まいっちんぐアニキ先生のデルンケム講座・後編
零助は更に解説を続ける。
「神霊結社デルンケムは首領をトップとし、その補佐を統括幹部が務める。また統括幹部の下には四大幹部がおり、幹部はそれぞれ内部部局の長を兼任する。部局の下には科・室が置かれ、所属する戦闘員が業務を行うって感じだ」
「え、えーと?」
「……ご、ごめんなさい、その」
茜と萌はうまく全体を掴めないようで、しきりに疑問符を浮かべていた。
沙雪は父親が代表取締役兼社長であるため、ある程度は理解ができる。つまりデルンケムは悪の組織と言いながらも企業に近い構造をしているのだ。
「ああと、こんな感じだな」
零助がホワイトボードに簡単な図を描く。
・首領:ヴィラベリート・ディオス・クレイシア(社長)
↓
・統括幹部:ゼロス・クレイシア(副社長)
↓
・幹部:レング・ザン・ニエべ
ハルヴィエド・カーム・セイン
レティシア・ノルン・フローラム
ミーニャ・ルオナ
↓
・内部各局
↓
・各科、室
図になったことでおおよそは理解できたようだ。
茜たちは意外ときっちりとした縦割りに驚いていた。
「幹部は役員みたいなもので、それぞれ直属の配下を持つ。俺の場合は英子、ハルはヴァシーリエヴァさん達がそれにあたる。内部部局は総合戦闘局、研究開発局、参謀本局、情報調査局の四つ。通信システム科は参謀本局の管轄だが情報科はない。一応秘密結社だから重要情報は基本幹部以上で管理しているせいだな。諜報に関しても幹部であるミーニャとその直属の戦闘員が一手に担う。ミーニャが入るまでは、レティとハルの領分だった」
組織内はわりと細かく分類されており、それらについても教えてもらえた。
・統括幹部
→内部監査室、人事科、総務科
・総合戦闘局(局長レング)
→戦闘科、特殊工作科、輸送科
※戦闘科の科長が戦闘員M男。ロリコンだけど実は一つの科のトップ、すごく偉い。
戦闘員C男も戦闘科のヒラ。
・研究開発局(局長ハルヴィエド)
総合研究室、魔道具科、霊的生命科(怪人・魔霊兵のメンテナンス)、施設科
会計科、経理科、財務科
・参謀本局(局長レティシア)
参謀室、通信システム科、衛生科、外部交渉科
※Sやか、I奈、Lリアが通信システム科
ただしLリアは現在ハルヴィエド直属
・情報調査局(局長ミーニャ)
諜報室(ミーニャ及びその直属のみ)、需品科、厚生科、
※N太郎が元需品科、現ハルヴィエド直属
「まあ、こんなところか」
零助の説明を聞き終えて、萌が少し困惑しつつも美衣那に目を向けた。
「美衣那さんって、13歳くらいでこんな難しいお仕事されてたんですか?」
「にゃ。諜報は私の管轄。厚生科は基地内の食堂とか売店、物品の管理も」
「すごいです……。私と年齢ほとんど変わらないのに」
「それ言ったらボク同い年なんだけど……」
萌は感心して何度も頷きつつ拍手をしている。茜は若干へこんでいた。
沙雪が気になったのは、会計などの財務管理が参謀本局でなく研究開発局の下に置かれている点だ。
「少し、分類が奇妙に思えるのですが……」
「元々は戦闘以外のほとんどの業務は俺とハルで大体こなしていた。その後に加入したレティやミーニャに、俺達の仕事を割り振って内部部局を設立した形だからな。そもそも基地自体がハルの発明だし、財務管理もハルくらいにしか任せられなかったってのが大きな理由だ」
零助やハルヴィエドの負担が大きすぎるため、他が出来る仕事を任せた結果らしい。
