第26話:撃退
「ローサル、サイデル、バリカ」
ココノの風の魔術が完成し、無数のカマイタチが敵に向かって飛んでいく。
魔法の範囲は広く敵全体を攻撃したが、全身鎧の戦士が勇者ターレスとドワーフ娘の前に立ちふさがり、その分厚い鎧によって攻撃を防いでいる。
ただカバーできなかった(しなかった?)魔術師は、攻撃を受けてところどころ切り裂かれているが、それでも杖を構えた戦闘態勢のままだ。
(範囲は広いが魔術の威力はそこまでじゃないのか?)
「ローサル・・・」
また呪文詠唱が聞こえてくる。
ただ、ココノではない。
(敵の魔術師の詠唱?しまった!)
俺は反応できないでいると、ココノがみんなに命令を出す。
「ミコは勇者様の後ろに!ナナミは私を守れ!」
その命令通り、ミコは俺の後ろに素早く移動し、ナナミはココノの前に仁王立ちになった。
「サイデル、バリカ」
敵の魔術が完成し、風の刃が俺達を襲う・・・と思っていたが、何も起こらなかった。
(なんだ、どうした?呪文失敗か?)
俺は魔術師の様子をうかがったが、杖を構えたまま微動だにしていない。
そしていつの間にか勇者ターレスを含む他の3人?は姿を消していた。
「ココノ、なぜ敵の魔術が発動しなかったんだ?」
「わからない。呪文の詠唱に間違いはなかったはずだが?」
敵の魔術師は突然、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
(なんだ?ダメージに耐えられなくて倒れた・・・のか?)
突然の事で何が起こったか理解できなかったが、騙している可能性も考えて、強化した感覚で観察するが何の動きも感じなかった。
「ナナミ、敵の魔術師に近づいて確認してくれないか?」
「りょ~かい~。」
のんびりとした口調と違い、相手に警戒しつつも素早く距離を縮め相手の位置へと到達した。
彼女は倒れた相手を注意深く見て大丈夫だと判断したのか、体に障り確認し始める。
そしてフードや仮面を外して確認した途端動きが止まった。
「これは~どういう事なのかな~?」
彼女は指を口に当てて、しきりに首をかしげながらこちらへと戻ってきた。
「何か問題でもあったのか?」
「う~ん。言っても理解が難しいから、この子で説明するね~。」
そう言うと、俺の近くに倒れている黒装束の仮面を外して見せてきた。
仲間達も確認のためのぞき込んできた。
「なんだこれは?顔が・・・ない?」
仮面の下はマネキンのように真っ白でのっぺらぼうだった。
さらに黒装束を脱がして体を見せてくれたが、まるで球体人形だった。
「敵の魔術師もこれと同じだったよ~。」
(全身鎧の戦士はガチャで人形だとわかっていたから、もう一人敵がいると予想したのに、他の2人も人形だったとは。隠れた敵を見破れたのは運か良かっただけだったな。)
よく観察すると胸に奇妙な赤い宝石が埋め込まれているが、少し欠けているようだ。
「この胸にはめ込まれている赤い宝石はなんだろう?」
「これは人形師が操る人形に力を与え、操るための魔法石だな。これによって透明化の能力が与えられていたんだろう。」
「なるほど、これで魔力感知も無効化されていたのですね。」
「という事は、ナナミのタックルで宝石が欠けたから効果を失い、動きが止まったのか。」
「そいえば~あっちの奴も宝石が欠けてたよ~。ココノの魔法でダメージ与えてたんだね。」
「しかし反則的な能力だな。人形に強力な力を与えた上に複数操れるとは。」
「ただ人形師の魔力消費が多く、複雑な命令などは実行できない。それに人形自体もかなり貴重なもので、2体も失った彼らは当分おとなしくしているだろう。」
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