40、あいこでしょ。
「‥‥‥何よ」
「‥‥‥何も言ってません」
「‥‥‥駄目?」
「‥‥‥いいえ」
4回戦も終わり、休日を挟んで本日より通常通り学園は再開される。
学園へ向かう馬車の中。
いつも通り向かい合って座っていた俺達。
だが、馬車が発車して暫くすると、席から立ち上がったご主人様は、俺の隣にちょこんと座ると、腕を掴んできたのだった。
いよいよ、距離感がすごい事になってきました。
───もしかして俺たちの関係は、ラブラブカップルという最終形態に進化してしまったのでは?!
「調子に乗るんじゃないわよ‥‥‥」
「‥‥‥はい」
怒られた。
どうやら、ご主人様には人の心を読む能力まで備わっているようです‥‥‥。
「あと、いやらしい目でコッチ見ないで、
「別に発情してませんから‥‥‥」
「どうせあんた、私を簡単な女だと思ってんでしょ‥‥‥」
‥‥‥簡単?
何言ってんのか分からない時が多いあなたの攻略難易度は、かなり高めに設定されてると思いますが‥‥‥。
現在進行形のこの会話イベントだって、選択肢をミスれば取り返しのつかない事になりかねない。
───さて‥‥‥なんて言えば正解か。
「今日も可愛いなと思って見てただけです」
「‥‥‥ぅぐ」
顔を赤くして俯いてしまった。
───勝った。
我ながら、打たれ弱いという相手の弱点を突いた、見事な攻撃だったなと思う。
まあ、攻略は大変そうではあるが‥‥‥なんというか‥‥‥俺に引っ付いてモジモジしてるこの人は、やはりとても可愛い‥‥‥。
昨晩のクッキー事件は、ご主人様がゲーム中に起こる幼稚な嫌がらせの犯人を自分だと思い、落ち込んだ事により発生した事案。
本人に聞くと、初めの嫌がらせでネロを襲ったのは、ガルシア伯爵の指示によるモノだと確信しているようだ。
だが、ゲーム中で行われる他の幼稚な嫌がらせは、ローズ・ブラッドリィ、つまりご主人様本人が、育ててくれたガルシア伯爵へ恩を返す為に行っていた可能性が高いと思ったらしい。
現状ではまだ、最初のネロを襲撃するイベントしか行われていない。
ポイント1位の令嬢に対する鞭を破壊する嫌がらせは、俺達の妨害工作により回避している。
だけど、嫌がらせをする筈の本人であるご主人様にやる気がなかった為に、ストーリーに反して何も起こらなかったという考え方も出来ると‥‥‥。
確かに、筋は通るのだが‥‥‥。
───この人、本当にそんな事できんのかな?
「だから‥‥‥こっち見んなゴミ屑」
「あ、すいません」
口は悪いし謎の言動をすることが多い。
一見すると、この人は酷い人間のように思われがちだけど、心は純粋でとても良い人だと俺は思う。
そうでなきゃ、昨晩のように凹んだりしないはずなんだよな。
「次見たら、今日のお弁当なしにしようかな‥‥‥」
───は?
また謎言動が始まったぞ‥‥‥。
あなたの作ったお弁当を食べる事が、俺のこの世界での唯一の楽しみなんですよ?
それを奪おうなんて、常識を兼ね備えた人間に出来る行動ではないでしょ。
「ご主人様、そんな冗談ばっか言ってるから、変な人と思われちゃうんですよ」
「はい、今見た」
「今のは違います。抗議の為に仕方なく‥‥‥だからノーカンでしょ」
「はい、また見た」
「まさか‥‥‥本気で言ってないですよね?!」
「あんた、何回見んのよ‥‥‥変態なの?」
話してんですから、そりゃ見るでしょ?!
「そのルール、無理ですって‥‥‥」
「ねえ、そんなに食べたい?」
「当たり前でしょ!」
「学園に着くまでに私をもっと喜ばすことが出来たら、いつも通りお昼に持って行ってあげてもいいわよ」
「喜ばす?!」
喜ばすって‥‥‥見るだけで怒られるのに、何をどうすんですか?
「今度は私の勝ちね‥‥‥コレでおあいこよ」
そう言ってクスクス笑うご主人様。
「はい?」
「‥‥‥なんでもない。さあ、頑張ってみなさいよ」
人の生き甲斐を奪おうとして笑えるとは‥‥‥もしかしたら、この人は性格にも難があるかのもしれない‥‥‥。
「ねえ‥‥‥もう、着いたんだけど?」
「え? もう?!」
お弁当をどうやって取り戻そうかと思案する俺の考えがまとまる前に、馬車は無情にも学園に到着してしまっていたようだ。
「あんたって、考え込むと周りが全く見えなくなるわよね‥‥‥」
「一大事ですから」
「そのくせ全然正解を導き出せないのね‥‥‥本当に脳味噌どうなってんの?」
「‥‥‥うるさいです」
わからんもんはわからん。
「もういいわ‥‥‥お弁当は持って行ってあげるから、夜までの宿題ね」
そう言うと、ご主人様はニッコリと笑みを浮かべながら、ヒラリと馬車から降りていってしまった。
まあ、お弁当はくれるみたいだし、ゆっくり考えるかな‥‥‥。
───あ、そうだ!
レックス君達に答えを教えてもらおう。
なんたってアイツらは乙女ゲームに登場するイケメンキャラ。
女の子の欲しがってる答えくらい、簡単にわかる筈だ。
───やばい、俺って天才?!
「ローズ・ブラッドリィよ、待っておったぞ」
学園に到着し馬車から降りたご主人様を出迎えたのは、意外な人物だった。
「ピエール様、このような所で何をされているのですか?」
───マスコットがいるっ!
ご主人様に声をかけてきたのは、ピエール王子。
お供の人間を数人連れて、校舎の入り口の前に立ってるものだから目立って仕方ない。
「
可愛らしくウインクするマスコット。
───王子が学園に来るイベントなんて、ゲーム中にあったっけ?
「なんの御用でしょうか?」
対照的に冷たい目のご主人様。
「
頬を染め可愛くモジモジしてるマスコット。
───興味だと?!
コレはもう気に入られるどころか、フラグがビンビンにたっているのでは?!
───ご主人様、やった!
あ、いや待て、まだだ‥‥‥まだ喜ぶのは早い。
今まさに王子に告白されてんだ、なんか返事を‥‥‥上手いこと返事をさせないと!
急ぎご主人様の元に向かう俺ではあったが、馬車から降りたばかりなのでその距離はまだ遠い。
そして残念ながら、俺が駆けつけるより早くご主人様は口を開いてしまう‥‥‥。
「‥‥‥キモッ」
───うわ!
間に合わなかった‥‥‥王子にまさかの暴言。
‥‥‥全て終わった。
「やはり、其方は
なんでそれで喜ぶんだ王子?!
───もしかしてこの2人‥‥‥俺が心配しなくても、元々相性良かったりするのかな‥‥‥。
ご主人様の生存ルートが確保された気がして喜んではいるのだが、俺は何故か心の奥の方で何かがムズムズとする感覚を覚えたのだった。
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