第2話 ”鬼化”
簡単に言えば俺は転生した。パワーベル王国の第三皇子カミル・パワーベルとして。それから六年が経とうとしていた。
カミルは離れにいた。公の場からも存在しない者として扱われてきた。
運がよかったことに見張りはおらず自由に外に行けるようになっていた。
ここまで雑な扱いを受けている理由はカミルが無能ということだけ。食事はもちろん自分で用意しないといけない。
そして当のカミルはというと自室の机の上にある地図を見ていた。
(やっぱか、ここ九の伝説録の世界だよな~)
そう感心していたがゲームの中ではパワーベル王国という国は登場していなかったはず。なぜだ?と疑問になっていた。主人公がいる国や登場した国が存在しており、主人公がいる村の名前すら一緒ならここが九の伝説録の世界であることを確信せざるおえない。
カミルはなぜパワーベル王国がないかすでに気付いていた。亡国した、これに限る。九の伝説録~その一では話の規模は村で済むが続作が出るごとに規模は大きくなっていった。その三ではこの大陸を舞台としており、魔王を倒すことが目的となる。魔王を倒すまで魔王はいくつかの国を滅ぼしていた。きっとそのうちに入っているはずだ。運の良いことにまだ魔王は滅ぼしてきていない。少しの猶予があると思ってもよい。
九の伝説録にはスキルというのが存在する。王族や貴族は必ず持っているとされている。しかし俺は持っていないと思われた。正確には文字化けしたのだ。読めないからないということにしておくという判断がなされた。
だけれども自分のスキルは人前で使えるようなスキルではないことは察することはできた。
俺のスキルは”鬼化”なのだから。九の伝説録では鬼は悪しき存在とされている。昔、この大陸で鬼が戦争を起こし人類を絶滅させようとしたのだ。戦争は最終的に人類側が勝ったのだが鬼の強さを理解した人類は鬼との戦争を再度しないように鬼を悪しき存在として迫害の対象にした。迫害は今も続いている。
ということで人前でスキルを使うと無能から鬼と認識され、最悪処刑されるかもしれない。そのことはわかっている。
カミルはこれからどうしようかと思っていた。逃亡しようものなら無視されるか見つかり次第首を切られるだろう。魔王側に行こうと思ったが昔の戦争で鬼は人類というかこの大陸に戦争したのでもちろん魔王側とも戦争していたはずなので行こうとすれば逝くことになるので行けない。
年齢的に6歳は無力に近い。スキルがあれば別であるが。
そして一つの考えに行きつく。それは皇子をやめることにもなるが滅亡する国の皇子だから意味がない。
(これならいけるはず)
逃亡するよりも何かするためにこの国を離れることは不思議ではない。
そう考えたカミルは離れを飛び出して本館の門番をしている兵士の元まで向かった。
離れから本館までは遠く馬を使っても半日かかる距離にあった。だから離れを監視する人がいないわけだ。それよりも6歳の体ではそんな距離はもちろん無理だがカミルにはスキルがある。
カミルの全身に黒い線が行きわたり、額からは角が一本現れる。
誰もいないことを普段から知っているのでそのまま走っていった。
本人は気付いていないがカミルの”鬼化”は鬼の中でもトップの強さを誇る鬼神であったため、6歳にして身体能力は人外であった。
そこからものの数分で本館が見えてきた。この速さをカミルは普通だと思っている。世間を知らないからだろう。
カミルは”鬼化”を解除する。そして歩き出し門番をしている兵士のところに行った。
本館に近づくと兵士はカミルに気付いた。無能だと知られていたが離れと本館の距離を知っていた兵士はどうしたんだろ?と思い声をかけることにした。
「どうしたんだ?」
カミルは自身が無能だと言われているがもし自分が貴族以外ならそう呼ばれることはなかったとなんとなく思っていた。
「他国の貴族の執事見習いになりたいんです」
兵士は何を言っているか一瞬理解できなかったが6歳の子に無能という烙印を押されていることに慈悲を覚えた兵士はその願いを聞き入れることにした。
「少し待っていろよ」
そう兵士は言って、他の兵士に門番をするように交代して本館に入っていった。
カミルは兵士が動いてくれたことに感動していた。そう思っていなかったから。兵士に断られたら無理くり王に直訴しにいこうとしていたのだから。
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