第29話:転移陣

地下3階の探索は問題なく進み、やっと開けた場所に出た。

今までの通路と違いかなり広い部屋で、ミコが用意した明かりを先行させても全体が見えない。

ただ通路からでも、下り階段だけははっきりと見えた。

時間を確認すると13時になっていた。

もし1人で適当に進んでいたら、どれだけ時間が必要だったかわからない。


「やっと次の階段か。すべてみんなのおかげだ、ありがとう。」


俺はみんなに感謝の言葉をかけて、階段に向けて部屋に入ろうとすると、ミコが前に立ちふさがった。


「勇者様、もったいなお言葉です。ただ、この部屋の確認が終わっておりません。」

「んん?そうか・・・。」


明かりがあっても薄暗いので、たしかに警戒すべきなのかもしれない。

どうやって確認するのか見ていると、彼女は目を閉じたまま、階段の方を向いて動かなくなった。

その様子を見て心配だったが、仲間達はそれを静かに見ている。

すると突然ミコが部屋の真ん中を指さした。


「この部屋の中心に魔力の歪みを感じます。」


彼女の指摘のあった中心地に俺達は慎重に移動すると、人ひとり入れそうな小さな魔方陣が描かれているのがわかった。

召喚陣と違って光っていなかったので気付かなかった。


(階段まで一直線に歩いていたら足を踏み入れていたな。これは完全に罠、最悪飛ばされて石の中とかありえるな。ただこの大きさだと1人犠牲になった時点で気付くから全滅させるつもりはないという事か。)


「勇者様、これを見てください。」


念入りに魔方陣を調べていたミコが、付近に文字が彫り込んであるのを見つけた。

確認すると、「転移陣」と記載されていた。


(やはり罠?しかし、それなら文字を記載しないよな・・・。罠と見せかけて、ショートカットとか出来る可能性はあるな。)


俺は確認のため、全員通路に避難させてから転がっている石ころを投げ入れてみた。

・・・何も起こらない。

重さ?大きさ?それとも無機物だから?もちろん理由はわからない。


(仲間に頼るか?いや・・・仕事してたとき言われてたな、自分で考えろって。できるだけ自分で考えてから頼るべきだよな。)


まず携帯を取り出して、鑑定アプリで転移陣を映して調べてみる。

アプリが反応して説明が表示された。


転移陣:召喚部屋に戻るための移動装置。

    一度転移すれば、召喚陣から転移陣への移動が可能。


(なんだ、罠じゃなかったのか。便利な移動手段ゲット!鑑定アプリって最強だな!)


「魔道具で調べたところ、これは召喚部屋へ帰還出来る転移陣らしい。しかも召喚陣からこの転移陣にも移動可能だ。だいぶ疲弊しているし一旦帰還しよう。」

「待って下さい、本当にそうなのですか?嫌な魔力の歪みを感じます、ここは無視するのが上策です。」

「そうなのか?」


鑑定結果では安全なはずだが、ミコがここまで意見するのは珍しい。

どうするか悩んでいると、ココノがミコの肩を軽く叩いて、落ち着かせる。


「ミコ、勇者様の判断を疑うのか?この転移陣は問題ない、私にはわかる。これは必要な事だ。」

「必要?」


ミコは少し考えていたが、納得したようだ。


「ミコ、本当に危険なら無視するが・・・。」

「いえ、すみません。警戒しすぎたようです。問題ありません。」


ミコの急激な心変わりに逆に不安を感じたが、ここは鑑定結果を信じるしかない。

それに無視するにはあまりにも有効なショートカットだ。

しかし、何かあった時のために仲間の1人を先に行かせるのも手ではある。

現実なら我が身可愛さにそうするだろうが、ゲームの世界ぐらい勇者としてカッコつけたい。


「よし!まずは俺が使用してみる。」


俺が気合を入れて、転移陣に向き合った時、すでに仲間達がもう試していた。


「駄目だ。反応しない。」

「何もおきませんね。」

「これ壊れてるよ~。」


(カッコつけようとした俺の気持ちを返して!)


とりあえず、起動しない事がわかったので良しとしよう。

石ころと違って人なら反応すると思ったが関係なかったようだ。

仲間達もどうするかわからないようなので、頼ることも出来ない。


(もしかして召喚陣と同じなのかも?)


「試してみるから、下がっていてくれ。」


携帯を確認すると「転移陣」のアプリがいつの間にか追加されていた。


(なるほど、転移陣に入るとアプリが追加されるのか。)


さっそくアプリを起動すると、転移陣が光る。

うまく起動したようだ。


(よし!これでショートカットできる!)


喜んでいたのもつかの間で、俺は急激な眠気に襲われ、意識が遠のいていく。


(な・・・なんだ。急に眠く・・・意識が・・・まさか・・・。)


そのまま俺の意識は途絶えた。






















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