第3話 初期衝動

 ゾンビとギターに関する興味深いツイートも見つかった。

 

 Tonny @tonnytonny11・21時間

 下手くそギタリストより、クールなギタリストの方がゾンビを多く倒せてる!

 

 John @blackdog119・23時間

 ゾンビはノイズに好んで近づいて来るけど、近づき過ぎると頭に響き過ぎちゃって脳味噌がぶっ飛んじゃうんじゃないの?

 

 PaulWalker@paulwalkers・11時間

 弾いてるプレイヤーの善し悪しによる。ゾンビは耳が肥えてるのか?


 PatriciaSmith@pat1999smith・5時間

 ノイズ好きだけど好きすぎて近づくと死ぬって、猫好きの猫アレルギーと一緒じゃん!


 DrMikeTaylor@mikebrain70・2時間

 ノイズによるドーパミンの分泌量に関係するのでは?


 様々な憶測が飛び交う。

 ツイートを眺めながら、ゲンさんはつぶやいた。

「多分、ど素人が弾いたってゾンビは倒せない。だが、魂のこもったギタリストがノイズを放てばゾンビを退治できるんじゃないかってな。そこで、だ……」

 奏太は息を飲み込んで、ゲンさんを真剣に見つめた。

「ソウタ! 俺と一緒にゾンビをやっつけねえか?」

「ぼ、ぼくと? なんで? もっとうまいギタリストいるじゃん。マキタさんとか、ヨッシー先輩とか……」

「奴らは確かにテクニックもあるし、ライブ経験も豊富だ。だが、一番大切なものが欠けてる。それが実はな、お前にはあるんだよ」

「なんなんですか? それって」

「ソウルだよ! お前のギターには魂がこもってるんのよ。しかも、初期衝動っていう一番かっこいいソウルがな」

「……初期衝動?」



「初期衝動っていうのはなあ、ロックやりてえぇ、ギター弾きてえぇ、ていう強い気持ちがあるだろ。それが抑えられなくて、ついつい夢中になってギター弾いちゃうような感覚のことだよ」

「んっ? それって当たり前のことじゃん」

「んなことねえよ。ほとんどの奴らはな、ギター始めて一、二年もすると、テク上げたり、機材に凝りだしたりして……。で、いつの間にか初期衝動忘れて、ただうまいだけのつまんねえギタリストになちゃうんだよ。しかも、初期衝動っていうのは失ったら、二度と取り戻すことはできない。よっぽどのことがないとな」

 奏太は、自分の中に、宝物が眠っているような気分になり、嬉しくて、少し照れくさくなった。

「お前は、確か中二からギター弾いてるだろう? もう三年もギター弾いてるのに、相変わらず初期衝動をビリビリ感じるんだよ。こんなギタリストめったにいない」



 とはいえ、喜んでいる場合じゃない。今は非常事態だ。

 奏太のギターでゾンビに対抗できるか試す必要がある。そこで、食料を調達するついでに、近所のスーパー・コノミーに行くことにした。

 ゲンさんは自慢げに、ワンボックスのバックドアを開けた。さっき乗っていたときには気づかなかったけど、荷台の左右にわたって二本の鉄パイプが伸びていて、それにしっかりとベルトで固定された状態でVOXのアンプが積まれていた。

 奏太は目を輝かせて、身を乗り出した。

「すっげえ、VOXじゃん!」

 BOSSのSD -1などのエフェクター類やシールド、チューナーもつながっている。ワンボックスに乗り込んたゲンさんが叫ぶ。

「ギターの準備をして、うしろに乗れ! チューニングも忘れんなっ」


 ●ギター関連用語

【アンプ】ギターからの音の信号を増幅させ大きな音を出すスピーカー。

【エフェクター】ギターの音の波形を変化させ歪ませたりうねりを出したりする道具。

【シールド】ギター、エフェクター、アンプをつなげるためのケーブル。

【チューナー】ギターの弦を正しい音程が出るように調弦(チューニング)する道具。

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