愛妻弁当
ツヨシ
第1話
同僚が結婚した。
そりゃおめでたいことで、と言いたいが、俺は言えなかった。
その理由は同僚が、仕事の合間を見ては嫁の自慢話をするようになったからだ。
それはおのろけで済まされるレベルではなく、皆それには辟易していたものだ。
特に俺は、三年付き合った彼女にふられたばかりなのだから。
気分悪いことおびただしい。
同僚の奥さん自慢の中心は、愛妻弁当だ。
お昼になると、すぐに食べずに周りの同僚全員に見せびらかして能書き御垂れてから、やっと食うのだ。
食っている間も嬉しそうになにかぶつぶつと言っている。
なんか気味が悪いし腹も立つ。
そんなある日、いつものように愛妻弁当を見せびらかしに同僚が俺のところに来た。
「本当に料理が上手で、特にこの手作りハンバーグがほんと、口の中でとろけるようで」
俺は切れた。
プツンと。
俺はそのハンバーグをわしづかみにすると、床に叩きつけたのだ。
同僚はものすごくびっくりしていたが、特に何も言わなかった。
次の日から、同僚の嫌がらせが始まった。
俺が得意先にだす資料をシュレッダーにかける。
俺のパソコンのリサーチデーターを消去する。
俺の悪口を得意先に言いふらす。
得意先の偽のデータを作成する。
などなど、あれやこれや。
本人はばれないようにやっていたつもりのようだが、やり方ががさつでおまけに繰り返すものだから、そのうちに会社じゅうの人間の知ることとなった。
同僚は俺に対する嫌がらせでやっていたのだが、結果として会社に損失を与えることばかりなので、とうとうくびになってしまった。
おまけに事情を知った新婚の妻からは「そんな人とは思わなかった」と言われ、一方的に離婚されたのだ。
会社も首になり、ぞっこんだった妻からも離婚された同僚は、しばらくして自ら首を吊った。
まさかハンバーグ一つで人が死ぬとは、俺も思わなかったが。
さぞかし後味の悪い思いをするかと思ったが、俺はそれどころではなくなった。
それは食べ物の恨みは怖いと言うか。
何故なら死んだ同僚が毎晩欠かさず俺の枕元に現れ、あの時のハンバーグについての恨みつらみを朝までつぶやくのだから。
終
愛妻弁当 ツヨシ @kunkunkonkon
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