第8話・今更
行きは音速、帰りは背負った少女のためにゆっくり歩いたクー子。ようやく
「お帰りなさい! クー子様! ……背中に、どなたか?」
帰ってきたクー子を見てみゃーこは背中の少女に気がついた。
「ただいま! 困っちゃったんだよ! 出た妖怪が
そう言って笑うクー子を見て、みゃーこはとってもクー子らしい行動だと感じた。そして、今平気な顔で人間を自分の背に乗せていることも、クー子らしい。
それでも、みゃーこは敏い
「とりあえず、お布団にご案内しましょうか!」
八畳ほどの居間、そこに布団が敷かれていた。少し曲がってはいるものの、みゃーこが一人で頑張ったのだと思うと、クー子は少し感動したのである。
「お布団敷いてくれたんだ? ありがとう!」
クー子は少女を布団に寝かせた。
そして、クー子は全ての危機を脱する。みゃーこという存在がクー子にとって、どうしようもないほどの安心だったのだ。
神がコマを愛するのではない。コマが神を愛するから、神はコマを愛さずにいられないのだ。それは、クー子の子育てから
「何の! しかし、大丈夫でございますか? 人の子で、ございます……」
みゃーこには、一つだけ急がねばならないことがあった。少女の目が覚める前に、クー子がこの少女が人間であることを理解させなくてはならなかった。
少女が目覚める前ならまだ、みゃーこが代わりに受け止めればいい。クー子の人間に対する恐怖を……。
「そ……そうだよね……。人間だ……。人間……」
気を抜いた瞬間ふつふつと湧き上がる恐怖。その根本にあるのは、まだ子狐だった頃の記憶だ。
ただ役に立ちたかっただけ。役に立とうと、頑張っては失敗を繰り返してしまっただけ。それなのに、クー子はあっという間に村八分にされた。
村人にとっては、ただの
おそらく、クー子のそれが知られていれば、村人たちがクー子を許していれば。きっと、家守神族の主神はクー子になっていただろう。
だが、そうならなかったのは、クー子が愛されていたのではなかったからだ。ただ、愛玩されていただけだからだ。
そのせいで、クー子は一度
「はい、人間です。ですが、外はどうでしたか? 時代は、変わったのではありませんか?」
みゃーこが拾われたのは、ここ20年のことである。故に、朧げながら一昔前の
その時、折り良く、Linneの通知音が鳴り響く。クー子はLinneの利用は始めたものの、友達は陽だけである。
『すまない! 一応あのあと、ダメ元で親に相談の電話をかけたけど、俺が育てるのはやっぱり無理だ!』
そんなの、わかりきっているのに、陽は確認をしてくれた。それが、クー子には嬉しかった。
説明だって難しかったはずだ。冷静に考えれば、子供を拾いたいなんて話をどう説明するのか、クー子には思いつかなかった。
でも、陽はそれをやったのだ。きっと、いらぬお叱りを受けただろう。
「人も妖怪も、一緒なのかな?」
クー子はみゃーこに訊ねた。みゃーこは心が先に育った。体はまだ追いついていない。
「ええ、いろいろなのでございます。同じと言えるものはございませんとも!
みゃーこは着実に道を進んでいく。稲荷に愛されて育ったコマとしても、誇らしいほどの成長だった。
「よく考えたら、今日人間といっぱい出会ったや! 今更、怖がれないね!」
それは、とても強引な
それでも、クー子の手は未だ震える。やはり、人間が怖いのだ。それでも、陽という人が居た。クー子は人間に対して、恐怖と同時に希望を抱き始めたのだ。
「良き出会いでもあったのでございますか?」
みゃーこは、クー子をどこまでも信頼している。自分を愛さなくなる可能性など、毛ほども考えない。誰かに取られるなんて、発想がない。
「うん! あ、陽ちゃん、
だが、代わりにみゃーこは、どんなどうってことないところでショックを受けた。
「そんなの、嘘でございます!!!」
でも、クー子は、陽がそのうち
クー子は陽にLinneを返す。
『ごめんね、無理に確認してくれてありがとう。あとは、あの子の意思に任せることにするよ!
それから、クー子はみゃーこに話した。陽のことを、出くわした可笑しな
みゃーこは陽のことにはショックが大きかったが、
真面目な話に潜む、とんでもなくくだらないことは、ときに心を和ませるのだ。
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