なんというか、二人とも根っからの苦労人である。
「ちなみに俺達が抜けた後のデルンケムはこうなった」
言いながらホワイトボードに追加された図を見て、沙雪たちはぎょっとした。
・首領:ヴィラべリート
・統括幹部代理:ハルヴィエド
・総合戦闘局長代理:ハルヴェイド
・参謀本局長代理:ハルヴィエド
・研究開発局長:ハルヴィエド
・情報調査局:ミーニャ
「ブラックが過ぎる!? なんですかこれほぼ晴彦さんしか仕事してないじゃないですか!?」
「茜、茜。私がちゃんと手伝ってた、にゃ」
「だとしても絶対これ一人のキャパシティ超えてるよ!?」
茜が思いっ切り叫ぶ。
正直沙雪もドン引きだった。元々抱え込み過ぎる性格だが、これはあんまりにもあんまりだ。
自分で説明しておきながら零助も複雑そうな表情をしていた。
「それがな。幸か不幸か、ハルはこなせてしまうくらいに優秀だった。だからヴィラは“ハルヴィエドに任せれば何とかなる!”と仕事を振る。ハルはヴィラに甘いから、その全てに応えていく。ハルの一人ブラック体制はこうして出来上がったんだろう」
沙雪は、ヴィラの事情やハルヴィエドの想いを知った今でも、今でもデルンケムの侵略自体は肯定していない。
ただ、こんなに苦労していたのに邪魔をしていたのかと思うと、申し訳ない気持ちになってしまう。
微妙な空気の中、ミーニャがホワイトボードの方へ向かう。そしてマーカーを手に取り、零助が描いた図に手を加えた。
・首領:ヴィラべリート
・統括幹部:ゼロス
・総合戦闘局長:業炎のエレス
・参謀本局長:濁流のフィオナ
・研究開発局長;ハルヴィエド
・情報調査局:ミーニャ
・購買部の看板娘:絶華のルルン
・巻頭グラビア:レティシア
・ゴリラ:レング
「よし、にゃ」
「美衣那、なにもよくない」
満足そうなミーニャに、沙雪はいつものように突っ込む。
何か勝手に妖精姫もデルンケムに組み込まれていた。しかも悪堕ち済み。
「こうしたらハルの負担もだいぶ軽くなる、にゃ」
「それは、そうかもしれないけれど。でも後半の意味が分からない」
「追放されたゼロス様はともかく、幹部を勝手に辞めた二人がペナルティなしで戻るのは戦闘員が納得しにゃい」
「意外とマジメに考えているのね……?」
だとしても悪の組織に入るなんて認められそうにない。
あと萌が「私だけ購買部って、とってつけた感じです……」ってダメージを受けているから止めてあげて欲しい。
溜息を一つ吐いた沙雪は、今度は零助の方に向き直る。
「マスターは、デルンケムに戻ったりはしないんですか?」
「妖精姫に聞かれるのは奇妙な気分だが、今ところはね。追放された身だし、喫茶店の仕事も気に入ってるしな」
意外とさっぱりとした答えだった。
しかしほとんど間を置かず、彼は穏やかに笑みを落とす。
「だが、ヴィラやハルに危機が訪れる時は、助けになろうと思う。……離れても、大切なことに変わりはないよ」
その言葉が本当に温かかったから、思わず沙雪は柔らかな気持ちになった。
そしてそのやりとりを尻目に、萌がホワイトボードの図に追加で書き込む。
・研究開発局長:ハルヴィエド
→助手:あさひなもえ
「……なんちゃって、えへへ」
これ、指摘してもいいモノだろうか?
この子、最近ハルヴィエドに対する親愛を隠さなくなってきている。
あくまでもお兄ちゃんに懐く妹のような感じだが、もしや危険なのでは?
