第5話 カスタムカー

 ワンボックスを走らせると、ゲンさんは突然笑い出した。

「まったく、冷や冷やさせるなあ、ソウタ。ビビりすぎだぞ。だはははっ」

 奏太は、ゲンさんに何も言えなかった。ビビり過ぎて、興奮し過ぎて、全身が熱くてぐったりとしていた。

 ゲンさんの携帯が鳴った。

 同級生で、車のカスタム兼修理屋を営むマコトさんからだった。

 ゲンさんが頼んでいたモノが完成したから来いということで、マコトさんの仕事場に向かうことになった。

 途中、ワンボックスは二体のゾンビをはね飛ばしたが、奏太はその光景に少しずつ慣れてきていた。



 MRカスタムに着いた。

 ゲンさんがクラクションを鳴らすと、ガレージのシャッターが開いた。テニスコートひとつ分くらいの空間に、リフトに持ち上げられた車が三台とオイルで汚れた整備機器が並んでいた。中に入ると、マコトさんと相方のリュウジさん、その他二名のスタッフが同じ青色のつなぎを着て作業をしている。

 マコトさんは、奏太よりひとまわり体が小さいけど、ゴツい体格が小ささを感じさせない。坊主頭がよく似合う。そして、めちゃくちゃ喧嘩が強い。

 リュウジさんはすらっとしたイケメン俳優みたいな人。昔不良だったとは思えないほど優しくて温厚だ。

 中学三年生のとき、マコトさんとゲンさん、リュウジさんの三人だけで隣町の高校に乗り込んで、そこのヤンキーグループをボコボコにしたという話は、この町では伝説となっている。



 ガレージの真ん中には、白色の馬鹿デカい車が存在感を放っている。ボンネットに沿うように鉄板が前方に一メートルほど伸びていて、全体にゲージ状の囲いがしてある。さらに、ボンネットには数本の柱が突き出ていた。嫌な予感がする。

「いい感じじゃん、マコト」

 ゲンさんは、マコトさんに煙草を一本差し出した。二人は車を見上げながら、仲良く並んで煙草をふかし始めた。

「ああ、ハマーなら、よっぽどのことがなきゃ壊れねえよ。囲いも付けたから安全だろ、なあソウタ」

 マコトさんは勢いよく鼻から煙を吐き出すと、握り拳で奏太の右肩を小突いた。すごく痛い。奏太は肩をさすりながら、精一杯笑顔をつくってうなずいた。

 やっぱりボンネットの上のゲージには自分が入るんだと、奏太は仕方なく納得した。こうなったら、やるしかない。ゾンビと戦って、何が何でも生き抜いてやるんだ。

「ソウタ、機材をハマーに載せ替えよう」

 ゲンさんは、ワンボックスのバックドアからアンプを運び始めた。



 ひと通り機材をハマーに移した。ボンネットの上の鉄板にアンプやエフェクターを固定し、溶接でくっついたギタースタンドにギターを置くと、ゲージに囲まれた小さなステージが出来上がった。

 これがゾンビを倒すためのステージではなく、ライブだったらどんなに良かっただろうと思った。が、これはこれでカッコいいなと奏太の胸は踊った。

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