【発売記念SS】とある同人小説のこと

 

 2月28日に『【相談スレ】ワイ悪の組織の科学者ポジ、首領が理不尽すぎてしんどい』がファミ通文庫様から発売されます

 ファミ通文庫の公式Xから特設サイトに飛べますので、よろしければ見て頂けると嬉しいです


 また今さらですが別名義でも活動してて、双葉社さまの方でも宣伝に協力してくれていたりします

 ワイ悪、どうぞよろしくお願いします




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【炎の妖精姫と悪の科学者シリーズ】

 同人作家エレハ・カラブによるDL限定販売の同人小説群。


〈あらすじ〉

 妖精姫と神霊結社デルンケムの戦いは終わった。

ハルヴィエド・カーム・セインは、首領セルレに人質をとられ日本侵略作戦を強制されていた。

 最後の戦いで妖精姫と協力し首領セルレを打ち破るも、犯してきた罪は消えない。

 失意のまま消えた彼を、美しき炎の妖精姫・結城茜が見つける。

 摩耗したハルヴィエドを優しく抱きしめる茜は、自らの家に連れ帰るのだった……。



 ◆




【炎の妖精姫と悪の科学者・一巻より抜粋】



 ボク……結城茜は、夜の暗がりに人影を見つけた。

 ハルヴィエド・カーム・セイン。かつて激しい戦いを繰り広げた青年が、路地裏で力なく座り込んでいた。

 端正な横顔はどこか諦観を感じさせる。立ち上がる気力がないのかビルの壁を背もたれに、ただ夜の空を見上げていた。

 青白い月の光に照らされたハルヴィエドは鋭利なほどに美しく、けれど儚く頼りない。瞬きでもすれば、夜に溶けてしまいそうだ。


「ハルヴィエド・カーム・セイン……」

「ああ、浄炎のエレスか」


 返事はしてもこちらを向こうとはしない。


「こんなところで、なにをしてるの?」

「なにもしていないさ。そも、することもない」


 吐き捨てるような物言いだった。

 正直に言えば、ハルヴィエドについて知っていることはほとんどない。

 悪の組織の科学者で、怪人開発のエキスパート。格闘戦も強く、日本侵略の陣頭指揮を執っていた。

 けれど本当は波打つ金髪の少女……義理の妹を人質に取られ、首領セルレに従っていただけだという。

 最後の戦いでは首領セルレに反旗を翻し、妖精姫と共に戦ってくれた。

 本当のハルヴィエドは誰かを傷つけることを厭う青年なのだ。

 だからこそ、心ならずも従事していた悪行の数々を忘れられないでいるのだろう。


「することない、なんて。ほ、ほら。デルンケムはなくなったんだよ? もう、ハルヴィエドは悪いことをしなくていい。自由に、平穏に生きたっていいんだ」

「バカを言うな。日本侵略に従事した男が、どの面を下げて平穏を謳歌できる。私は、許されない罪を犯した」

「そんなっ。あなたは、人質を取られてっ」

「それが何の言い訳になる! ああ、そうだ。人質を盾に、首領セルレに従属を強制された。だが、この手で人々を傷つけたのは私なのだ……!」


 その苦悩が、今も彼を苛んでいる。

 戦いが終り、縛る鎖は砕けたはずなのに、未だに救われていない。


「だから、君のような子が、そんな男に構わないでいい。早く、どこかへ行きなさい」


 それでも気遣おうとする。

 ボクにとってハルヴィエドは敵だった。でも憎むべき悪ではなかった。

 科学者だから頭がいいのだと思っていた。でも違った。

 ハルヴィエドはバカだ。自分よりも他人の心配をするバカで、どうしようもないくらいお人好しで……そんな彼を、見捨ててはいけないと思った。


「ボク、ね。時々、ハルヴィエドが悲しい目をしているのに、気付いてたんだ。その時は何でかなって思ってたけど、後になってようやく分かった。貴方は、ずっと望まないことをやらされていた。なのに戦っている時は、貴方を救おうなんて、考えられなかった。ごめんなさい」

