16、結局、大事なのは鞭。
「ちょっと好感度が高かったからって、調子に乗らないで」
「‥‥‥大丈夫です。全く調子は上がってません。なんなら絶不調です」
クッションで殴りかかってくる赤鬼は強かった。
暴行を受けて床に大の字で倒れてる俺は、赤鬼に冷たい視線で見下ろされている。
「どうせ好感度は60とか70程度なんでしょ? そのくらいで舞い上がらないで。私は優しいから、だいたいの生物に対してもそのくらいの好感度があるの。残念だけど、あんたはその辺の昆虫と同じくらいよ」
「ははっ‥‥‥凄く虫が好きなんですね」
ステータスを見ると相手が自分にどれくらいの好意があるのかは数値でわかる。しかし、自分からの相手への好感度の数値は本人にはわからない。
「何、そのいやらしい笑い‥‥‥キモ。私があんたみたいな単細胞生物を、簡単に好きになるとでも思ってたの? かわいそうなウジ虫ね‥‥‥」
「むむ‥‥‥」
なんか腹立つな。
「悔しかったら、頑張って私の好感度が上がるように努力してみたら? もし80を超えるような事があったら、私を好きにしていいわよ。まあ、あんたには一生無理でしょうけどね」
「93」
「何?」
「ご主人様の俺への好感度は93」
「
変な言葉を口走り目を見開くご主人様。
その後、俺に背を向けフラフラと歩いてテーブルの下に隠れると、クッションに顔を埋め活動を停止してしまった。
───なに? 防災訓練?!
「‥‥‥お、お〜い」
「うるさい‥‥‥もう、こっち見んなっ‥‥‥」
───コイツって、もしかしたらちょっと面白い奴なのかも‥‥‥。
「‥‥‥あの〜」
「私は虫が大好き。その辺の虫も好感度90以上‥‥‥あんただけじゃない。残念よね‥‥‥。悲しいよね‥‥‥」
テーブルの下でブツブツと何かの呪文を唱えていらっしゃる‥‥‥。
多分コレは、俺に忌まわしい呪いをかけるためのモノなのだろう。
───死ぬかも!
「あの‥‥‥そろそろ話しても、いいですか?」
「‥‥‥はい」
俺の考えを聞いたご主人様は、父親であるガルシア伯爵がネロを襲った黒幕の可能性が高い事を理解してくれた。
ただ、本当に闇討ちなどをしたのかどうかはローズにも不明なよう。
ガルシア伯爵本人に真意を確かめるように頼んだが、ご主人様はどうも父親が苦手らしい。
いや、苦手とか嫌いとかではなく、怖がっているというべきか?
コイツにも怖いモノがあったんだな。
ご主人様が無理なら、俺が直接話して聞いてみようとも思ったのだが、それも頑なに拒まれている。
どうやら、俺の心配をしてくれてるようだが‥‥‥。
氷の女王が怖がる父親なんだから、魔王のような人物なのだろうか?
いや、おそらくコレが決められたストーリーなんだろう。
「ちゃんと大会への熱い意気込みを書きました?」
「書いたわよ」
「返事ありますかね?」
「‥‥‥多分ない」
「そうですか」
ガルシア伯爵へ、可愛い愛娘からの手紙を作成中。
手紙には優勝するように頑張る事と、勝つための秘策があるから安心するようにと書いてもらっている。
───これで他の令嬢への嫌がらせをやめて貰えればいいけど‥‥‥。
「後は、大親友になったカフスさんにも少し動いてもらいましょうか」
「‥‥‥あんた‥‥‥カフスと何かあんの?」
「僕らはマブダチです」
先程、成就しました。
「‥‥‥‥‥‥もう、カフスに相談するのも危険ね‥‥‥」
「え?」
「なんでもない‥‥‥。で、カフスに何させるの?」
「本当に嫌がらせはガルシア伯爵によるモノなのかどうか、調べてもらいましょう」
「そう」
正直、この世界で決まっているストーリーを変える事は、無理なんじゃないかと俺は思ってきていた。
リディア嬢のチュートリアルパワーにしてもそうだったが、きっと訳の分からない力が働いて、強制的に修正させられるんだろう。
多分、俺にどうこう出来るのは大会での結果と、それによるエンディングの選択だけ‥‥‥。
それでも、出来る事はやっておく。
「‥‥‥後、私は何すれば良い?」
「そうですね‥‥‥」
手紙を書いていたため、テーブルに座っているご主人様。
自然と側にいる俺を見上げる形になる。
残念だが‥‥‥上目遣いのローズは、とても可愛い‥‥‥。
「‥‥‥なんでも‥‥‥言ってね」
絡み合う2人の視線───
「じゃあ、俺に毎晩鞭をください」
「‥‥‥キモッ」
ステータスを上げるのに、鞭は大事。
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