哀章

「加賀美さん」

「なんですか?」

「これをつけてください」

渡されたのは、ヘッドマウントディスプレイだった。

「これをつけてください」

俺は、笑いながら、

「ゲームでもするんですか?」

「ソード何ちゃらの世界ではありません。これからある世界を体験していただきます」

「まぁ分かりました」

「では、加賀美さんどうかお気をつけて」

「え?」

俺は、意識を失った。


俺が目を覚ますと、覚えある部屋だった。

ここは、小学校時代に住んでいたマンションだった。

よく見ると子供用の勉強机とベットが一体になっているところに寝ていた。

まさかこれは、

「直也〜いつまで寝ているの、ご飯食べる時間がなくなるわよ」

「分かったー今行くよー」

あれ?今声を出していないのに、返事をしている。

しかも体が思い通り動かない。

突然、天使が脳内に話かけてきた、

「加賀美さんには、過去の出来事の追体験をしていただきます。これから起こる出来事は、全てあなたの記憶です」

絶句した。

見たくない、忘れたい過去を強制的に見せられるのか俺は、逃げたくなった。

だが、無情にも時は進んでいき幼少期の俺は、学校に向かった。


小学校時代の自分を見ると暗い幼少期を過ごした事が心に傷をつけてくる。

放課後になるとよく遊んでいた、男子の虎ちゃんと遊ぶ事になった。

「直ちゃん、またあとでー」

「またあとでねー」

この頃は、スマホもなく携帯電話もない時代で口約束が主流だった。


待ち合わせ場所にワクワクしながら待っていたが、虎ちゃんは来なかった。家に帰ると虎ちゃんから電話が来て今日は遊べないと連絡がきた。

これが何回も起こった。

だが、ある日友達伝いに違う友達を遊んでいることを知ったのだ。

「虎ちゃんは、違う友達と遊んでいるよ、直ちゃん…」

「そうなんだ…」

心にすっぽり穴が空いた。

その日食べた夕食の味はしなかった。

それからの記憶がなかったがただただ悲しかった。


この出来事は、鮮明に今も思い出せる。

冷静に考えればめんどくさく、ただ利用されていたんだと思う。


次の日、目を覚ますと少し身長が高くなっていた。

まさか、

「直ちゃんー部活は?」

「分かっているってー」


中学生時代は、陸上部に所属していた。

小学校時代のトラウマはあったと思うが心機一転で頑張っていた。


陸上部に仲の良い、森という男がいた。

走る早さも同じくらいでレギュラーメンバーを競っていた。

いつも通り、朝の部活に向かうと森は、

「直也ーお前好きな人いるか?」

「まぁここだけの話、教えてくれよ」

「はぁーそれよりも部活しようぜ」

この話は、良くないと思い話を逸らした。

だがそれでもしつこく効いてきたので、つい話してしまった。

朝の部活を終え放課後になる頃には、噂が出回っていた。

やはり話すべきではなかった。

森に詰め寄ると、

「おれが、言った証拠はあるのか?まぁいいじゃないか。部活しようぜ」

何も言うことができなかった。


その後の中学校の残り、高校、大学、社会人それぞれ、人に裏切られた。

いつ頃からか、人を信じられなくなってしまった。

裏切られても生きていけるように感情を殺したつもりでいた。

だが、まだたった。

あの時に全てを失った。


「加賀美さん加賀美さん」

天使は、名前を呼びながらヘッドマウントディスプレイを外された。

「天使か」

「おめでとうございます。あなたは、哀しい感情を取り戻した。このまま他の感情を取り戻して行きましょう」

天使は、笑みを浮かべながら言ってきた。

「もうやめてくれ」

「どうしたんですか?」

「こんな茶番はもういい」

「ダメですよ、加賀美さんには、感情を取り戻さなけばならないのです」

「やめてくれ」

「やめません。加賀美さんは架空より過去の方が良さそうなのでこれから過去を追体験していただきます。では」

「あああああぁぁぁぁ」














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