15、ゲームだと、80超えるとイチャイチャしはじめる。



 無音の空間。

 空気は重い。


 ───いったいどれくらいの時間が経過したんだろう‥‥‥。


 数時間‥‥‥いや或いは数秒か‥‥‥。

 ここでは平等に訪れる時間の概念すら、稀有けうな存在なのだろう。

 

 そう、俺はまるで異世界に迷い込んだような、そんな錯覚を覚えていた。



 ───あっ‥‥‥ここ、異世界だったわ。




「‥‥‥」


「‥‥‥」


 ご主人様の部屋。

 上手く侵入出来たのは良かったのだが、俺には全く会話の切り口がわかりません‥‥‥。


 窓の外を眺めながら頬杖をつき座っている、顔の赤い美女。


 ───まずいな‥‥‥。


 あんな姿を見てしまった影響だろうと思うのだが、なんかいつもより可愛く見える‥‥‥。


 いかんいかん。

 何の為に、死ぬ覚悟でこの部屋に突撃して来たんだ‥‥‥。

 


「あの‥‥‥少し話してもいいですか?」

 

「どうぞ」


 こちらに顔を向ける事はなかったが、普通の返事が返ってきた。

 何故このタイミングでしおらしいんだよ‥‥‥。 


「実は昨晩、ネロが何者かに襲われたらしいんです」

 

「ネロって‥‥‥奴隷の?」


「そうです。リディア嬢のところの」


「大丈夫なの?」


「本人は大丈夫って言ってましたけど」


「そう、良かったわね」


 ───本当に知らなかったのだろうか‥‥‥。


 ‥‥‥お前の親父が裏で手を引いてるんだろ?

 いや、シラを切ってる可能性もあるのかな‥‥‥。


「心当たりとか‥‥‥ないですか?」


「‥‥‥ないけど」


「本当に?」


「あんた、もしかして私を犯人だと思ってないでしょうね‥‥‥」


 ゲームでは、完全に貴方が犯人です。

 ‥‥‥そして処刑されます。


「ご主人様の、大会に向けての意気込みを教えてもらっていいです?」


「‥‥‥なにそれ?」


「どれくらい王妃になりたいんですか?」


「あんた、絶対私を疑ってんでしょ‥‥‥怒るわよ」


「‥‥‥すいません」


 そう言ったご主人様の顔は、なんとなく寂しそうに見えた。


 ───コイツ‥‥‥やっぱり関係ないのかな‥‥‥。


 ガルシア伯爵が勝手に動いてるだけなのか?


「ねぇ、もういい? 疲れたから、木偶人形でくにんぎょうはそろそろ出て行って、亜空間にでも飲み込まれて消えてちょうだい」


「‥‥‥」


 木偶人形とか酷い言われようだが、何でそんな悲しそうな顔を俺に向ける‥‥‥。

 まるでコッチが悪者みたいじゃないか。


「多分、どこかの女に襲われたんでしょ? 容姿なんて無駄に高いとろくな目にあわないからね‥‥‥」


「‥‥‥流石、容姿100の人間の発言。碌な目にあう可能性すらない容姿45の俺には、口が裂けてもそんな事言えねぇ」


 俺は今からでも超美麗ネロ様に転生し直したい。


「‥‥‥ねえ‥‥‥あんた何で私の容姿知ってんの?」


「あ」


「自分の容姿も正確に知ってんのね‥‥‥あんたの方が色々胡散臭いわよ?」


 ───鋭いな‥‥‥。


 性格は悪いが、コイツは『教養』も脅威の98だったからな‥‥‥流石です。


 ‥‥‥もう全部話しちゃおうか。

 このままだとなんか俺が悪者みたいで嫌だし、そもそもそのつもりで来たんだ。


 信じてもらえるかどうかは怪しい所だが‥‥‥。


、今から俺が話すことを疑わずに聞いてほしいんだ」


「‥‥‥はい」


 何故か素直なご主人様。


 ───‥‥‥怖っ。


 でも、真剣な顔で俺を見つめてくる姿が、凄く可愛いと思ってしまったのは内緒だ‥‥‥。









「なるほどね、それで悪役の私を疑ってんの」


「えらく簡単に信じましたね‥‥‥」


「信じろって言ったのはあんたでしょ?」


「‥‥‥そうだけど」


 俺ならこんな話信じない。

 ‥‥‥なんなら、今の自分の境遇もまだ信じられなかったりする。

 ふと目が覚めたら、現実世界の自室のベッドに寝てて、夢だったなんてオチもあり得るんじゃないかと思ってる。


「面白いじゃない、その話の中で私は悪者なんでしょ?」


 ちなみにローズには『ゲーム』ではなく、『昔話』の中の世界と説明している。

 この世界観でTVゲームなんて理解できないだろうし。


「‥‥‥普通の女の子は、ヒロインに憧れるのでは?」


「こんな曲がった性格のヒロイン嫌よ」


「自覚あるんだ‥‥‥」


「フォローしなさいウジ虫」


 ナチュラルな暴言。

 

「良かった、調子戻ってきましたね」


「‥‥‥何、あんた私に虐められるのが好きなの? やっぱり生粋の変態なの?」


「違うから‥‥‥」


「そう、残念ね」


「ご主人様は『品位』が足りない」


「‥‥‥‥‥‥もしかしてだけど、あんたって人のステータス見れる?」


「あ、言ってませんでしたけど、なんでか見れますよ」


「‥‥‥私のステータス‥‥‥見た?」


「前に一度見ました」


「‥‥‥今後は見るの禁止だから‥‥‥」


「はい?」


「‥‥‥いいから。見たら身体中の毛をむしり取って、瓶詰めの刑よ」


 瓶詰めにしてどこに売る気ですか?


「‥‥‥そんな言われ方すると、余計見たくなりますけど‥‥‥」


「駄目だって言ってんでしょ! あんた、人の言葉もわかんない畜生なの?!」


 必死だな‥‥‥。


 面白そうだしこっそり見てやるか?

 どうせ見たことは相手にバレないんだし。


 ───よし。



【ローズ・ブラッドリィ】

教養98

体力55

感性95

品位75

〜〜〜〜〜〜

容姿100

好感度93



 別にこれといってステータスに変化なし。

 ‥‥‥まさか、勝手に見られるのが恥ずかしいとか、乙女チックな理由だったのかな?

 ご主人様も以外と可愛いところあるじゃ‥‥‥ん?



 ───好感度93っ?!



 ナニコレ?



「‥‥‥‥‥‥」


「ちょっと、なんで黙ってんのよ‥‥‥あんた、見てないでしょうね?!」


「‥‥‥あっ! み、見てません。はい‥‥‥見てません!」



 椅子に置いてあったクッションを手に取り、顔を埋めるご主人様。



 そして暫く沈黙。



「‥‥‥‥‥‥見た?」


「‥‥‥‥‥‥いいえ」



 また暫く沈黙。



「‥‥‥覚悟は出来てる?」


「ひぃ!」



 クッションを抱いたまま立ち上がるご主人様。

 その影からチラリと見えた顔は、真っ赤な赤鬼さんみたいだった‥‥‥。



 ───鬼が来るっ!

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