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 これから起こる事を考えると場違いな位に平和な青い空と白い雲が背後に吹き飛んでいく。

 並んで飛翔する二人に、船からカガミの通信が入る。

『……守ると死ぬから攻めに行く。理屈としては間違って無い……かもしれないけど、やっぱり無茶だと思うよ、僕は』

「今更の話ね、やると決まったんだから、腹を括らないと」

「そーそ、そんなに心配ならさ、回収の方、ササササっとヨロシクね、か~がみん」

 言葉が終わるが、前方にそれらが見えてくる。

 先ほどまでの青空が真っ暗に見えるほどの黒い機械たちの群れ、ニゲイターの巣窟が現在進行形で作成され、だんだんと規模を大きくしていく様がありありと見て取れた。

「うわぁ……巣窟とはいえできかけって聞いたから少しは楽かと思ったんだけど、やっぱりかなりの量が居るわね」

 目の前の尋常ではない規模のニゲイターを前に、マトリが思わず呟く。

「ほんっと、あの群れにこれから飛び込んでいくなんて、頭おかしいとしか思えないよね? すっごいワクワクする」

「ちょっと、言葉の前後が繋がって無いんだけど」

「え? そう? 私的にはそうでもないけど」

「……貴方に一般的な思考回路を期待するほうがバカだったわ」

 救出作戦の完遂の為に傭兵部隊が出した作戦は、ニゲイターの群れの本能を逆手にとった囮作戦だった。

 ニゲイターは巣窟の拡大中は、人間狩りよりも巣窟の維持を優先する本能がある。今現在脱出艇が襲われず、何とか乗組員も生存している理由はここにある。

 そこで、突入要員の二人が巣に攻撃を仕掛けて敵を引き付け、その間にカガミがなりふり構わぬ全速力で救出を行い、離脱をする。……というのが、この絶望的な状況下で最も全員生存の可能性の高い作戦だった。

 既に脱出艇には作戦を伝え、その身一つですぐに乗り移れるように準備も整えてもらっている。彼女らの攻撃と同時に脱出艇も発信、空中で合流、即座に収容を済ませ、脱出艇をその場に捨てて離脱する。

『えっと……あの、私がこういうことを言うのも変化もしれませんが……』

 おずおずとした様子のミオリの声。

『頑張って、絶対に戻ってきて下さいね。私、貴方達とお話してみたい事、言わなきゃいけない事がたくさんできましたからっ!』

「もちろんよ。私達だって伊達に幻惑迷彩ラズルダズルなんて異名で呼ばれてる訳じゃ無いわ、せいぜい引っ掻き回してきてあげる」

「そうそ! どんちゃん騒ぎラズルダズルっていうと~りっ、たっくさん大騒ぎしてぜ~~んぶ相手しといてあげるって、心配な~~しっ!」

 どこまでもお気楽な傭兵二人。声だけ聴くとまるでこれから戦場のど真ん中に行くのがサクラの方なんじゃないかと思う位の気軽さだ。

「はぁ~っ、ただの救助作戦だと思ったのにこんな事になるなんてねぇ……特別ボーナスとか出ないかなぁ? カガミん」

「まぁ、確かにかなり厳しい戦いね。でもあなたにとったらこれから突っ込む戦場がボーナスみたいなものでしょ?」

「いや、まぁそうなんだけどさぁ」

『う~ん、契約内容を変更した訳じゃ無いし、社長の温情しだいだね』

「あ、んじゃダメじゃん、あのドけちが温情出すなんて世界平和と同じくらいあり得ないよ」

なら下がって脱出の援護に行っても良いわよ? それはそれで成功率は上がるだろうし、私は一人でも頑張るから……それに」

 言葉が切れる。コヨイが様式美として聞き返す。

「それに? なんかあるの?」

「私はカガミから特別ボーナスをもらうからね」

 突然話を振られたカガミから、驚きの声。

『え!? 僕!? う~~ん、僕に報酬の決定権は無いって知ってるよね。もしかしてボーナスの交渉してって事かな? それは……いくら二人の為とは言え、ちょっとなぁ……』

 困惑した様子のカガミ。

 マトリが悪戯っぽい笑みを浮かべ、通信をコヨイに聴こえない秘匿通信に変えた。

「あら? 違うわよ、ボーナスはお金じゃ無いし、交渉もいらないわ」

『……え?』

(鈍いなぁ……会話を聞いて無いコヨイですらニヤついているのに)

 バレているのだろうが、だからと言って相方の思い通りの表情を浮かべるのはシャクなので、表情の出力を切って、続ける。

「この作戦を完璧にこなして無事戻ってきたら、ぎゅ……ってして、それでいいわ」

『ぶはっ! えっ! ちょっと! マトリちゃん!』

「了承ね、ウィルコ!! 力も出たし、戦闘空域に突入するわ!」

 マトリとコヨイがさらに加速。黒い死の渦はもう目の前に迫っていた。

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