第7話「魔物の要塞」
ダンジョンをしばらく進むと剣戟の音が聞こえてきた。きっと先に行ったロイク達だろう。
「先に始めているみたいだね。僕達も加勢しよう」
「了解!ルシウス、今日はお前だけにいいカッコはさせねぇぜ!」
「私も行きます!」
ランスとメリィが敵の集団に突っ込んでいく。
「私たちも行こうか」
「――うん、行こう」
アレット先輩とリラまで駆け出して行ってしまった。
やれやれ、みんなやる気だ。俺も負けてられないな。
しかしここの魔物の群れを統べているゴブリンロードのこともあるし、あまり最初から飛ばしすぎると後々痛い目を見そうだ。しばらく能力強化魔術≪エンハンス≫はやめておこう。
「ルーテル先輩、俺達も行こう」
ランス達に続いて俺とルーテル先輩も戦線に合流した。
まず現れたのはゴブリンの群れ。およそ60体ほどだろうか。後方には数匹のオークの姿もある。
しかし今の俺達ならばこれくらい余裕だろう。
「うらああッ!獣爪戟≪ビーストクロー≫!」
ランスの放つ一撃に数匹のゴブリンが吹き飛ばされる。いきなり全力とはあいつらしいな。
ランスの得物はハルバード。そのリーチを活かして次々とゴブリン共を突き刺し、薙ぎ払う。
「スパーク!」
「氷柱≪アイシクル≫の刃≪エッジ≫!」
あとに続くのはメリィとアレット先輩だ。メリィはその華奢な身体から繰り出すレイピアの高速の刺突と、その柄に埋め込まれた触媒となる宝石で魔術を増幅し、高火力で敵を薙ぎ払う。
アレット先輩は大振りのファルシオンに氷属性を纏わせ、緩急をつけた剣技で敵を翻弄する。
ランスが先陣を切り、体勢を崩した敵をメリィとアレット先輩が後に続く。ゴブリン達の中には、この恐ろしいまでの連携から逃げ出そうとする個体も現れる。しかしそいつらを確実に狩るのが……。
「――逃がさない」
そう、リラだ。彼女は小柄な身体を活かして気配を消しつつ目にも止まらないスピードで敵の背後に迫り、両の手に握る短剣で確実に獲物を葬り去る。
「素晴らしいね、彼らの連携は。これなら今年の対抗戦は結構いいところまで行けそうだ」
一見無鉄砲に突っ込んでいるように見えるランス達だが、実際は事前に受けたルーテル先輩の指示通りに動いている。
さらに先輩は戦況を分析しながら、適宜通信魔術で指示を出している。ルーテル先輩の通信魔術は距離も短く一方通行でしか送れないが、ここは地下ダンジョンで、かつ俺達の小隊の連携の熟練度なら十分だ。
10分もすると戦闘は終わった。ロイク達の様子を窺うと、向こうも終わったみたいだ。
「負傷はないか?」
「ふん、遅かったじゃないか」
うん、大丈夫そうだ。
「みんな、一息ついたら、先に進もう。まだまだたくさんいるはずだ」
呼吸を整えたあと各自装備の確認を終え、先を急いだ。
道中も10匹程度の群れを潰しながらしばらく進むと、とても地下とは思えない巨大な空洞が現れた。その向こうに立派な鉄製の門が見える。おそらくあそこが、ゴブリンロードの寝床だろう。
扉に近づこうと空洞の真ん中に差し掛かったあたりで、突如周囲から法螺貝の音が鳴り響いた。
周囲を見渡すと、崖の上に夥しい数の魔物達がいた。基本的にはゴブリンで構成されているが全員剣や鎧を着こみ、リザードマンやオーク達も大量にいる。
「マズい、囲まれたか」
引き返そうにも後ろに油を撒かれ、そこに火をつけられた。これでは退けない。
「皆、どうか冷静に。敵の数はおよそ350。こちらは無傷で12名。全員でかかれば突破は不可能ではないはず。ロイク君、ここは年長者である私の指示を聞いてくれるかい?」
「クラスは違くとも先輩の指示ならば仕方あるまい。さあ指示を」
「では早速。ロイク君達の小隊は魔術が得意な方が多いみたいだ。それを活かして左右に展開するリザードマンとオーク達の足止めを。リザードマンは雷属性の魔術、オーク達は火属性の魔術に弱いはず。その間に僕達の小隊は速やかにゴブリンの群れを叩き、まずは数の不利を覆そう」
先輩の指示を受けた俺達は、正面切ってゴブリンの群れに突っ込む。
「ちいっ、ゴブリンとはいえここまで装備が整っているとなかなか厄介だな!」
「っ!レイピアだと決定打に欠けます。魔術をメインで戦うので射線に気を付けてください!」
ランスとメリィが敵の注意を引きながら戦っている。
「ルシウス君、あれを見て」
先輩に言われ見上げると、退路を塞ぐのにも使われた油のたっぷり入った壺がぶら下がっていた。
「あれを落としてそこに火をつけよう。僕達のここからではあそこまで届かないけど、もう少し近づけば紐が切れるはず。僕が攻撃魔術を放ちます。威力は弱いですが、ロープを切るには十分です。壺さえ落とせばリラさんのファイアで一気に引火させましょう!ルシウス君はそこまで僕とリラさんを守りつつ進んで。アレット達はここで敵を引き付けていて」
「わかった。行こう、リラ!」
「うん……!」
先を急ぐ俺たちの前に無数のゴブリンが立ち塞がるが、アレット先輩たちが一部を引き受けてくれているおかげでなんとか突破できそうだ。俺だって今まで遊んでいたわけではない。強化がなくてもやれる!
「よし、抜けた!先輩!」
「スプレッド!」
先輩の両手から無数の拡散する弾が飛んでいく。すべてのロープが切れ、油壷が落下してくる。いい精度だ。さすが3年生。いや、ルーテル先輩だ。
「今だ!リラさん!」
「ファイア!」
リラが火球を放つ。辺りに撒き散った油に届くと、一瞬で火柱が立った。すると近くにいたゴブリン達は一瞬で灰になった。
ゴブリンを一掃した俺達はロイク達の元に戻った。既にロイク達が半数ほど削ったリザードマンとオークの群れを狩るためだ。それにしてもロイクの奴、ほんとに腕を上げたな。この短時間でこれだけ倒すとは。
「よし、あとはこいつらを殲滅して親玉を潰すだけだな」
ウオオオオオオオオオオオオオオン!!
最後の攻勢に移った俺達の奥の、ゴブリンロードが座すはずの鉄の扉の中から、突如咆哮が響いた。
「なんだ今のは!?」
すると、重厚な扉がゆっくりと開いた。
中から現れたのは、ゴブリンロード――ではなかった。
「あれは、サイクロプスとデーモン!!どちらもこんなところにいるようなレベルの魔物では……」
サイクロプスの首には趣味の悪い首飾りがかかっている。よくみると一つ一つが人間とゴブリンの頭蓋骨だ。中央のは一際大きなゴブリンのだ。
そしてデーモンは少し小ぶりな王冠とくすんだ色の宝石をつけている。
なるほど、既にゴブリンロードは奴らに敗れてここはとっくに乗っ取られていたようだ。
そして再びの咆哮の後、サイクロプスが思いっきり地面を叩いた。
その直後、地面が激しく揺れ始める。
「マズい!崩れるぞ!」
地盤がもともと緩かったのか、地面に亀裂が走り、足元が崩れていく。
下に落ちていくとき、デーモン達の後ろに、赤いローブが見えた気がした。
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