悪の科学者は遅れてやってくるのこと



 私こと花嵐のアリスにとって、幼い頃の思い出と言えば書斎で仕事をするハルヴィエド父さんだ。

 小さな私は父さんの気を引きたくて、書斎の隅で読めもしない難しい学術書を開き、「ふむふむ、なるほど」なんて分かったふりをしていた。

 すると父さんは私を抱き上げて、お膝に座らせてくれる。


『科学の本に興味があるのか?』

『うんっ。大きくなったらパパやママみたいな、すごい学者さんになるの!』

『そうかぁ』


 私が父さん達みたいな研究者になったら喜んでくれるかな?

 そう考えての発言だった。

 父さんは優しく笑って私の頭を撫でてくれる。

 

『もし一緒に研究を出来るなら嬉しい。だけどパパ達のようになる必要はないんだよ。君が、君のまま生きることが、パパ達の一番の幸せなのだから』


 それが私の原風景。

 私こと花嵐のアリスが勉学に励む一番の理由は、父さんに撫でてもらった頭がとても気持ちよかったからなのだろう。

 ちなみに父さんは超が十個くらい付くほど私に甘いので、偉大な親を持つプレッシャーとか全くなかった。能力の足らない二世に失望する親とかドラマの中だけの存在だよね。 

 ……まあ、つまり。

 私は、実をいうと若干ファザコン気味な部分がほんのちょっと僅かながらあると自認している。

 ハルヴィエド父さんの名誉のために過去への干渉を行う程度の、ごくごく軽い感情ではあるけれど。


 さて、私達が過去へ介入するまでの流れに少し触れておこう。


 とある未来、若き美人天才神霊工学者・葉加瀬萌(夫婦婦ラブラブで有名)によって過去観測技術が発明される。ウチの母さんちょっと凄すぎて困る。

 これは世界の中核にある根源記憶……俗にいうアカシック・レコードにアクセスするのだが、残念ながら無暗に使えるものでもない。

 この技術は、対象の人物Aと世界の根源記憶に魔力で簡易的な契約を結び、Aの視点ではなくAの周囲の事象を観測する。

 

 技術としては成功したはずだった。

 しかしこの観測は、不思議な現象を引き起こした。

 根源記憶に刻まれた過去を覗き見ているはずなのに、その過去が一定しない。

 一例をあげるなら「萌氏の夫であるH氏が他の女性と結婚した過去が観測された」といったケースが頻発したのだ。

 観測しても現在に変化はない。

 ここから萌母さんは一つの仮説を提唱する。


『世界とは多くの可能性が折り重なった状態が通常であり、世界の根源は可能性上の過去すらも記憶している。おそらくそれは未来に対しても適応され、確定された現在は過去や未来の影響を受けない』


 あらゆる可能性は同時に存在しているが、可能性には現在を脅かすほどの力がない、という理論だ。

 この理論を発展させた萌母さんは、根源記憶を介して可能性世界を観測する装置を開発。

 さらに一年後、時間移動……創作の定番だったタイムトラベル技術を現実のものとした。

 ただ、渡航者への影響を危険視した母自身によって、実際には時間移動は行われなかった。

 また公式に発表することもせず、タイムトラベル関連の情報は合同会社ディオスの上層部・神霊結社デルンケム・にゃんj民が知るのみだった。

 絶対知られちゃいけない人達に知られてるよね?


