番外・重さのこと



番外なので今回掲示板パートがありません

内容的には飛ばしても大丈夫なヤツです


─────────────────





 カラオケ店から出ると、茜がグッと背伸びをする。


「あー、歌ったー! 久しぶりに遊んだって感じがするね!」


 最近少し思い悩んでいたみたいだけれど、今日はいつもの朗らかで元気な彼女だ。

 うん、やっぱり茜には明るい笑顔が似合っている。


 心地良い日曜日のこと。

 私は茜と萌と美衣那の四人で駅前まで遊びに出かけた。

 状況証拠からの推察だが、美衣那は首領セルレの傍に控えていた猫耳の幹部だ。


「沙雪、大丈夫?」

「ええ。ただ少し歌いすぎて、喉が疲れたみたい」

「喉飴あるよ」

「ありがとう、美衣那」

「いいってことよ、にゃ」


 時々、この子は「にゃ」なんて語尾を使う。たぶんもう隠す気がないのだろう。

 美衣那がどういう立ち位置にいるのかは分からない。でもある時彼女にこう言われた。


『私はハルの味方。ハルが納得するなら、それが私の望み、にゃ』


 つまりハルヴィエドさんの不利になることはしないという宣言だ。

 ただし『私は沙雪を大切な友達と思っている。でも、首領のことも大好き、にゃ。だから、どちらかに過剰な肩入れはしないし、どちらの為にも動くにゃ』と付け加えた。

 異性である首領セルレ対して「大好き」とまで言うからには、きっと相応の感情はあるはずだ。

 知れば知るほど神霊結社デルンケムとは戦いにくくなる。

 でも、逃げてはいけない。

 この四人でこれからも過ごすためにも、私は首領セルレを倒さなければ。


「沙雪ちゃん! ほら、難しい顔してないで。ちゃんと息抜きもしないと」

「そうですよ沙雪さん、今日はいーっぱい遊びましょう!」


 考え込む私を茜と萌が引き上げてくれた。

 チームの抑え役を気取っているけれど、本当は皆にいつも助けられている。 

 考えなくてはいけないことは多いけれど、今日のところは大好きな親友達としっかり遊ぼう。

 


* * *




「でね。ボクの贔屓のメーカーさんの新しいバッシュが、すっごくかっこいいの」

「そうなの? じゃあ、この後はスポーツ用品店見に行く?」

「いいの?」

「ええ。萌と美衣那も大丈夫?」

「はいっ」

「ん」


 カラオケの後は少し休憩、喫茶店ニルでお喋り。

 膝を壊してバスケ部を辞めたという茜だけど、バスケ自体は今でも好きみたい。

 

「茜は高校ではバスケ部に入るの?」

「うーん、怪我は治ったけど、もうすっかりブランク出来ちゃったからなぁ」

「でも高校からバスケットを初めたけど数か月で全国大会に出た天才選手さんがいるんですよね? 元不良さんだったって」

「萌ちゃん、それ多分漫画の話。赤い髪の人のやつ」


 ケーキを食べながら話題はあちらこちら。

 でも皆で時間を過ごすだけで十分楽しい。


「お待たせしましたー、紅茶のおかわりです」

「ありがとうございます英子先輩」 


 途中で英子先輩が顔を出した。

 それがきっかけになり、次第に話は私と晴彦さんのことに移っていく。


「ちなみに沙雪、ハル兄さんとはどう?」


 美衣那がいつも通りの表情で聞いてくる。


「わぁ、ボクもそれ聞きたいっ」

「私もです!」


 茜はからかい混じり、萌も純粋な好奇心からかとても楽しそう。

 英子先輩だけは複雑そうな顔をしていた。

 

