第3話 ナミトマラズズ

 コンコン


「入れ」


 ドアをノックすると返事が聞こえた。

入ると執務をしている殿下がいた。


「どうした?リーバァ」


 リーバァと言われた男はこう言った。


「無能皇子を他国の執事見習いにしてくれないだろうか?」


「はぁ?」


 殿下は何があったのかわからずに首を傾げた。自分だって最初はそう思った。


「無能皇子がここまで来てそう言いました、6歳にして無能となぜ言われているか知っていますがいささか可哀そうだとは思いませんか?」


「...」


 殿下は考えるように手を組み、下を向く。これは殿下が考える時にする癖だ。手元には確認している書類が積まれていた。


「エルドルン伯爵家は私に恩があることは殿下はもちろん知っていますよね?その恩を返してもらう時が来たっておかしくはありません。無能皇子は皇子ではなく私の息子としてエルドルン伯爵家の執事にさせるのはどうでしょうか?」


「リーバァ、貴殿はそれでかまわないのか?」


 殿下は少し驚いた様子をしている。私自身なぜこうしているのかよくわかりませんがこうした方がいいと思ってしまった。


「殿下、もう私たちはおじさんです、私は近衛騎士団長としての地位が

ある今、もう他国に赴くことがないでしょう、無能であろうでそうでなかろうが一人の若者が執事になりたいんだったら私は応援します、私も若い時はなりたかったので」


「リーバァ...わかった、至急エルドルン伯爵家に手紙を送る。大体1ケ月あればあっちも準備できるだろう、それまで貴殿がカミルの面倒を見よ」


「承知いたしました」


 殿下は諦めたかのようにカミルの願いを聞き入れて下さった。


「では失礼します」


 私はそうして彼の元に戻っていった。








あの兵士が帰ってくるまで晩御飯を何にするか考えていた。他の兵士がこっちを見ていることに気付きながらも無視をした。

 イノシシを久しぶりに狩ろうかな?もうそろそろで肉の備蓄がなくなりそうだから。そう思っているとあの兵士が帰ってきた。


「どうでしたか?」


「そなたの願いは...聞き入れた、しかし1ケ月待ってもらわないといけない」


 俺はその兵士の方を向きながら頬に涙が伝っていることがわかった。何度も涙を拭いたがそれでも涙は流れつづけた。

 やっと生きれる。気が抜けたのかその場で座り込み、涙が止まるまで立てなかった。

あの兵士は俺の方を見て微笑んでいた。

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