第10話・狐寝
その後少しして、渡芽の腹の虫が騒ぎ出した。
渡芽は、それにも怯えてしまったが、ここには腹の虫に怒る者はいない。
「
彼女は欲求は何もかもが満たされていない。ただ、生存のための欲求ですら。本当に、生物として存在できるかどうかの
「コンコン!」
クー子の人化に必要な音節はただそれだけ。歩きながらでも、何かをしている最中でも人化ができる。と言っても、クー子の人化は稲荷基準では大したことのないものである。
クー子はみゃーこに
「っと、無理に動いてはなりませんよ! お体が弱っているのです!」
動いた瞬間に、少しよろけてしまった
みゃーこも列記とした妖怪であり、神に育てられている。その体毛の感触は、ただの狐なぞと比べられようはずもない。
「ほ、ほふ……」
あまりの心地良さに、
「どうやらお気に召されましたか? ではでは、この体にて遊び相手となりましょう!」
その後、みゃーこは、
それは遊びであると同時に、肉体的な愛情表現だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
少しして、
「わんっ!」
本性にもどるだけ、それは簡単である。
「ご飯できたよー! 食べよ!」
今日の献立は、胃に優しい白身魚を用いたお粥である。みゃーこが風邪をひいた時の定番だ。
だが、二人共これが好きで、健康な時もたまに食卓に上げる。これは、
「
という、名前のレシピである。なお、煮汁に様々な野菜を煮溶かしているため、
「ましろ……?」
ただし、見た目はあまりよろしくない。
「うん! 味は美味しいよ!」
見た目以外の全てを兼ね備えた食品である。ついでに、クー子が丹精込めて作ったのだ。もはや、ただの食べ物ではない。
だが、
「お狐わんわん、人になーれ!」
そこで、役に立ったのがみゃーこの不完全な人化だ。誰も人間だと思わないレベルであるのが、幸いした。
「食べねば
そう言いながら、匙でお粥を掬い、
人っぽくないから、
「みゃーこありがとうね。でも、ちゃんと覚えてる? コンコン、だよ?」
と、クー子に指摘される。みゃーこは一瞬だけ、しまったという顔をした。だが、すぐに言い訳を思いつき発する。
「も、もちろん覚えております! 人らしからぬ姿を作るため、あえて! あえてなのです!」
みゃーこは、癖でわんわんと言っていた。これは、イヌ科である以上仕方のないことなのだ。
「そっかー、やっぱりみゃーこは私の誇りだよ!」
と、納得してしまうクー子に、みゃーこは少し罪悪感を感じたのであった。
だが、
渡芽にとっては、お茶は苦かった。でも、それ以外の全てがよかった。だから、悪意なんてないのだと本能が理解した。故に、お茶も我慢して飲んだのである。
食事も終わり、
「それじゃ、今日はもうねよっか!」
そんな
「そうですね! わんっ!」
戻るのは、みゃーこでもこれでできるのだ。
「暑くなったら言ってね! 狐のまま寝るから!」
いちいち変化するのが面倒くさく、クー子にとって久しぶりの
「遠慮はいりませんからね!」
その日、二匹の神獣と一緒に
暑いということは、
枕は、クー子の尻尾。
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