2、絵師の実力が凄い。
『ドキドキ! 奴隷パニック!』
気に入ったイケメン奴隷を1人購入して育成し戦わせる、倫理観のかけらもない乙女ゲーム。
勝者は王妃になるか、それとも奴隷との愛をそのまま育むかを選択出来る。
乙女ゲームに全く興味がなかった俺だが、そのカオスな内容にどハマりし過去にかなりやり込んでいた。
奴隷のステータスを上げるには、基本的に鞭をビシバシするしかない。
ゲーム内で清純派として通っているヒロインのリディアでさえ、なんやかんや言いながら奴隷を鞭で打ち、調教が終わるとしっかり牢屋にぶち込むという非道っぷり。
そして、無駄にイケメンな奴隷達は腰蓑1枚しか履いておらず、鞭で打たれた後に『俺以外の男の前でそんな顔すんなよ』などの、乙女ゲーム定番の甘い囁きを呟いてくる。
しこたま鞭で打たれて、ヒィヒィ言ってたくせに急にカッコつけんなよと‥‥‥。
何かが狂っているその設定に、笑いすぎてお腹が痛くなった事を覚えていた。
「そして、俺はその奴隷の中で唯一顔が平凡で、ステータスも最も低い不遇キャラ、アルバート君でしたとさ」
「‥‥‥アル、誰と話してるんだい?」
「独り言です」
「そうかい」
心配そうにコチラを見てくるイケメンレックスに、俺は満面の笑みで返事を返した。
───どうせ転生するなら違うゲームが良かったな‥‥‥。
今、俺たち9人のイケメン奴隷と1人のフツメン奴隷は、森で伐採の仕事をさせられている。
令嬢達が俺たちを買い付けに来るのは数日後なのだとか。それまでの間も奴隷の俺たちに休日などはない。
「うりゃっ!」
俺は目の前に生えている木を思いっきり蹴飛ばし、落ちてきた木の実を拾うと口に放り込んだ。
「アル‥‥‥さっきから何をやってるんだい? 拾い食いなんてしてたらお腹壊すよ‥‥‥」
「あ、お構いなく。小腹が空いてるだけなんで」
もちろん腹を満たすために、こんな怪しげな木の実を食べているわけではない。
───これは、生き残る為の処置。
「昨日から少し変だし‥‥‥まあ、アル本人が大丈夫ならいいんだけどさ」
‥‥‥どうやらイケメンレックス君に、かなり心配されてしまっているようだ。
まあ、確かに木を蹴飛ばして落ちてくるなんだかよく分からない木の実を頬張る人間がいたら少しひくよな。
それにしても、イケメンレックス君は本当にいい人だ。
───伊達に俺への好感度が高いわけではないな。
ちなみに、昨日イケメンレックス君と話してる時に気付いたのだが、何故か俺だけがゲームの主人公リディアと同様、自分や他人のステータスを見放題なようだ。
見たいと思うと、目の前にステータスウィンドウが現れる。
イケメンレックス君に確認すると、『ステータスってなんだい?』って言われたので、そもそもステータスの存在自体、他の人間は知らないようだ。
【レックス】
教養16
体力10
感性13
品位15
〜〜〜〜〜〜
容姿82
好感度85
これがいつでも覗き見できるイケメンレックス君のステータス。
全ての値は100が最大値だが、容姿と好感度以外は初期値だと20迄が最高。
はっきり言って、レックス君の初期ステータスはかなり高い。ゲームでもそうだったが、使いやすい有能キャラ。
ちなみに1番下の好感度ってのはステータスを見てる俺に対するモノ。85って‥‥‥これはもう男好きなのかと疑うレベルだ。
ゲームの時は好感度が60を超えたあたりから、コチラに興味を持ちだし恋人のような対応をしてきた記憶がある。
‥‥‥おお、怖い怖い。
「アルバート‥‥‥お前、何食ってんだ? サボってるとまた鞭で打たれるぞ?」
ボリボリと木の実を頬張る俺に爽やかに話しかけてきたのは、このゲームのメインヒーローのネロ。職業はもちろん奴隷。
前にも言ったが、このゲームは絵師だけがずば抜けて実力があるので、メインヒーローともなると‥‥‥もうね、めちゃくちゃ綺麗でカッコいいんだわ。腰蓑一丁だけど‥‥‥。
目の前でコイツを初めて見た時、腰を抜かしそうになったのは内緒だ。
完璧なイケメンって現実に出てきちゃうと、こんなに神々しくなっちゃうのな‥‥‥。
「あ、お構いなく。俺は木の実が大好物なんです。これを食べないと力が出ない」
「腹、壊すなよ‥‥‥」
超美麗ネロは、そう言うと眉を
彼は基本的に性格も悪くない。
初心者はとりあえずネロを選んどけば、美しいグラフィック(但し腰蓑一丁)も拝めるし、ステータスの伸びもとんでもないのでクリアーが楽。
───ネロの初期ステータスは‥‥‥。
【ネロ】
教養20
体力20
感性20
品位19
〜〜〜〜〜〜
容姿98
好感度32
これがメインヒーロー超美麗ネロの初期ステータスである。
コイツは育成での伸びも良ければ、初期ステータスもほぼMAXというチートキャラ。
‥‥‥それにしても、容姿98って‥‥‥そりゃもう美しいわな。
───そしてこれが俺こと、アルバートの本来の初期ステータス。
【アルバート】
教養3
体力3
感性3
品位3
〜〜〜〜〜〜
容姿45
好感度──
お分かりいただけるだろうか?
アルバートは、ステータスの伸びもめちゃくちゃ悪いくせに初期値もクソである。
───あまりにも不遇。
もしこの世界が本当にゲームと同じなら、俺を含む愉快な奴隷達10人の中から令嬢に選ばれ購入されるのはたった4人のみ。
残りの6人はその後、過酷な奴隷生活を送り衰弱して死ぬことになる。
つまり、後日訪れる令嬢の4人のうち誰かに拾われなければ、俺の生涯はとても短くなる可能性が高い。
そして、俺は10人の中で飛び抜けて初期ステータスが低く、見た目も平凡なアルバートときている。
これは非常にまずい。
もし主人公リディアや、他の令嬢が俺のように人のステータスを見れるので有れば、まずアルバートなんて選択しないだろう。
いや、断言しよう俺なら選ばない。
「そいやっ!」
俺はまた探していた木を発見すると、足を大きく振り上げて蹴飛ばした。
そして、ちゃんと落ちてきてくれた茶色とも紫色とも言えないグロテスクな模様の小さな木の実を拾い上げる。
実はこの木の実、食べると任意のステータスが1上がるという、訳の分からないレアアイテム『愛の木の実』だったりする。
本来、終盤の令嬢同士の戦いで戦利品として出てくるか、一度だけ発生する『奴隷が逃げた?』というイベントで、森に来た時のみ手に入るモノ。
主人公のリディアは、森にはその時以外来れないし、そもそも木なんて蹴飛ばさない。
しかし俺がいるのはその森。
これはヤッちゃうでしょ?
俺は誰からの愛も感じられない『愛の木の実』を口に放り込んだ。
「うむ、美味である!」
‥‥‥嘘です。
苦くて酸っぱくて味もそっけもない硬くて不味い固形物です。
ただ不味くても食べる。
───俺は令嬢に選ばれて生き残ってみせるんだ!
そして、なんでこんな事になったのかわからないが、謎を解いて元の世界に戻ってみせる!
「貴様、さっきから何をしている! 真面目に働かんか!」
ピシッ!!
「ぴえんっ!」
奴隷商人の愛のない鞭は、とてもとても
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