「えぇと、一応? あれからも顔を合わせたり、一緒に遊びに出かけたりは……してる、かな?」


 一緒に食事をしたり、買い物に出かけたりもした。

 晴彦さんからすると日本文化はそれだけで興味深いらしく、色々と案内したらとても喜んでくれた。

 触れ合いも少し増え、距離は大分縮まったと思う。


「おぉ、ハル兄さんに春が」

「でも大丈夫? 沙雪ちゃんの家って、すっごいお金持ちでしょ? ご両親とかうるさくない?」

「あっ、私テレビで見ました! そういうところって、跡継ぎのためにお見合いとかあるんですよね?」


 皆どこか気遣うような視線を向けてくれる。

 確かに私の父は大手企業の代表取締役兼社長だ。

 お金持ちだと羨まれることもあるが、お金持ちなりの苦労もある。


「神無月の娘だもの、確かに色々としがらみはある。でも、私も立場は弁えているから」

「それって……何か言われたら晴彦さんを諦める、とかそういうの?」


 茜の質問に、ぴくりと美衣那が反応した。

 ハルヴィエドさんを軽んじるつもりか、というところだろう。

 でも何も心配はない。


「いいえ。父なら既に説得したわ」


 そう、私は晴彦さんとのことを父に明かしたうえで「私は政略に使われるのか?」と問い詰めた。

 彼と交際できたとして、途中で「グループのために他の男と婚約を」となっては困る。

 その辺りの事情は初めから明確にしておいてほしい。

 もちろんすべて私の我儘なのだから、縁を切られても納得して受け入れると宣言してある。

 

「当然ながら父は難色を示した。でも、最後には認めてくれたわ。政略による婚約はない。会社を任せられる人材なら次期社長として修業をしてもらい、そうでない場合は別の人材を立てるだけだと」


 もちろん後者なら、私が得られる財産は大幅に減ると言われた。

 それでも我儘な私に温情をくれたのだから、父の優しさには感謝をしている。

 お見合いが持ち上がる前に手を打てたのは我ながらよくやったと思う。美衣那も満足そうに頷いていた。


「ねえ、沙雪ちゃん? まだハルさんとは付き合ってないのよね?」


 英子先輩が怪訝そうに言った。


「はい? ええ、もちろん」


 デートは重ねたが、交際はすべての決着がつくまで我慢している。

 ただ、もし交際が始まっても家庭の事情で別れさせられるのは嫌だもの。ドラマの定番だけどそういう盛り上がりはいらない。後顧の憂いは初めから断つに限る。

 私、頑張った。

 ちょっと自慢気に胸を張ったのに、何故か英子先輩と茜はこそこそと内緒話をしていた。


「ねえ茜ちゃん、この子重くない? まだ付き合ってないんだよね?」

「あっ、英子さんもそう思います? ボクも実は最近気づいて。この前、晴彦さんと外国人の美女さんのことじーっと見てたし」

「レティさんは私と同じでマスターのお嫁さんなのに……。これはよろしくない兆候な気がするよ」

「あれ? その発言もけっこう微妙な気が」


 思っていた反応と違う。

 そしてさらにこそこそ話が続いた後、英子先輩が私をじっと見た。


「沙雪ちゃん。貴女は、自分の行動に疑問を抱かない?」

「え、え? 特には……むしろ、晴彦さんに心配かけずに済んでよかったかな、と」

「えーと、じゃあ例えば、クラスの男子の誘いとかあるでしょ? そういう時はどうしてる?」

「当然すべて断っていますし、男子と二人きりになる状況自体つくらないようにしています」

「えぇ……」

(牛丼屋さんでのことがバレたらボクは危険なのでは……?)

「ちなみに茜と牛丼屋に行ったことは、晴彦さんから直接聞いているから大丈夫」

「心読まれた⁉」


 晴彦さんは私に好意を向けてくれている。

 そんな彼をヤキモキさせるのは本意じゃない。

 よく「嫉妬されるのが嬉しい」と恋人を試す女性の話があるけれど、私は好きな人にはいつも心安らかにいてほしいと思う。

 それで時折頭を撫でてくれたなら、もっと幸せ。 


「そっかぁ……沙雪ちゃん。ちょっと心理テストしてみない?」

「心理テスト、ですか?」

「うん。やってみたほうがいいよ。今後のために」


 いきなりの提案に疑問を抱きつつも、英子先輩の勢いに押されて頷いてしまう。


「じゃあ、始めよっか。……恋愛心理テスト、重量編!」




* * *




 今から心理テストを始めます。

 三つの選択肢から選んでください。



Q1すぐに電話で呼び出せる異性の友達は何人?