若干の警戒を滲ませていると、またもや美衣那が図に追加記入する。
・統括幹部:ゼロス
→嫁:エーコ
→嫁:レティシア
→小姑:ミーニャ
・研究開発局長:ハルヴィエド
→助手:あさひなもえ
→メイド:リリア
「……大家族、にゃ」
「ねえ、美衣那はデルンケムをどうしたいの?」
「ゼロス様はハルのアニキだから、ハルの妹の私はエーコの小姑。論理的解決にゃ」
彼女は間違いなくハルヴィエドを慕っているのに、弄りの手は止めない。
というかハルヴィエドを信奉しているリリアがメイドとか危険すぎる。
彼女の場合は「ご奉仕します」とか言い出しかねない。羨ましい。
さらにミーニャは追記。
・マスコット:ヴィラベリート
「首領なのに!?」
「首領兼マスコット。正しい認識にゃ」
沙雪の驚きを無視して、美衣那が満足そうに頷いている。
零助に視線を送ると、顔を背けられてしまった。
あ、これ義兄からして同意見なヤツだ。
「ま、まあそんな感じで。ハルのヤツが凄く忙しいってことだけは認識して置いてくれると嬉しい。特に神無月さんは、いい感じにブレーキをかけてやってくれ」
一転、マジメな顔でそう語る。
わざわざデルンケムの情報を明かしてくれたのは、無理無茶が基本の義弟を心配してのことだったらしい。
それを嬉しいと沙雪は思う。
当初は応援してもらえなかったのに、今はこうしてブレーキ役を望まれている。彼の家族に頼られるのはつまり、結納を終わらせたも同然だった。
「分かりました、お義兄さん」
「うん、任せ……え、おにいさん?」
何故か戸惑う零助に対して、精一杯の笑顔で応じる。
沙雪は、今度は私の家族にも会ってもらおうと心に決めるのだった。
◆
仕事にひと段落をつけたハルヴィエドは、少し休憩しようと喫茶店ニルに向かった。
しかしまだ営業時間中だというのにcloseの札が掛かっている。
どうしたのかと店内を覗き込めば沙雪たちがお茶をしているようだ。
彼女の方もそれに気付いたようで、小さく手を振って店に迎え入れてくれる。
「ハルヴィエドさん、こんにちは」
「ああ、こんにちは。沙雪たちもお茶かな?」
「はい、皆で集まって。」
店内を見回せば茜や萌、ミーニャの姿もある。
義妹も学校生活に馴染み楽しくやっているようだ。
「ハルさん、どうぞ座ってくださいっ」
「ありがとう、萌ちゃん」
「えへへ」
嬉しそうにてこてこと歩いてくる萌に手を引かれ、ハルヴィエドも席についた。
一時期からこの子と手を繋ぐことに違和感を覚えなくなってしまった。童貞歴の長かったハルヴィエドにとっては物凄い変化である。
「晴彦さん、大変だったんですね……」
すると、何故かちょっと目を潤ませて茜が気遣わしそうな視線を送ってくる。
いつも元気なのに若干へこみやすい彼女だが今日は様子がおかしい。
「茜ちゃん、どうしたんだ?」
「ええと、晴彦さんの忙しさを今さらながらに理解しまして……。なのに職業体験ツアーとか、いろいろご迷惑をかけてしまい……」
「別に迷惑だと思ったことは一度もないけどなぁ」
「うぅ、あ、ありがとう、ございます」
職業体験ツアーの企画はそれほど負担になってもいない。
なのに過度なくらい申し訳なさそうに、かつ多大な感謝を向けられて、ハルヴィエドは戸惑ってしまう。
「なあ、沙雪。いったいなにがあったんだ?」
「なんと、言いますか。皆ハルヴィエドさんを慕っていて、同時に心配もしていると言いますか」
曖昧な物言いをされしまった。
いったいどうしたのだろう。考えながら店内を見れば、端にホワイトボードが置かれている。
そこには、複数人で書かれた組織図が残っていた。
神霊結社デルンケム・組織図<完成版>
・首領:ヴィラべリート
→お世話係:ハルヴィエド、ゼロス
→オヤツ担当:ミーニャ
・統括幹部:ゼロス
→嫁:エーコ
→嫁:レティシア
→小姑:ミーニャ
→結婚の挨拶:ハルヴィエド
・総合戦闘局長:業炎のエレス
→マッチョ:レング
→ツッコミ役:エレス
・参謀本局長:濁流のフィオナ
→悪戯担当:アイナ
→振り回される:M男
→知ってる、ハルと二人きりになるためいつも画策してるにゃ
・研究開発局長;ハルヴィエド
→助手:あさひなもえ
→メイド:リリア
→嫁:清流のフィオナ
がんばれ・おうえんしてます・てつだいます
・情報調査局:ミーニャ
→好物:イカ焼き
→挿入歌:Filles bien-aimées
→エレス・フィオナと料理教室企画中
→わたしもやりたいです
・購買部の看板娘:絶華のルルン
・巻頭グラビア:レティシア
・袋とじ企画:ヴィラベリート、ルルン
・ゴリラ神:レング
・マスコット:ヴィラベリート
・後片付け:ハルヴィエド
「デルンケムが大変なことになっている……!?」
これゼッタイ組織図じゃねーわ。
そして、彼は瞬時に判断した。
あ、自分がいない間にミーニャに滅茶苦茶弄られたのだと。
大切な家族である猫耳くのいちの方を見れば、無表情のままサムズアップされた。
つまり、いつも通りの一日でした。
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