第30話:監視

1人薄暗い部屋で多数のモニターを観察している男がいた。

彼は部屋の中にも関わらず、黒い外套で全身を隠し、笑っている不気味な仮面を付けていた。


「入ってもよろしいでしょうか?」

ノックの音と共に声が聞こえた。


「ああ、開いているから入っていいよ。」

男は回転する椅子を使って扉の方を向き、入ってくるように返事した。

その声は低音の合成音だった。


薄暗い部屋に少しの明かりが差し込み、女の子が入ってきた。

前髪で両目を隠した青髪ショートカットの女の子だ。

男と同じような外套を身に着けているが、顔の部分は見えるようにしている。


「№6、どこで正体がバレるかわからないから、仮面は外すなといったはずだが」


しかし彼女は悪びれずに返答した。


「だって蒸れるんですよ。それに私は前髪が長いから仮面なんか付けたら前が見えませんよ。」

「それなら前髪きったらどうだ?」

「髪は女の命ですよ?それ以上言うとパワハラになりますよ。」

「・・・。」


男は大きなため息をついた。


「わかった、とにかく座って報告してくれ。」


部屋には安っぽいパイプ椅子が何個が用意されており、すでに仮面と外套を付けた2人が座っていた。


「№6、ルールは守んなさいよ。私達はクソダサい服着て我慢してるのにさ。」

するとその1人が高い声の合成音で話しかけてきた。


「№7、貴方みたいにロクに敬語が使えないやつにルールとか言われたら終わりですね。」

「は?あんた喧嘩売ってんの?」


また男は大きなため息をついた。


「すまないが喧嘩は後にしてくれ。№6まずは報告を。」


しかし、男の言葉は誰も聞いていなかったらしく言い争いは続いている。

またまた男は大きなため息をついて、場が収まるまで黙る事にした。


「№7つらい事あった?」

その声は口喧嘩の合間にするりと入ってよく聞こえた。

もちろん合成音で作られた声だが、静かで聞き取りやすい声だった。


「え?№9いきなり何?」

「ここに来た時からイライラしてた。やっぱり彼らの世話が大変だから?」

「・・・まあそうだね。ほんと最悪な奴ら。だからこそ相応しいのかもしれないけどね。」

「ごめん。」

「謝るのは違うでしょ、役目を与えられただけで№9は関係ないし。」

「もう、いいですか?」

「チッ、№6あんたほんとむかつくわ。」


№7はそっぽを向いて押し黙った。


「あー、まずは勇者サルファについての報告いいかね?」

「はい、勇者サルファと戦いましたが、撃退され退却しました。」

「彼は勇者として相応しいと思うか?」

「・・・普通ですね。」

「厳しい意見だなあ・・・。」

「まず判断が遅いです。そして、仲間とアイテムの扱い方もたいして上手くありません。」

「私が見たところではそんなに悪くはない印象だが・・・、その言い方だと良い所ないじゃないか?」

「人柄は悪くは感じませんでした。だから普通です。」

「なら今後の成長に期待だな。」

「では報告を終わります。」

そう言って席を立ち退出しようとする№6を慌てて男は引き留めた。


「待ってくれ、その・・・勇者ターレスはどうだった?」

「ああ、あれですか。あれは駄目ですね。下手糞すぎる。私でもフォロー出来きませんよ。」


そう言って乱暴に扉を閉めて出て行った。


「駄目かあ・・・相変わらず厳しいな。」

「そろそろ私も時間だ。退出させてもらうがよろしいか?」

「了解だ、№9。これからもよろしく頼む。」

「承知した。」

彼女は滑らかな動きで退出していった。


「№7、順調か?」

「順調だけど、まだまだ時間かかりそう。」

「時間がかかるなら順調じゃないだろ?」

「ちょっと!その言い方なに!私だって一生懸命頑張ってんだから!」

「ああ、すまない。これからも順調に頑張ってくれ。」


最後に男はバレないよう小さくため息をついた。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る