 そこからさらに時間が経ち、未来世界ではクピディタースなる化け物が活動するようになった。

 強くはないが周囲の人間の意思に反応して姿を変える化物。

 それ自体は魔法少女やデルンケムが対処したために問題にはならなかったが、次第にクピディタースは奇妙な変化を見せる。

 何故か、ハルヴィエド父さんの姿をとるようになった。

 世論は『神霊結社のデルンケムの企みでは?』と傾きかけるが、独りの科学者の登場でその流れにも歯止めがかかった。


 プロフェッサーY。

 そう名乗る謎の男が『ワィ……タシ、こそがクピディタースの開発者ンゴ……だ!』と表明した。


 何者かは分からないが、どうやらデルンケムと敵対している様子。となると、おそらくあの化け物はハルヴィエド父さんに対する嫌がらせなのだろう。

 結果、未来の戦いはプロフェッサーY vs 魔法少女・デルンケム連合軍の形となる。

 そして戦いが進むにつれ、クピディタース・ラディクスと呼ばれる巨大な猫耳熾天使ハルヴィエド王子が投入される。

 両者の争いはさらに苛烈なものになるのだった……。




 ……というのが、私こと花嵐のアリスが知る未来の戦いの、表向きの流れだ。

 もっとも、実際は全然違う。

 プロフェッサーYの正体は猛虎弁と呼ばれたにゃんj民が昔に書いた企画書。それが元凶なのは間違いない。

 ただし、猛虎弁に悪意があった訳ではなく、クピディタースの発生自体は単なる事故でしかなかった。

 ちなみにプロフェッサーYというのも、自分のせいでディオスに迷惑が掛からないよう世論を逸らすための奇行だ。

 しかしこの騒動は想定以上に規模が大きくなってしまい、萌母さんの時間移動装置と結び付くことで過去にクピディタースの“核”が流れてしまった。

 だから私達は過去と現在、両方の問題を解決するために動き出した。

 

 私達の目的は二つ。

 まず第一が「過去に流れたクピディタースの核の破壊及び今後の対策」。

 第二に「未来では失われた、元凶となった企画書の情報を持ち帰ること」。

 優先すべきは過去の問題の解決だ。


 音頭をとったのは萌母さん。

 時間移動技術は母さんの発明。かなり責任を感じていたみたい。

 傍らでは当然ハルヴィエド父さんが支えているし、隙を見せるとイチャコラしてる。

 また共同で開発に携わっていたリリア・ヴァシーリエヴァさんによって、安全に過去干渉を行う術が確立。過去への接触は私と、ヴィラちゃ……ヴィラ母さんの娘であるジュリアレーテが行うこととなった。

 萌母さん達の時間移動技術を使うには、人造魂に頼らない一個人の魔力が相応に必要だ。それなりに年齢を重ねて魂が衰えた父さん達では多少足らなかったせいだった。

 

 つまるところにゃんj民さん達の理解とは順序が違う。

 私達魔法少女は「若い頃の父がいる時代」に来たのではない。

「観測対象であるクピディタースが流れ着いた時代に接触した結果、そこに若い頃に父もいた」のだ。

 時間移動が萌母さんの過去観測技術を下敷きにしている以上、そういった形でしか過去に接触できなかった。

 だからどの可能性上の未来からの介入でも、ばらばらに行動しても、“核”がある地点を全員が目指すのだから辿り着く時代は同じになる。

 ……それは、どの世界の娘達も過去の父さんを助けたいと無茶をしたということであり、つまり全員がファザコンという正直クピディタース以上に頭が痛い状況なのでは? と考えなくもない。


 ともかく私達はできる最大限を行ったつもりだ。

 それでも手遅れだった。

 私達は過去でも大空を舞う眩く光り輝く父さんを見る羽目になってしまった。


 けれど、諦める訳にはいかない。

 ハルヴィエド父さんが悲しい想い(巨大全裸公開)をしないように。

 私は……私達は、最大限の努力をないといけないのだ。


 あとで、「さすが私の娘だ」とたかいたかいをしてもらうためにも。




 ◆




118:名無しの戦闘員

 ついに始まったな、大決戦が


119:名無しの戦闘員

 ロスト・フェアリーズが

 デルンケムのメタル兵が

 魔法少女達が次々に集まって、ゆうに10メートルを超える巨大で強大な敵に挑んでいく……


120:名無しの戦闘員

 正義の変身ヒロイン・フィオナちゃんと、悪の秘密結社の特殊兵・Lリアちゃんが協力して戦ってるンゴ……


121:名無しの戦闘員

 しかも未来から訪れた魔法少女達も力を合わせて


122:名無しの戦闘員

 まさに総力戦ってやつだな


123:名無しの戦闘員

 緊急生放送でヘリからの映像も流れてる

 敵が眩いくらいに輝いてるから、夜なのに肉眼でもしっかり見える

 きっと多くの人がこの戦いを見守っていることだろう


124:名無しの戦闘員

 ああ、俺も書き込みしながら見てるぜ

 エレスちゃんとユエちゃん、親娘並び立つその勇姿を


125:名無しの戦闘員

 負けないでくれ、ロスフェアちゃん

 魔法少女ちゃん達も、デルンケムの皆も 


126:名無しの戦闘員

 がんばえー、みんながんばえー!