「謝ることはない。私に、そんな価値は……」


 口を突いて出る自嘲を遮ろうと、ボクはハルヴィエドの顔を自身の懐に無理矢理引き込んだ。

 彼は抵抗しようとしたが絶対に放さない。きっと、ここで離れたならもう二度と会えなくなる。そんな気がした。

 

「……はなせ、汚れるだろう」

「ボクは気にしないよ」

「私が気にする」

「へへ、そうだね。ハルヴィエドは、優しいから」

「君に私の何が分かる」

「うん。きっと、何も分かってない。でもね、ボクが知っていることだってあるよ」


 ボクは勝ち誇るように笑って見せる。


「気付いてた? 浄炎のエレスは、ハルヴィエド・カーム・セインの攻撃によって怪我を負ったことは一度もないって」


 そうだ、よく考えれば分かったはずだ。

 ハルヴィエドは戦闘の実力だって高い。なのに、一度だって妖精姫は傷つかなかった。

 つまり彼はずっと抗っていた。浄炎のエレスのことさえも守ろうとしてくれていたのだ。


「……そんなのは、ただの偶然だろう」

「もう二つ気付いたよ。実は、嘘を吐くの下手だよね。それと、本気になれば突き飛ばせるのに、ボクが怪我しないように、無理に振り払ったりはしない」


 図星だったのか、肩が小さく揺れた。

 それが妙に可愛らしく感じられて、ボクは抱きしめる腕の力を強める。ハルヴィエドを自身の胸に押し付ける形だ。恥ずかしくはあったが、嫌な気持ちにならなかった。


「ね、行くところがないならボクの家においでよ。実はさ、両親が旅行に出かけてて、一週間くらいいないんだ」

「そんな時に、悪い男を連れ込もうとするな」

「大丈夫だよ。これでも、正義の変身ヒロインだから」


 二人抱きしめ合い、くだらない冗談を言う。それでいい。彼が少しでも救われるなら、道化くらいはやってみせる。

 こうして炎の妖精姫と悪の科学者の、短い同棲生活が始まった。




 ◆




 ボクはハルヴィエドを自宅に招いた。

 両親がいないから清流のフィオナや萌花のルルンを呼ぼうかとも思っていたけど、そうしなくてよかったと安堵の息を吐く。


「あ、はは。えーと、ごめんなさい? ボク、料理とか全然できなくて」

「いや、問題ない。このカップラーメンというやつは美味いな。私の次元にはない代物だ」

「そうなんですか?」


 少し遅い夕食はカップラーメン。生憎と家事の類が本当に苦手で、簡単なインスタント食品になってしまった。

 なんか、申し訳ない。

 でも彼は物珍しそうに食べている。とりあえず、喜んではもらえたようだ。

 

