新たな発見
僕はまた普通の人間に戻った。そして彼女に伝えなければならないことがあるのでそれを伝えた。
「一つだけ伝えたいことがあるんだ。この街から離れた方がいい」
「……どういうこと?」
「出会った人の死の日付を見ていたんだけど、海岸に近づくにつれて、死の日付が今日の人が増えていった。おそらく今日、この街でなにかが起きる」
「なにかって、なに?」
「それは分からないよ。でも海岸に近づくにつれて増えるってことは津波とかじゃないかな」
彼女はそれを聞くとしばらく考えてから、僕に提案をしてきた。
「君に、いや、わたしたちにしか出来ないことを思いついたよ」
「できることって?」
「この町の人たちを助ける」
彼女は覚悟を決めた顔をしている。冗談半分で言っているわけではないようだ。
「何もできることなくない? 能力のことは伝えたくないし」
彼女の意見には賛成だった。だけど、できることが思い浮かばない。しばらく二人で考えていた。
「私、あるかも」
そういって彼女が手にとったのは自分のスマホだった。そして何者かに電話をかけた。
「お父さん、今話題になってる噂知ってる?」
彼女の父がこの町の町長だってことを今思い出した。そもそもまだ多くの人々が今日死ぬことなんて話題になっていないが、少し話を盛ったようだ。
「今日中に災害が起きるっていうやつだよ、今すぐに住民を避難させた方がいいんじゃない」
彼女は最初は優しい口調だったが、次第に激しくなっていった。
「住民を大切にすることが一番だって、いつも言っていたじゃん。住民の命よりも自分への評価の方が大切なわけ?」
彼女はため息をついて電話を切った。少なからず今彼女と電話をしていた父親は、彼女の憧れの対象とはかけ離れてしまっていたんだろう。
相手の声は聞こえないが、いい内容ではないことだけは分かった。
それとは関係なく、なんだか、また視界が青く見える。また文字が出てきたのだろうか。
「……あれ? また文字見えてるけど」
彼女がそう言ってきたので、疑問は確信に変わった。
「……日付、いつになってる?」
自分からの視点だとあまりはっきりと見えないのだ。掴んでも手がすり抜けて行く。この絶望感をまた味わった。
「今日」
「え? なんでまた?」
消えろ消えろ消えろと心の中で言った。もしかしたら消えるかもしれないからだ。
そうしたらゆっくりと目の前の青が消えていく。
「あれ、消えたよ」
彼女が僕を見つめてキョトンとしている。
「消えろって思ったら消えたよ」さっきはいくら願っても消えなかった。おそらく、日付が一度何らかの原因で消えると、自分でコントロールできるようになるのだろう。
「じゃあ逆に見えるようにできるの?」
そう言われて、僕は試す。
なんて心の中で言えばいいんだ? 出てこいでいいのだろうか? 出てこい出てこい出てこい……
そうしたら消えるのよりも早く文字が出てきた。
「すごい!」
彼女は目を輝かせている。電話のときとは大違いだ。
消えろ消えろ消えろ……
さっきよりもまた少し早く消えてくれた。回数をこなすごとに早く扱えるのだろうか。自分からだとどうやって消えていくのかがよくわからない。視界がクリアになるだけで消えたかどうか判別している。
「じゃあ、もしかして私にもできる?」
彼女は僕の能力を完全に楽しんでいる。まあ実際、僕も少し楽しかった。この能力のほうが、超能力者っぽいからだ。
出てこい出てこい出てこい……
ものすごくゆっくりと文字が出てくる。文字は左上から順に見えてくることがわかった。それと同時に、自分のを扱うのよりなぜかすごい疲れる。
「ごめん、西園寺さんのはめちゃくちゃ疲れるから、途中でやめる」
まだ西暦の半分しか出ていない。だから彼女がいつ死ぬかはわからないままだ。僕は心の中で唱えた。
消えろ消えろ消えろ……
力む必要などないのかもしれないが、どうしても険しい顔になってしまう。ゆっくりと消えていった。だが人のを扱うのはもう懲り懲りだ。
「俺の能力の新たな要素発見してる暇ないよ」
「確かに」
急に彼女は真剣な表情になった。そして「ちょっと、お父さんのところ行ってくる」と言う。
「一人で?」
「うん」
「じゃあ僕も、行きたいところ行ってくるよ」
「じゃあ連絡はラインで」
そう言って彼女は僕とは違った方向に走っていった。
僕はさっき下ってきた坂を登って祖母の家に向かっていた。町の人の避難を、知り合いなどに連絡するなどして少しだけでも手伝ってもらおうとしたのだ。
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