 A いない

 B 1~4人ぐらい

 C 5人以上いる


 沙雪「Aです。男子の友人は殆どいないので」

  茜「ボクはCかな。クラスにも結構いるよ」

  萌「えーと、A、かなぁ。あんまり思いつかないです」

  茜「……頑張れ、ボクの弟よ」

 沙雪(萌は晴彦さんのことを“大事な友達”と呼んでいたような……?)


Q2昼食はどのように過ごすことが多い?

 A いつも一緒に食べる人がいる

 B ひとりのときと、友達と食べるときと半々の割合

 C ほとんどひとりで食べている


 沙雪「Bでしょうか」

  茜「A。やっぱり固定メンバーになっちゃうよね。皆で食べる方が美味しいし」

  萌「私もAです。クラスの友達と一緒が多いです」

 沙雪「私、茜たちが一番の親友だから、クラスではあまり……」

 


Q3「彼氏に尽くす」と聞いて最初に思いつくことは?

 A 料理・洗濯などの家事で尽くす

 B グチを聞いたり、仕事を手伝ってあげること

 C 欲しがっているものをプレゼント


 沙雪「Aですね。インスタントを好む人ですから、お世話してあげたいなぁと」

  茜「B。というかボク、料理とかお掃除苦手……」

  萌「A、かな。そういうの憧れます、えへへ」

美衣那「料理なら私が有利。ハル兄さんの好みは完璧に把握してる」

 沙雪「う……精進します」



Q4好きな異性と話す時、自分の話は結構する?

 A 聞き専です

 B 自分と相手の話、半々ぐらい

 C 自分の方が多いかもしれない


 沙雪「Bです。お互いを知って、仲良くなれるのは素敵だと思います」

  茜「ボクもB。自分のことばっかりじゃつまらないしね」

  萌「Aですっ。好きな人のことは、やっぱり色々知りたいです」

  茜「あれ? 萌ちゃん、もしかしてそういう人いるの?」

  萌「え? そ、そういう訳じゃないです。想像というか」←まだ自覚ナシ



Q5あなたにとって恋愛とは?

 A 心のオアシス・よりどころ

 B 癒し

 C ドキドキ


 沙雪「これは、Aです。彼と会う以前よりも、心地よく過ごせていますから」

  茜「う、うーん? Bなのかなぁ……? ドキドキよりも安心できる相手がいいな。そもそもボク好きな人がいる訳じゃないけど」

  萌「え、Aです。私も初恋とかは、よく分からないけど。好きな人のためなら、きっと今より頑張れると思いますっ」

 沙雪「そうね。大切な人のためなら、もっと強くなれる」

  茜「……やっぱりそこはかとない疎外感が」



 すべての質問が終了しました!

 この心理テストは、あなたの恋愛に対する「重さ」を診断します!


 沙雪「重さ、ですか?」←A・3個、B2個

  茜「どゆこと」←B3個、C1個、A1個

  萌「え?」←A5個




 * * *



 心理テストが終わった。

 英子先輩がいうには、これは恋愛における重さを測るもの。

 A・B・Cの回答で一番多かったものが何かで判断するのだという。


「まず誰もいなかったCは軽量級。恋多き小悪魔タイプ。反面恋愛への執着心が薄いタイプかなぁ。茜ちゃんは、一個だけどあるし、実は小悪魔なところがあるのかも?」

「ボクが? んー、ないですよ。小悪魔って複数の男の人に好きになられちゃう、アレですよね? ううん、さすがに無理がある」

 