127:名無しの戦闘員

 ……ねえ、そろそろいいかな?


128:名無しの戦闘員

 うん、俺もわりと限界きてる


129:名無しの戦闘員

 なんつーか、まあ、ねえ?


130:名無しの戦闘員

 お前ら、ちゃんと応援しろよ!

 ロスフェアちゃん達は正義と平和のためにあんな怪人と戦ってるんだぞ⁉  …………………………www


131:名無しの戦闘員

 あかんもう無理www


132:名無しの戦闘員

 分かってんだよ、みんな真剣なのは分かってんだけどねw


133:名無しの戦闘員

 巨大ボスに立ち向かう変身ヒロインたちって構図に間違いはないんだけど

 ぶっちゃけデカいハカセ王子にフィオナちゃん達が攻撃してるんだからな

 笑うなってのが無理な話


134:名無しの戦闘員

 絵面最悪で草


135:名無しの戦闘員

 真の意味で怪人だよあれ 

 しかし人数多いと映えるなぁw


136:名無しの戦闘員

 怪人ってつまり奇怪な人物だからあのハカセもそれで間違いない


137:名無しの戦闘員

 エレスちゃん・ユエちゃん親娘が炎

 フィオナちゃんは水で、娘のミソラちゃんは氷

 ルルンちゃんが花で、アリスちゃんは風の属性が強めかな

 やっぱ魔法は派手でキレイ

 

138:名無しの戦闘員

 首領ちゃんの娘のジュリアちゃんの鎧はハカセの魔導装甲の系統っぽい

 ちょっと露出上がってデザインも可愛らしさがアップしてるのは自分の娘を着飾りたいからかね?


139:名無しの戦闘員

 正直Lリアちゃん達も全身装甲じゃない方がいい


140:名無しの戦闘員

 >136 

 その理論だと普段のハカセもわりと怪人……?


140:名無しの戦闘員

 別の未来からきてるはずなのにマジカル☆ユエちゃんとらぶりー♡みそらちゃんは仲いいよなぁ

 炎と氷、二人の連携がかっこええ


141:名無しの戦闘員

 緊急生放送が完全にエンターテイメント

 なんかMMOのレイドボス戦見てる気分


142:名無しの戦闘員

 相変わらずユルいな、このスレw


143:名無しの戦闘員

 ワイ将らは裏事情知り過ぎとる

 危機感がないのも仕方ないンゴね


144:名無しの戦闘員

 元凶がなんか言ってんぞ


145:名無しの戦闘員

 おめーはちょっとくらい罪悪感持てやw


146:名無しの戦闘員

 まあまあ 

 しかし改めてみるとウチの社長代理美形やね

 まるで光り輝いてるンゴ


147:名無しの戦闘員

 まるでもなにも実際に光り輝いてますがw


148:名無しの戦闘員

 クピモン・ラディクス

 あれを止めるために魔法少女ちゃん達は来てくれたんだよな


149:名無しの戦闘員

 ぶっちゃけ娘からしたらアレは見たくないよ……


150:名無しの戦闘員

 俺さ、初めて知ったよ

 イケメンでもかぼちゃパンツはナシだって


151:名無しの戦闘員

 お、フィオナちゃんがユエちゃんみそらちゃんのフォローしてる

 フィオナちゃん的にはエレスちゃんの娘って複雑だろうに、やっぱいい子だなぁ…… 


152:名無しの戦闘員

 そういや猫耳ちゃん・ネッコちゃん親娘の姿はないよな?


153:名無しの戦闘員

 俺、現地班 ネッコちゃんの方は確認した

 皆が戦ってるうちに周りに被害が出ないよう避難誘導してる

 

154:名無しの戦闘員

 あのキャラで意外と周り見て動いてんな


155:名無しの戦闘員

 あのキャラでもなにも、ネッコちゃんふざけてる感じだけど実は結構冷静だぞ

 スレ見直したらわかるけど、出していい情報・隠すべき情報はきっちり線引きしてる


156:名無しの戦闘員

 質問回の時とか致命的なことはちゃんと濁してるし義妹嫁大勝利だよね

 さすがに四大幹部の一人で諜報関連を統括してた猫耳くのいちちゃんの娘だ


157:名無しの戦闘員

 途中で願望が紛れとるw


158:名無しの戦闘員

 巨大ハカセマジ強大

 ロスフェア達の総攻撃受けてんのに余裕のツラじゃん


159:名無しの戦闘員

 ハカセの顔だから表情わりとウゼーw


160:名無しの戦闘員

 猫耳ハカセ天使は別に街を壊すとかはしないんだよな

 別に被害を与える訳じゃないけど、純粋に硬くて倒せない

 なんでだ? 誰かがそう願ったってこと?

