33、初回予約特典で王子の非売品キーホルダーが付いてきます。



 結果的にニーナ嬢への嫌がらせは回避できた。

 俺達の妨害工作により止められたのか、はたまた元からなかったのかは不明だが、なんにせよ俺の知ってるストーリーと変わったのは事実。


 ───実に大きな一歩だ。



 そして、晴れて令嬢全員参加で、4回戦『ドキドキ、俺のハートに火をつけろ!』の戦いの火蓋は今まさに切られようとしていた。



「苦しゅうない、おもてを上げるのじゃ」


 ひざまずく令嬢達の前で、豪華な椅子に座っているこの男こそ、このゲームの主要人物であるピエール王子。

 嫁探しの為に大会を主催している本人であり、次期国王になる男である。


「なるほど‥‥‥実写化すると以外と可愛いんですね。もっとエグいのを想像してました」


「肉団子にしか見えないわよ?」


「ご主人様、確かにその通りですが、悪口はもっと小さな声でお願いします。聞こえちゃいますよ‥‥‥」


 広い部屋だが、ここは静まり返る王子の御前。

 本人に声が届かないとも限らない。


「‥‥‥全部聞こえておるぞ?」


 寂しそうな瞳で、俺とご主人様を見つめるピエール王子。


「あ‥‥‥」


 既に手遅れでした‥‥‥。



 ピエール王子は開発陣により、ゲームのマスコットとして造られたキャラだった。

 ゲームのパッケージでも超美麗ネロ様やイケメンレックス君を隅に追いやり、中央に描かれていたりする。

 まあ一応、王子である彼を令嬢達が奪い合うのがメインストーリーなので、間違いではないと思いはするのだが、おそらくこのゲームをクソゲーに昇華させたのは彼の功績だと言っても過言ではない。


 なんというか‥‥‥デザインもキャラ設定も雑なんだよな‥‥‥。


「ねえ、あの耳は何なの?」


「可愛さアピールの為の、ワンポイントアイテムじゃないですか?」


 可愛らしい動物のようなマスコット王子という開発陣の無理難題に押し切られる形で絵師に描かれた彼は、丸々とした身体つきで背が低く頭に猫耳を付けていた。

 普通に人間の耳も存在してるので、おそらくアレはアクセサリーなのだろう。


「‥‥‥にしても、キモいわね」


「俺は想像してたよりも可愛いらしい見た目だったんで、割と驚いてますけど?」


「見た目じゃなくて性格の事を言ってんのよ」


 ご主人様が言うように、マスコットとしても攻略対象としても人気が出なかった一番の原因は、彼の性格のせいだろう。

 

 令嬢達に鞭を持って争わせたり、ボンテージを着せて女王様スタイルにしたりしてる事でお分かりだと思うが、彼は生粋のドMなのであった。

 どうも自分の嫁候補が他のイケメン奴隷とイチャイチャしてる事にも喜んでいる節がある‥‥‥。

 マスコットキャラが変態ドM王子では、ゲームの人気が出るわけもない。


 ───流行りのモフモフのペットでも出せば良かったんだよ‥‥‥。


 攻略対象者として毎回最後の選択に一応は登場するのだが、プレイする婦女子は普通にカッコいい奴隷達を選ぶわな‥‥‥。


 可愛いマスコットにしたかったのか、攻略対象にしたかったのか、開発陣肝入りのよくわからない謎キャラ。


 そう、彼こそがこのクソゲーの代名詞のような存在なのである。



「ご主人様、頑張って鞭で喜ばせてあげてくださいね」


「気が重いわね」


「相手は完全に変態なんで、何も気にせずヒィヒィ言わせてやってください」


「気持ちも悪いわね」


「‥‥‥お主ら、さっきも言ったが、全部聞こえておるぞ‥‥‥」


「あ‥‥‥」


 悲しそうな顔で、俺とご主人様を見つめるマスコットキャラであった。


 





「では、コレから4回戦を始める。くれぐれも王子に粗相そそうのないように!」


 城の偉そうな髭のおじさんの号令。


 ───王子に鞭を打つんだ、粗相でしかないだろ‥‥‥。


「さあ令嬢達よ、その鞭を持ち愉悦ゆえつの世界にいざなうのじゃ!」


 四つん這いになり、お尻を此方に向けるピエール王子。


 ───本人が欲しがってるので、やはり粗相ではないようです。


「ニーナ・ベル様、お願いします!」


 一人目の挑戦者はおっとり令嬢のニーナ。

 レックス君曰く、日頃からあまり鞭を打たないと言っていたが、果たしてどうであろうか‥‥‥。


「ニーナ、落ち着いてね」


「レックスさん、頑張ってきます!」


 奴隷との抱擁を終え、ピエール王子のお尻の前に立つボンテージ姿のニーナ嬢。

 その瞳は真剣そのものだ。


 そして、緊張で張り詰めた雰囲気に包まれる会場。


 ガルシア伯爵の嫌がらせを回避し、この場所にニーナ嬢が立てている事はとても喜ばしいのだが‥‥‥。


 ───うん、やっぱり色々おかしいな。


 少し気を緩めると笑ってしまいそうだ。


「さあ、ニーナ・ベルよ、其方の愛を余に見せてくれ!」


 尻を振る王子の言葉を合図にニーナ嬢が動きだす。


「えいっ!」



 ピシッ!



「うッ‥‥‥」


 振り下ろされた鞭は、ピエール王子の尻を正確に捉え、乾いた音を響かせた。

 

 ───痛そう‥‥‥。


 コレは、かなりの高得点が予想されるんじゃないか?

 本人も『うッ』とか言って床に転がってるしな‥‥‥。


「ピエール様、如何でしたか?」


「‥‥‥ニーナ・ベルよ、まだまだじゃな。もっと強く打ち込まんと、余に愛は伝わらんぞ」


 立ち上がりニヤリと笑うピエール王子。



 ‥‥‥やばい採点基準が全くわからん。

 果たしてご主人様は大丈夫なんだろうか?

 

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