 軽く笑い飛ばしているけど茜は可愛い。

 別にそれほど不思議でもなかった。


「次だね。Bが一番多かった人は中量級」

「ボクだ」←B3個

「重すぎず軽すぎず、バランス感覚が優秀なタイプ。まさに男性にとって理想のカノジョだね」

「えー、な、なんか照れるなぁ」

「ただ交際中に安定した関係を保つのは得意でも、出会いから恋愛関係に結び付けるまでに苦戦するタイプ。好きな人と友達のまま、ということもしばしば。気を付けてね」

「気を付けても何も、そういう意味で親しい男の人がいないです……」


 茜が理想のカノジョ、というのは理解できる。

 この子を恋人に出来る人はきっと幸せだろう。

 さて、次は私と萌の番だけど。


「じゃあ最後。Aが一番多かった人は、重量級。いわゆる“重い女”だよ」


 英子先輩の宣告は非情だった。


「お、重い、ですか? 私が?」←A3個

「うん。Aの貴女は恋人に尽くし、愛することに喜びを感じるタイプ。付き合い始めはいいけど、続くと愛の重さに男性が疲れてしまう可能性も、だってさ」

「そ、そんな」


 晴彦さんが疲れてしまう?

 すごく上手くいっていると思っていたのに、意外過ぎる答えに私は動揺していた。


「沙雪ちゃん、悲しいけどこれが答えなの」

「あの、もしかして……付き合う前からお見合い対策を打つのは、重かったですか?」

「……残念ながら」

「……」←A5個


 でも、好きな人がいるのに婚約話が持ち上がるなんて嫌だ。

 わ、私はいったいどうすればよかったのか。


「あっ、え、英子先輩。胸元に頭を預けて撫でてアピールするのは?」

「さ、沙雪ちゃん……そんなことしてたんだね」

「ね、寝る前に晴彦さんのくれたメッセージを読み直すのは大丈夫ですよね!?」

「う、それは……まあ、オトメゴコロ的な? うん、それくらいならいいと思う」

「…………」←A5個


 よかった。

 それならスマホの待ち受けが二人で撮った画像でも問題がないということだ。


「でも、わ、私はどうすれば……?」

「Bが2個あったし、そこまでひどい訳じゃないと思うよ? でも、あんまり束縛とかしないように気を付けてね。一呼吸おいて、ちゃんとハルさんのことを考えてあげれば、一途だってことでもあるんだから」

「はっ、はい!」

 

 どうやら私が少し重いタイプというのは認めなくてはいけないようだ。

 ただ、ここで行いを見直せる機会が得られたのは幸いだった。

 

「とりあえず、まずは晴彦さんに相談します」

「あれ、話しちゃうの?」


 茜が不思議そうに聞くけれど、その質問こそ私には意外だった。


「え? だって私一人で考えて行動を変えたら、晴彦さんが戸惑うかもしれないでしょう? 交際は相手ありきのことだから」

「沙雪、いいこと言った。貴女はとても正しい、にゃ」←A4個

「二人はまだ付き合ってないはずなんだけど……これボクがおかしいのかなぁ」


 私はまだまだ恋愛初心者。

 それに晴彦さんは別次元の人ということもあって、微妙に常識にもズレがある。

 

「よし、頑張ろう」


 だから将来の生活を共にすることになっても問題ないように。

 今のうちから考えていかなければならないだろう。






 なお途中から無言になってしまった萌ちゃんは。


「……え? お、重い? ふ、普通のことじゃ……」←A5個


 最後まで沙雪ちゃんの発言のどこが重いのか理解できませんでした。




 ◆



 おまけ1・元戦闘員A子とルオナ幹部の内緒話


 「ちなみに、ミーニャさん? 沙雪ちゃんのこと、いいんですか?」

 「にゃ? ハルが望むなら、それが私の望み、にゃ。沙雪も結構好きだし」

 「この人も結構重い……ハルさん大丈夫かなぁ」





 おまけ2・ミーニャが心理テストを覚えてハルヴィエドに出した結果


「ば、馬鹿な……⁉ わ、私が愛情の重いタイプだと……⁉」←A4個

「むしろ気付いていなかったことにびっくりにゃ」


 さらにその夜。


  Sayuki【あの、晴彦さん。私って重い女でしょうか?】

 ハルっち【そうは思わないかな。甘えてもらえるのは嬉しい。逆に私はどうだろうか】

  Sayuki【いえ、重いと思ったことはありません。少し照れる時もありますが】

 ハルっち【なら安心した。やはり心理テストなんて当てにならないな】

  Sayuki【本当ですね】


 重い同士なので何がおかしいのか理解できない二人。

 とりあえず一件落着です。

 




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る