 

161:名無しの戦闘員

 前に出た愛の言葉を語るレンタルハカセの時と一緒じゃないか?

 なんというか、クピモンって周囲の願望を~とか言うけど、すごく単純で雑な拾い方しかできないんだと思う

 今回も『ハカセに怪我してほしくないなー』って乙女心の結果じゃね?


162:名無しの戦闘員

 ああ、ありそう


163:名無しの戦闘員

 そこら辺の応用が利かない辺りやっぱりプログラムなんだよな

 そういや乙女心といえばさ、なんでI奈ちゃんが最前線に立ってるの?


164:名無しの戦闘員

 いや、それに関してだけどさ

 他のSNS見てみw すげー騒ぎになってるからw










 ロスト・フェアリーズたちに遅れて、ハルヴィエドもまた現地へと向かっていた。

 人は、いつか己と対峙し乗り越えなければならないのだという。

 自らの写し身が現れたのは、そういう試練の時が訪れたのかもしれない。道行きを急ぐ彼の胸には強い葛藤があった。

 主に「これもう猛虎弁減給処分にしてもいいよね? でも現状の猛虎弁のせいというわけでもないし……」みたいな感じです。


「ハル」


 途中、神霊結社デルンケムの四大幹部が一人、ネコミミ義妹ミーニャ・ルオナと出くわした。

 普段からハルヴィエドをおちょくる時以外は冷静で無口な性質だが、今はいやに真剣な表情をしていた。


「ミーニャ。状況は?」

「対象は巨大で極めて堅牢な飛行体。でも、現状攻撃らしき攻撃はなし。ハルの顔でただひたすらイケメンポーズをキメてる、にゃ」

「最悪じゃねーか」


 思わず口調が荒くなってしまうほど状況はひっ迫していた。


「今はフィオナ達が攻撃を加えている。動きを止めても倒すには至っていにゃい。謎の魔法少女猫ネッコも頑張ってるから後で褒めてあげて」

「それは勿論」

「……あと、思ったよりも時間がないかも、にゃ」

 

 すっ、とミーニャの目が鋭く変わった。

 言いながら彼女はスマホの画面を見せつけてくる。


 SNS上では、クピディタース・ラディクスと戦う少女達の姿を見た一般市民が、好き勝手に考察を垂れ流している。

 それは決して好意的なものではなかった。


 ハルヴィエドは、ストロベリーパフェが背筋を通るような、べたついた悪寒に襲わ れた。もう甘いモノ食べて寝てしまいたい。


「これは、こんな、ことが……」

 

 驚愕と恐怖に声が震える。

 世界は、悪意に満ちている。それをまざまざと見せつけられた気がした。


「はやく、姿を見せないと。たぶんとんでもないことになるにゃ」

「ああ。ミーニャんは」

「クピディタース・ラディクスにつられて、雑魚も活性化している。そちらは普通に暴れもするから、私が片付けておくにゃ」

「……すまない、任せる」


 ミーニャの忠告は事実だった。

 SNSで行われている論議は、確実にハルヴィエドを窮地に追い込む。

 周囲に蠢く気配を感じたがミーニャなら何の不安もない。今はただ急がねば、はやる心のままに彼はひたすらに前へ進む。


 そうして、遅れて現地に到着したハルヴィエドだったが、どうにもテンションが上がらなかった。

 例えるなら友達で遊ぶ約束をしていたけどちょっと遅刻してしまったせいで、他のメンバーは盛り上がってるのにイマイチその流れに乗っかれない上に「空気読めよー」みたいな無言の圧力をかけられている感覚だった。


