17、3つの選択肢。



『ドキドキ! 奴隷パニック!』は、腰蓑こしみの一丁の男性奴隷を購入し、大会をクリアーしながら愛を育んでいくゲーム。

 設定もシナリオも大して面白くないクソゲーだが、腐っても乙女用のゲーム。

 大会以外にも、奴隷と急接近出来るようなイベントが沢山用意されていた。

 そしてそのイベントは、当然のようにこの世界でも行われる。

 



「ご主人様って、こういうのにちゃんと参加するんですね」


「‥‥‥あんたは私を何だと思ってんの?」


 性格の歪んだ悪役令嬢‥‥‥とは流石に面と向かっては言えない。



 学園主催の遠足。

 生徒の令嬢達と、何故か付いてくる4人の奴隷達で近くの湖に来ていた。

 この遠足でヒロインリディアは、その辺の花で作った謎の花飾りを奴隷にプレゼントし、その後テンションを上げてはしゃぎ過ぎた結果、湖に転落しそうになった所を抱きしめられて救われるイベントが発生する。

 奴隷からの好感度と何故かステータスまで爆上がりするので、リディアを操作するプレイヤーとしてはとてもありがたいイベント。

 

 ───敵役の俺たちにとっては、全く嬉しくもない。


 主人公優遇も大概にしてほしいもんだ。




 他の生徒達とは少し離れた湖の側で、レジャーシートのような布切れに座っている俺とご主人様。


「‥‥‥あっ! リディア嬢とネロが動きだした」


「あんた、のぞきが趣味なの?」


「リディア嬢が花飾りをネロに渡すと、ステータスが上がるってさっき言ったでしょ‥‥‥。気になりません?」


「渡す物を間違えたら、何も起こらないんでしょ?」


 そう、花飾りを渡すと言ったが、奴隷に渡すプレゼントは一応選択制。

 ただ、3択のうち残り2つは『虫の死骸』と『葉っぱのお面』である。

 誰が選ぶんだと‥‥‥。


「虫の死骸なんて渡す人居ると思います?」


「私なら葉っぱのお面ね。格好と合ってるし」


 腰蓑こしみのに葉っぱのお面‥‥‥シャーマンですか?


「まあ、ご主人様の変な趣味は置いといてですね‥‥‥」


のぞきが趣味の哀れな生物に言われたくないわ」


「そんな趣味はないです。‥‥‥そんな事より‥‥‥また、なんか近くないです?」


「ほんとに自意識過剰な便所虫ね。好感度見てから、あんたは私を意識しすぎよ、キモいキモい」


 座っている広めの布───なんかめんどくさいので、今日からこの世界のピクニックなどで下に敷く布はレジャーシートと名付ける事に決めた───


 レジャーシートはかなり大きめなサイズなのだが、気をつかって隅っこに座った俺の横に何故か並んで座っているご主人様。


「‥‥‥そうかな」


「そう」


 むしろ好感度を見られてから、おかしくなったのはあなただと思う。

 少し話してくれるようになったのはありがたいが、妙に距離感が近い気がするんだが‥‥‥。


 ───コイツが言うように俺の気のせいか?


 意識はしてないと思うが‥‥‥。

 いや、コイツの見た目は俺の好みのどストライクなので、全く意識してないなんて事はないか‥‥‥。


 前まではどんなに可愛かろうと、ゲームの悪役振りを知っていたから毛嫌いしていたんだよな。

 でも話してわかったが、コイツは悪い奴じゃなかったわけで‥‥‥。


 ───もしかして‥‥‥俺はローズ・ブラッドリィを意識してるのか?!



「ねえ、ご主人様、俺って好感度いくつですか?」


「えっ?‥‥‥教えないわよ‥‥‥」


「別に減るもんじゃないし、教えてくださいよ」


「‥‥‥嫌よ」


「自分だけ知っててずるい」


「‥‥‥私は聞きたくなかったわ」


 そうか?

 自分の好感度って興味ない?


「俺は聞きたいです!」


「‥‥‥そんなに聞きたいの?」


「ええ、出来れば」


「‥‥‥100よ」


「え? 100?!」


「あんたは私の事が‥‥‥す、好きなのよっ!」


 100だと?!

 こんなフワッとした感じでMAX値なの?!

 そんな事が‥‥‥。


 ───そうか‥‥‥全てが繋がった!



「ご主人様、俺わかりました」


「そ、そう。わかったなら‥‥‥これからは、私をもっと可愛がっ────」

 

「この世界の好感度バグってます!」


「バグ?」


「ああ、壊れてるって意味です。イケメンの腰蓑男性が、俺への好感度85だった時点で、おかしいとは思ってたんですよ!」


「‥‥‥え?」


「あのローズ・ブラッドリィがもしかして俺の事好きなのかもとか思って、ちょっと意識しちゃいそうだったんです。危ない、危ない」


「‥‥‥?!」


「ご主人様も危なかったですよ。このまま進むと、好きでもない奴隷からの告白イベントを、エンディングで見る可能性がありましたから‥‥‥」


「‥‥‥‥‥‥はぅっ?!」


「いや〜、リアルな数値じゃなくて良かったです! ご主人様は無駄に可愛いから、心が持っていかれる所でしたよ」


「‥‥‥」


「ご主人様、聞いてます?」


「‥‥‥56」


「え?」


「‥‥‥あんたの好感度‥‥‥本当は56っ!」


 ───‥‥‥リアルっ!






 その後、俺たちはなんとなくお互いに口を開かなかった‥‥‥。



 だが、遠足イベントも終盤を迎え、片付けをし始めた頃に事件が起こる。


「ね、ねえ‥‥‥アレって‥‥‥」


 レジャーシートを片付けていた俺の服の裾を掴んで引っ張るご主人様。


「どうしました?」


 ご主人様が指差している方に顔を向けると、他の生徒達が集まっている辺りに、妙な格好をした人物が居た。


 腰蓑こしみの一丁に葉っぱのお面を装備する男───

 

 ───シャーマンッ!!



 どうやら、リディア嬢はイベントを失敗したようだ‥‥‥。


 アレ‥‥‥超美麗ネロ様ですよね?

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