、普通の美少女である。どちらかといえば、人化した葛の葉の顔が近い。


「クー子様って、コマそだてと道だけですよね……」


 それ以外の部分は、かなりポンコツである。

 そんな、玉藻前たまものまえの言葉にクー子は反撃した。


「私悪くないもん! 晴明くんは、陽ちゃんなんだよ!」

「ええええええええ!?」


 驚いたのが、玉藻前たまものまえ。無理もなく、なぜなら玉藻前は美野里狐みのりこに、はるを見せる気まんまんだったのである。


「なんだいそれ?」


 ピンと来ていない葛の葉くずのはに、玉藻前たまものまえは言った。


「ほら、いま話題の、コマ教育放送しているVTuberです! クー子様がネット開通を奏上そうじょうしたきっかけですよ!」

「ええええええええ!?」


 時間差で、葛の葉くずのはが驚いた。


「あ、あの子……いま、そんなことやってるのかい? 関心ではあるんだけど、ちゃんと出来てるかい?」


 葛の葉くずのはは、鼻が瞬時に高くなったせいで、ポッキリと折れてしまった。


「出来てます出来てます!」

「奏上が、認められてるってことは、立派なことですよ!」


 玉藻前たまものまえと、クー子が言うと、折れた鼻は添え木されたがごとく復活した。


「そうかいそうかい! あの子は、いい子だったんだよ。当時の皇命すめらみこと※天皇陛下のことも、そりゃ重宝してたんだ!」


 なにせ、その添え木は、高天会議たかまかいぎのお墨付すみつきである。大国主おおくにぬしすら、判を押したものだ。


「その話聞きたいです! 私、泰親やすちかさんとは面識あるんですけど、晴明はるあきさんとはなくて……」


 泰親やすちかは、晴明せいめいの子孫。そして、妖怪時代の玉藻前たまものまえは一緒に妖怪退治をしたことがあった。

 その後、冤罪えんざい泰親やすちかに追い詰められるのであるが……。


「うむ、じゃあ何から話そうか……。まずは、生成なまなりの話でもしようかね……」


 生成なまなり、それは人間の魂が悪に属する道を進んだ時に生まれる怪物である。人間は、悪の道を進むのは、善の道を進むよりもっと速いのだ。一代で、踏破してしまったりもする。

 葛の葉くずのはがしたのは、そんな生成なまなりになってしまった一人の姫の話。そして、それを救った安倍晴明やすべのはるあきの話だった。が……。


「くーちゃんなにやってんだい!? あんたは、外の目をしっかり作ってくるんだよ!」


 クー子は聞くことが許されなかったのである。


「ひーん!」


 だが、自業自得だ……。

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