「ハルくん! お願い、止まって」


 戦闘員I奈が、巨猫天使王子ハルヴィエド(偽)に呼び掛けている。もう(偽)っていうか(笑)である。

 他の少女達は必死に食い止めようとしている、といった構図だ。

 ハルヴィエドの虹色の脳細胞は、到着から一分足らずで状況をほぼ正確に把握した。

 おそらくI奈はクピモンの幼体を保護し育てた。その結果があの恥ずかしい巨大なハルくんなのだ。


 何故幼体を確保した時点で報告しなかった。早い段階で対処していればこうはならなかった……なんて責めるつもりはない。

 戦闘員達ともクピモンの情報は共有していた。I奈にしろLリアにしろ理解はしていた筈だ。

 だからといって人間割り切れないこともある。

 きっと全ての事情が分かっていても、I奈たちは傷付いた幼子を見捨てられなかった。

 クピモンの幼体に対しての優しさが引き起こした事態なら、それを責めるのは酷だろう。

 いやまあぶっちゃけ現状出てる被害って「ハルヴィエドが恥ずかしい」以外にないから言えるセリフではあるのだが。

 それは置いておくとして、ハルヴィエドは少女達の戦いを見守っていた。

 というか入り込めずにいた。


「思い出して、ハルくん……私達と過ごした日々を! お願い、元に戻って!」


 I奈ちゃん絶賛ヒロインポジ中。傍から見たら彼女がメインのストーリーだ。

 実際SNS上でもそう言った意見の方が多い。

 その結果、以下のような考察が主流となっている。


『クピディタースに取り込まれた統括幹部代理ハルヴィエドは異形化して暴走。メタル・キティは化物となってしまったハルヴィエドを元に戻そうと必死に呼びかけている』


 という説が蔓延していたのだ!


 いや、おかしいよね⁉

 あの子にはM男っていう立派な恋人がおるんですか⁉


 思わず心の中で突っ込んだが、戦闘員I奈は止まらない。心の中だからね。

 彼女が真剣なのは分かる、分かるのだが。

 なんつーか、これ確かに……ラスボス化した大事な人を止めようと頑張ってる女の子達みたいな構図になっちょる。

 

「若父ちゃんの為にも、オレらだってやらなきゃな!」

「うん。パパのために頑張る!」


 いい子なまじかる☆ユエちゃんと、らぶりー♡みそらちゃん。

 君らの発言によってSNS上では「やっぱり!」みたいな論調になっているんですけど?


「ふふ。うまくいったら、父さん褒めてくれるかな。たかいたかい、またしてほしいな」


 花嵐のアリスが少し切なげに微笑む。

 その哀愁が異形に取り込まれた父を心配しているかのように映る。

 でもごめん、ハルヴィエドこっち。てかなんでそんな誤解招きそうな表情するの?


「ハルヴィエドさん。あなたの尊厳(ハルヴィエドのハルヴィエドの話)を守るために、私は絶対に退かないっ」


 まさかのフィオナたんまで。

 あれ、なにこれ?

 なんかホントにハルヴィエドを救うための戦いみたいなノリである。


「えぇ……」


 ハルヴィエドは思わず微妙な声を漏らした。

 いや、広い意味では彼を救う戦いで間違いはないのだが、なにかがおかしい。

 あと、この前は幹部姿で清流のフィオナに「君が好き」とか言ったから「修羅場? 修羅場なの?」的なコメもしばしば。

 さらには『おそらくメタル兵はハルヴィエドの側近。つまり、あの男を敬愛して強い感情を向け、なんなら命を投げ出してでも救おうとする少女がいてもなんらおかしくない。間違いない』なんてことを真面目に語っているアカウントまで存在している。

 ふつーに間違いですが?

 I奈ちゃん根はいい子だけど生意気アイドルムーブが板に付いちゃってる子ですよ?


「いやいや、そんなことをしている暇はない」


 ハルヴィエドは気合を入れ直し、自らの影たるラディクスを睨む。

 これ以上は放置しておけないと飛行魔法で一気に飛び上がった。


「すまない、遅くなった」


 悪の幹部だがヒーローよろしく、少女達の危機にハルヴィエドは駆け付けた。

 らぶりー♡みそらが「ぱぱ……」と安堵を、清流のフィオナが柔らかな微笑みを向ける。

 他の少女達も気が緩んだのか各々彼の到着を喜んだ。


「ハルヴィエドさんが、二人……!?」


 そんな中で浄炎のエレスだけそんなことを言いました。

 嘘だよね? 状況理解せずに戦ってたの?



 ともかく、ハルヴィエド・カーム・セインはラディクスとの戦いに挑む。

 これは己が恥をそそぐ戦いなのだ。

 雪ぐか注ぐで大分意味が変わるヤツ定期。


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