36、誇り高き戦士。



「試合には負けましたが、勝負に勝ったって所ですかね」


「‥‥‥そう」


「王子にいつでも会いに行けるようになったのは、かなり大きいと思います」


「嫌だからね」


「‥‥‥まだ何も言ってません」


 ご主人様の部屋。

 王宮での死闘を終え無事に帰宅したご主人様と俺は、いつもの【イチャイチャな会話】を実行中です。


 4回戦『ドキドキ、俺のハートに火をつけろ!』は、ご主人様が最下位という結果で幕を閉じた。

 ヒロインリディア嬢が貫禄の1位、次いで雑魚ギャルエリザベスが2位。

 嫌がらせを回避し、奇跡の出場を果たしたおっとりニーナ嬢は3位だった。


 結果だけ見れば、俺達悪役ペアは惨敗である。


 ───だが、ピエール王子は確実にご主人様に好意を持った筈。


 俺の知るストーリーとは大分違うが、王子に気に入られている状態で大会で優勝し、王子と結婚する選択をすればご主人様は処刑されない。

 もし王子がまだご主人様をそこまで気に入ってなかったとしても、ちょこちょこ顔を出して適当に相手をしていれば、勝手に好感度は上がるような気がする。

 この人は化け物級の容姿をお持ちなわけだし‥‥‥。


「行かないわよ」


「‥‥‥そう言わず、明日は学園も休みですし早速顔を出しましょうよ」


 こういうのは早い方がいいに決まってる。


「無理」


「もう、ご主人様は‥‥‥」


 今に始まった事ではないが、相変わらず頑固です。


「明日は人に会いに行くから‥‥‥」


「‥‥‥人に会う?」


 ご主人様が休日にどこかに出かけたりするのを、今まで見たことがなかった。


 ───コレは怪しいな‥‥‥。


 ピエール王子に会いたくないから、咄嗟についた嘘かもしれない。


「どうしても家に遊びに来て欲しいって言われたから、断りきれなかったのよね」


「ご主人様が遊びに誘われた?!」


 ‥‥‥やはり嘘だ。

 眉間に皺を寄せて全く話さないご主人様と、プライベートで遊びたいなんて思う人がいるはずがない。


「何、驚いてんのよ?」


「ご主人様に友達なんていなかったでしょ?」


「私だって頑張れば、友達の1人や2人くらいすぐ作れるんだから」


「‥‥‥あんまり話を広げると後で後悔しますよ?」


「あんたね‥‥‥怒るわよ」


「‥‥‥はい」


 もっと人と話して仲良くした方がいいと言ったのは俺だが、この人にそんな簡単に友達が出来るわけがない。

 

 ───もうこの話はやめよう‥‥‥。


 これ以上この話をしても誰も得をしないんだ。

 明日ピエール王子に会いに行こうなんて、俺がもう言わなければ、この話は終わる。

 また様子を見て次の機会を待つか‥‥‥。

 

「明日はその人と一緒にクッキーを作る予定なんだけど‥‥‥食べたい?」


「‥‥‥?!」


 まだ友達がいる感じで、話を続けるのか?!

 その嘘は本当に自分が悲しくなるだけですよ‥‥‥。


「なんで黙んのよ?」


「いや、なんて言うか‥‥‥」


「あんた‥‥‥もしかして、私が他の人と仲良くするのが‥‥‥嫌なだけじゃないの?」


 ───違います。


「‥‥‥そういうのじゃなくてですね」


「私だってちょっと本気を出せば、色んな人と仲良くなれるんだからね」


 ニヤリと笑い俺の顔を見るご主人様。


 ───‥‥‥駄目だ。


 友達が出来たなんて、嘘をつくご主人様を、やっぱり俺はこれ以上見ていたくない‥‥‥。

 

「‥‥‥ご主人様‥‥‥もう、やめてください‥‥‥」


「あんた、私を独り占め出来なくて悲しいだけなんでしょ?」


「‥‥‥」


「あんたがもっと可愛がってくれてたら、こんな事にならなかったかもね」


「‥‥‥」


「今からでもまだ間に合うかもしれないんだから‥‥‥だ、抱っこ‥‥‥でもしてみなさいよ、このウジ虫。早くしないと、私もっと沢山の人と遊んじゃうんだから」


「もう‥‥‥もう、やめてください!」


「‥‥‥何よ急に」


「もう明日は王子に会いに行かなくていいですから‥‥‥違う話をしましょう‥‥‥」


「‥‥‥‥‥‥お、怒ったの?」

 

「こんな嘘をついても、最後に傷付くのはご主人様自身なんですよ!」


「‥‥‥嘘?」


 友達がいるなんて嘘は、自分を傷付けるだけなんだ‥‥‥。

 きっと後で1人になった時に、ご主人様は物凄い虚無感に襲われる事になるだろう。


「友達がいなくたって‥‥‥皆んなに嫌われていたって‥‥‥誇り高く生きてるご主人様が、俺は本当に大好きなんです!」


「‥‥‥?!」


「そんなご主人様が後で悲しむ姿なんて、俺は見たくないんです!」


「‥‥‥ねえ」


「大丈夫! ご主人様には俺がいます! 友達がいなくたって、俺がいっぱい遊んであげますから!」


「おい‥‥‥コラッ」


「あ、はい」


「なんか色々言ってたけど‥‥‥叩いていい?」


「‥‥‥はい?!」


 なんで?!







「‥‥‥ありえない」


「それ以上言うと、クッキーあげないわよ?」


「それは困ります!」


 ご主人様は嘘をついてなかった。

 どうやら明日会う人物とはニーナ嬢らしい。

 嫌がらせの妨害の為に話し始めたとはいえ、プライベートで会うようになるなんて思いもしなかった。


 ───コレは凄い進歩だ。


「ご主人様に友達が出来るなんて、俺感動してます!」


「‥‥‥あんたね、本当に叩くわよ?」


「はい」


 ‥‥‥睨まれました。


「で‥‥‥あんたも来るんでしょ?」


「いえ、邪魔したくないんでやめときます」

 

「駄目」


 じゃあ初めから聞かんでください‥‥‥。



 こうしてご主人様と俺は、ニーナ嬢の屋敷に遊びに行く事になったのだった。





【王子争奪戦〜俺のハートをキャッチしろ杯〜】

[総獲得ポイント]


ニーナ・ベル      8点

リディア・アンデルマン 8点

ローズ・ブラッドリィ  5点

エリザベス・ムーア   3点

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