第20話・手作り

 渡芽わためとみゃーこが遊んでいる。そのおかげで、クー子は放送を開始することができた。かつては、みゃーこもいたずらっ子だったのに。

 コマの成長は、クー子にとっていつも早すぎた。それは、全部クー子の所為なのだ。クー子は子供に、本物の愛を供給し続ける。だから、どんどん成長してしまうのだ。

 身体の栄養、三大栄養素。それに対して、心の栄養は愛である。栄養が満ち足りていれば体が成長するように、愛が足りていれば心が成長するのだ。


「こんこんにちはー! お狐もふもふ、今日も放送開始です! 楽しんでいってね!」


 少しだけ遅れた、だから感傷に浸ってる場合じゃなかった。クー子は放送を開始する。


そぉい!:待ってたんだこれを言いたくて。つくね、つくんのねつくるんだね?(激ウマギャグ)

ポリゴン:は?(圧)

秋葉孔明:極刑だな……

デデデ:座布団及び、畳及び、地面(地殻)没収!

みっちー:ごめんね、擁護ようごできない……

春風ユエ:ママが居ると聞いてきたのにサツバツ!!

秋葉カゲミツ:あのぉ……コラボお断りですか?


 春風ユエと言うのも、株式会社秋葉家所属のVTuberだ。秋葉カゲミツも、言わずもがなである。クー子は、秋葉家という業界最王手にかなりマークされているのだ。個人勢注目株ナンバーワンとなっている。原因は、なりきり度だ。


「初見さんいっぱいだ! コンコンにちはー! 殺伐サツバツとさせないでね……。それと、コラボなんだけど。私コマ育て中だから、時間の自由が効きづらくて……」


 という理由をカバーストーリーとした。コラボできない本当の理由は、リアルで会えば、狐バレするからである。なら、オンラインコラボならいいのではないか……。そんなものはクー子に通用しない。オンラインコラボなどという言葉を、そもそも知らないのである。

 だが、カバーストーリーまで使っているのに、クー子はまたリスクを犯した。コマ育てなどという言葉は、人間界には存在しない。幸運なのは、視聴者がある程度訓練されてきたこと。コマ育てを、子育てと狛犬こまいぬが融合した言葉だと理解したのだ。


そぉい!:マントルなう! でさ、昨日のうどんなんだけど、あの色って冨士ふじ醤油しょうゆ

マジコイ・キツネスキィ大佐:なんでわかるんだよw

デデデ:あ、鍋石なべいし醤油しょうゆかぁ……。甘いんだよね?

ポリゴン:そぉい!のテクスチャの色がいいのって、その色覚が原因か?

みっちー:それよりさ、つくね美味しそうだったよ! 真似していい?

春風ユエ:いや、マジでママだよね……


「見て分かるのすごい! そうだよ、冨士醤油ふじしょうゆ! 甘いから、割り下を作るときに使ってるの! あ、でも、お刺身にかけるのもいいよ! もちろん真似していいよ!」

 ……と、完全に地元トークである。一時期大震災に見舞われた鍋石なべいしだが、復興はほぼ完了。冨士醤油もお供えの量が増えてきたのである。

 これで、住んでいる県がバレるが、クー子には問題がない。幽世かくりよにストーカーは入れないのである。


デデデ:稲野とうの在住説……。妖怪だし……

マジコイ・キツネスキィ大佐:稲野とうの幻想郷ってか!?

ポリゴン:かっぱとかも居る!?

はる:かっぱは、妖怪じゃなくて隠語いんごなんだ……

みっちー:神様なんじゃないの?


 みんな、設定として語っている。それが真実だと思う人間なんていない。陽以外……。


はるちゃん、コンコンにちは! うん、稲野とうのに住んでるよ! で、かっぱは妖怪じゃないっていうのも本当だと思う。聞いたことないもん。川はね水分みくまり神族って言って、人か龍か蛇の姿をしてるんだ……」


 そしてまた、ボロを出した。水分みくまり神族なんて、人間が知るものではない。知っているとすれば水分みくまりのかみ、である。

 さらに、リテラシーもダメダメであった。

 だから、Linneが鳴り響く。その通知が、放送に写ってしまったのである。なにせ、カメラにしている妖術が、モニターも兼ねていたから。


『おま……住所ばらすな! それと、神族の知識漏れてるぞ! 俺も知らない奴が!』


 幸運だったのは、相手がはるだったことである。


マジコイ・キツネスキィ大佐:仕込みまでやってるだと!? すげぇ……

そぉい!:没入感パネェ……醤油しょうゆから伏線かよ……

はる:お、おう……テハズドオリダナー


 そう、狐であるという事には、その一切が傷を付けなかったのだ。

 視聴者が観測したのは、住所をバラしてしまうネットリテラシーの低さを持ち、通知を切り忘れたり、うっかり神族の知識を漏らしてしまうポンコツ狐神。……を、見事に演じきっている、超演技派VTuberである。


 演者が仮面を外すことは、昨今非常に嫌われる。だが、クー子の狐キャラは仮面でも何でもない。ただの、狐の、かなり偉い、神様である。

 これ幸いと、陽は演じてることを演じた。彼女の心の中では、覚えておけという怨念が渦巻いていた。


「う……ウン、テヅクリダヨー」


 もう、クー子は、放送中に困ると、手作りと言うのが癖になっていた。


ポリゴン:出たwwww

デデデ:これ聞かないと、クー子ちゃん聞きに来た気がしねぇぜ

春風ユエ:ちょっとドジな、美人ママ……アリだなぁ!!!!!!!!


 視聴者の方も、その手作りを聞きに来ているところが既にあった。

 クー子のリアルは、全て設定として受け取られるのである。

 そんな時でも、コマたちの食事のことを考えてしまうのが、コマ持ちの神族。本当に、ただのママである……。

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