「ところで、何故敬語に?」

「えーと、敵だった時ならともかく、こうして身内になったなら年上にため口はどうかなーって」

「もう身内扱いなのか……。別に、喋り方は気にしないが」

「そこは諦めてください。やっぱり、ちゃんとしたいんですよ。あっ、距離を取ってる訳じゃないですからね!?」

「分かった、分かった」

「じゃ、先にお風呂入っちゃってください。その間に色々用意しますから」


 招かれざる客が一番風呂では、なんて遠慮しようとしたがどうにか説得し、寝間着の下着の準備をする。

 父親用の新品のモノを下ろさせてもらおう。背の高いハルヴィエドだと丈が足りないかもしれないが、そこは我慢してもらうしかない。


「ありがとう、先に頂いた」

「おっけー。ボクも入るね。……勝手にいなくなったらだめですよ」

「分かっている」

「絶対ですからね」

「信用がないな」


 困ったような表情の彼に何度も念押しして、ボクも風呂場へ向かった。

 いつもならくつろぎの時間だが、服を脱ぎ、浴槽に浸かってからふと考える。


「ハルヴィエド、さんの入ったお風呂……」


 嫌ではない。決して嫌ではないが、なんだか妙に恥ずかしい。

 他意はないが、のぼせないように早めに出る。

 髪を乾かし歯磨きを済ませ、ちょっとの雑談をしてから、ボクたちは布団に入った。 


「なあ、浄炎のエレス」

「どうしたんですか、ハルヴィエドさん」

「私はリビングのソファーでいい。というか、そこで寝るべきだと思う」

「ダメだって言ってるじゃないですか。朝起きたらいなくなってたら困るもん」

「だからと言って……同じベッドはもっとダメだろう!?」


 そう、ボクはハルヴィエドを自室のベッドに連れ込んだ。

 だって仕方ない。

 彼のことだ。眠っているうちに置手紙だけを残して消えていてもおかしくない。そうさせないために、恥ずかしいけど監視もかねて一緒に寝ることにしたのだ。


「お、女の子がみだりにそんな真似をしては!」

「そういう注意をしてくれる人は、ボクにひどいことしませーん」

「ああ、もう、この子は!」


 怒っているのか呆れているのか、頭を抱えてしまっている。

 だけど譲る気はなかった。


「それに、ハルヴィエドさんはちゃんと休まないと」


 そうしないと、またきっと動けなくなってしまう。

 隣で横になっている彼の背に、抱き枕にするように手を回す。

 そうして強く抱きしめる。衣服越しにも体温が、カラダの感触が伝わるくらいに。


「きっと今は、色んなことがあって疲れてるんだと思います。そういう時は一人でいたらダメ。ボクじゃ、不満もあるかもしれないけど。今日は、いっしょに寝ましょう?」

「君は……」

「そう言えば、今更だけど呼び方が硬すぎません? もうちょっと、親しい感じで」


 照れながらそう言うと、ハルヴィエドは小さく笑った。

 初めて見る、無防備で穏やかな笑みだった。

 

「……分かったよ、茜ちゃん」

「へへ、はいっ」


 名前で呼ばれたのが何故だか嬉しくて、ボクはハルヴィエドさんをぎゅうと抱きしめる。

 吐息どころか鼓動が聞こえるくらいの距離。かたくごつごつした、男の人のカラダ。意識すると顔が熱くなってしまう。


「温かいな」


 不意にハルヴィエドさんが呟く。


「こんなに温かいのは、初めてかもしれない」


 そう言って彼もボクを抱きしめてくれる。

 恥ずかしいのに嬉しくて、彼の胸板に頭を預けて、ぐりぐりと押し付ける。

 それを微かな笑みで受け入れて、ハルヴィエドさんは頭を撫でてくれた。

 お互いの鼓動を子守唄代わりにして、ボクたちは眠りについた。

 きっと、いい夢が見られると思う。







116:ハカセ

 ねえ、エレハカ女はバカなの?

 なに考えてるの?


117:名無しの戦闘員

 どうしたいきなり


118:ハカセ

 ほのあく、なるものを読んだんやけどね

 そりゃあもうひどい ワイが大変変態なことになっとる


119:名無しの戦闘員

 ついに禁書に手を出したか……

 

120:名無しの戦闘員

 どこまで読んだ?


121:ハカセ

 三分の一のピュアな感情くらい

 ワイがエレスちゃんを抱きしめて眠っとる


122:名無しの戦闘員

 安心しろ、中盤はもっとひどい


123:名無しの戦闘員

 一緒に風呂入るからなw


124:ハカセ

 そんな災厄級の呪物がシリーズ化しとんのか……


125:名無しの戦闘員

 呪物言うなエレスちゃんに失礼やろ


126:ハカセ

 エレスちゃんはかわいい元気で優しくて明るくて魅力的な女の子や

 それを歪めるエレハカ女の書が呪物ゆう話です

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